多くのデジタル機器は多機能にできています。しかし、それを縦横に使いこなしている人は多くない(?)のではないでしょうか。
私は製品の説明書を読むのが億劫でないこともあり、それなりに、機能は使っているつもりです。が、そうはいっても、使うのは一部に限られそうです。
私がテレビ番組を見るのに使う今のレコーダーは2年ほど前に手に入れたものです。
私はオンタイム(「番組が放送されている時間」ぐらいの意味に使っています)でテレビ番組を見ることはありません。それは、家庭用のビデオデッキを使い出した1980年代以降の習慣です。見たい番組があれば録画し、あとで好きな時間に、録画した番組を見ることをしています。
私が見るテレビ番組は限られます。
ニュースやワイドショーをはじめとし、テレビ局がスタジオで制作した番組は見ません。唯一ともいえる例外は、毎週日曜日の午前に放送される将棋対局だけです。しかも、録画せずに見ることが多い珍しい番組にあたります。
昔は「日曜美術館」を欠かさず見ていたものですが、今は制作方針が変わったのか、タレントをゲストに呼ぶことが多くなり、バラエティ仕立てのことが多いような気がし、見ることが稀の状態です。
昔はNHKのドキュメンタリー番組を好んで見ましたが、今は、「新日本風土記」や、かつて放送した「新日本紀行」の修復版を見るぐらいです。「ドキュメント72時間」も見る頻度が高い番組のひとつです。ほかにも、思い出せないけれど、見ている番組はありそうです。
もうひとつ思い出しました。BS朝日で毎週木曜日の夜に放送されている「カーグラフィックTV」も、興味のある車種が取り上げられているときは見ます。
また、春と夏の時期は、高校野球の放送を見ます。あとはまず見ないですね。
私が楽しみに見るのは、NHK BSプレミアムで放送される米国を中心とする古い映画と米英で制作された昔のテレビドラマです。ドラマとしては、「刑事コロンボ」と「名探偵ポワロ」のシリーズを毎回録画して見ています。
米英のテレビドラマは日本語に吹き替えられています。そのドラマを最近、これまでにない方法で見ることを始めました。そのために、搭載されていながらその機能の便利さに気づかなかった機能を初めて使いました。
使いこなしていると思っているデジタル機器も、案外使いこなせていなかったことを実感し、本日分の更新につながりました。
多くのレコーダーに搭載されていると思われる機能に、音声切り替えと字幕表示の機能があります。
私は、「刑事コロンボ」と「名探偵ポワロ」は、過去に放送されたときに録画し、DVDに保存して残しています。それだから、見たい回は、保存したDVDを捜せばいつでも見ることができます。
それとは別に、レコーダーに搭載されているハードディスクドライブ(HDD)にも録画して残した「刑事コロンボ」があります。今確認すると、16エピソードが残っています。いずれも、私が好きなエピソードで、これであれば、見たくなったときにすぐに見ることができます。
好きなエピソードですから、これまでに何度も見ており、粗筋は憶えています。
最近も、シリーズの1作目の「殺人処方箋」(米国初回放送:1968年2月20日|日本初回放送:1972年12月31日 以下、同)を見ようと考えました。コロンボシリーズは、旧シリーズと新シリーズを合せて全部で69作品があります。
その記念すべき1作目が「殺人処方箋」です。正確にいえば、これは、2本あるパイロット版の1作目で、この評判が良かったため、シリーズ化が実現しています。
本作を見ますと、ピーター・フォーク(1927~2011)が演じるコロンボが、のちのコロンボとは雰囲気が違います。たしか、着ているコートもその後のコートとは違っているはずです。
ともあれ、よく知っているエピソードを見ようと考えてはみたものの、これまでと同じ見方では物足りないと考え、原音のまま見ることにしました。
コロンボといえば、小池朝雄(1931~1985)が吹き替えた声が耳に馴染んでいますが、ピーター・フォークの台詞をそのままの声で楽しもうと思ったのです。
とはいえ、英語だけでは細かいニュアンスがわからないため、日本語の字幕を表示させました。
日本語に吹き替えられた米国のテレビドラマを英語と日本語字幕で再生する機能を、レコーダーを使い出して2年目にして初めて使ったというわけです。
米国の映画では当たり前ですが、米国のテレビドラマをそれで見るのはなかなか面白いです。英語の台詞に耳を澄まし、日本語の字幕を見ることで、英語の言い回しのようなものを知ることもできます。
ピーター・フォークの地声で見るコロンボは新鮮な感じで楽しめました。
それに味をしめ、コロンボのシリーズの他の作品も見ました。
続けて見ることで、それまで意識しなかったことに気がつくことがあります。たとえば、別々のエピソードの犯人が乗る車が同じであったりすることです。
私が気がついたのは、コロンボシリーズの実質1作目(通算では3作目)の「構想の死角」(1971年9月15日|1973年8月25日)と、ピーター・フォークが監督をした「パイルD-3の壁」(1972年2月9日|1973年8月11日)の犯人が同じ車に乗っています。
車の型はわかりませんが、メルセデス・ベンツの2ドアクーペです。車体の色はメタリックシルバーで、ルーフの部分だけが艶消しの黒です。特徴的なのがヘッドライトで、丸いライトが縦にふたつ並んでいます。
フロントのデザインが似ていますので、下に埋め込んだ動画で紹介されている”1971 メルセデス・ベンツ 280SE 3.5 Coupe”でほぼ間違いなさそうです。
「構想の死角」は、若かったスティーヴン・スピルバーグ(1946~)が監督したことで知られています。
そのファーストシーンは、犯人が運転するこの車で始まります。
ジャック・キャシディ(1927~1976)が演じるケン・フランクリンは、ジム・フェリスとのコンビで、メルビル夫人が数々の事件を解決するミステリーシリーズを出版してきました。
しかし、原稿を書くのはジムだけで、ケンは一行も書くことはなかったのでした。ジムが別の分野の作品が書きたくなり、コンビを解消することになります。
コンビを解消されたらケンの立場はなくなります。そこで、ケンがジムを自分の別荘に誘い、そこで殺そうという構想を立てます。
ジムが事務所でタイプライターを使って文字を打ち込んでいるとき、ケンが車でやって来ます。高層階の窓からその車が見え、ワンカットで両者を観客に見せています。
まだキャリアが浅かったからか、事務所内の撮影で気になることがあります。午前10時の設定であるのに、画面を見ていると、夕暮れに見えることです。私だけがそう感じたのかもしれませんが。
窓から見える階下の街の風景が、夕暮れ近い感じに見えます。また、室内を明るくするための照明が赤っぽく見えるため、午前の光の色に見えません。
もっとも、本作の撮影監督は、オーソン・ウェルズ(1915~1985)の『黒い罠』(1958)で撮影監督をしたラッセル・メティ(1906~1978)ですから、撮影には手抜かりなかったはずですけれど。
何度見ても、午前10時のはずなのに、私には夕方の時間に見えて仕方がないです。
刑事コロンボシリーズで私が最も好きなエピソードは、41作目の「死者のメッセージ」(1977年11月21日|1978年4月8日)です。
本作では、ルース・ゴードン(1896~1985)が演じる高齢のアビゲイル・ミッチェルという高名な推理作家が犯人です。アガサ・クリスティ(1890~1976)がモデルともいわれています。
アビゲイルは生涯独身で、姪を自分の娘のように育ててきました。その娘がある男と結婚しますが、半年前のある日、ふたりでボートに乗って海に出ました。
そのボートから姪が海に落ちて死に、姪の夫だけが戻ってきます。アビゲイルは姪の夫のいい分を疑い、姪の敵(かたき)を取るため、彼を金庫に閉じ込め、息の根を止めるのです。
明かりがつかない真っ暗な金庫に閉じ込められ、そこから出られずに死んでいくしかないとわかったときの絶望感は、想像するだけで恐ろしいです。
そういえば、江戸川乱歩(1894~1965)が、死んだと思われて棺桶に入れられて土中に埋められた男が、柩の中で息を吹き返したときの恐怖を書いていました。
それに通じる恐ろしさです。
アビゲイルを演じたルース・ゴードンの演技がいいです。それで本作を私が一番好み、繰り返して何度も見てしまうのです。
本作を監督したジェームズ・フローリー(1936~2019)は、前年に公開されたコメディ作品の『弾丸特急ジェット・バス』(1976)も監督しています。その作品にルース・ゴードンが出演しており、本作で、そのコンビが復活した形です。
私はその作品を見たことがありませんが、下に埋め込んだ動画では、ルース・ゴードンが冒頭から登場していますね。
また、動画を見て、「刑事コロンボ」シリーズで、コロンボの部下のウィルソン刑事を演じたボブ・ディッシー(1934~)の姿を見つけることもできました。
今回、初めて英語で再生させ、ルース・ゴードンの地声でアビゲイルの演技を見ました。何度も見ているので、日本語の字幕を表示させなくてもだいたいのところはわかります。
コロンボのあとを追ってルース・ゴードンがちょこちょこと歩く演技も愛らしいです。同じ味を出せる日本の女優はいないでしょうね。