昨日からあるものを急に捜し始めました。「ハンドピース」です。
歯科医師が手にとって、患者の歯をキーン! と削るのに使う器具も「ハンドピース」というのでしょうか? ネットで「ハンドピース」と引いてみると、それが一番上に表示されました。
私が今探しているのは、「エアブラシ」の技法で絵を描くのに使う「ハンドピース」です。
油絵具を使うようになる前、私は当時流行となっていた「ハイパーリアリズム」なイラストに興味を持ちました。まるで写真のように描かれたイラストで、実際、写真よりもリアルに描けることから、写真の代わりに商品のラベルなどにもそうしたハイパーリアリズムなイラストは使われました。
それらのイラストを描くのによく用いられるのがエアブラシであると知り、私は早速道具を買い求め、当時はネットがありませんでしたので、画集を手当たり次第に買い求めたりして、独学で技術の習得に励みました。
映画『エイリアン』のデザインをしたのは、スイスの画家、H・R・ギーガーですが、彼はエアブラシだけであらゆるものを表現することができると知り、私はギーガーを真似てハンドピースをフリーで使ったりもしました。
おそらく、知らない人が多いと思いますので、ここでエアブラシについて少し書いておきますが、エアブラシというのは“超精密なスプレー装置”といったらいいでしょうか。
水で薄めた液体状のアクリル絵具をハンドピースの塗料カップに入れ、人差し指でボタンを押しながら手前に引く操作を微妙に繰り返し、なおかつハンドピースを支持体に近づけたり離したりしながら絵具を吹き付けて絵を描いていきます。
虫眼鏡を使っても確認できるかどうかわかないほどの点々ですが、点描画(「点描」)の描法に最も近く、現代の点描画法といっても間違いではないでしょう。パレットで混色するのではなく、純色を何度も吹き付けて望みの色を作ることをする点なども、点描画と親和性を持ちます。
スプレーの要領で色をつけるわけですから、飛び散った絵具で色がついてしまっては困るところは、マスキングといって、マスキングテープやマスキングシート、トレーシングペーパーに新聞紙など、何でも使って覆います。また、マスキングは、キッチリとした色面で境を付けたいときにも利用します。慣れた人は、それを自分の手や指を器用に使ってすることもします。
しかし、H・R・ギーガーは、そうしたマスキングを一切せず、ほとんどホワイトとブラックの絵具だけを用い、ある人にとってはグロテスクに見えるような作品をフリーハンドで描きます。ハンドピースの先を支持体に近づけるほど小さな点を描いたり線を引いたりすることができます。
日本では、森秀雄さんが「偽りの青空」(だったかな?)などのシリーズを残すなど、エアブラシだけを使って描く画家として知られています。森さんについて書こうと思ってネットで調べ、今年の9月に亡くなっていたこと遅ればせながら知りました。
森さんが亡くなったことを報じる記事を見て意外に思ったのは、喪主として奥さまの名があったことです。ということは、後妻をもらわれたのでしょう。なぜなら、先妻は、今から20年近い昔になりますか、二階にあったアトリエの窓から(だったかな?)侵入してきた何者かによって惨殺されているからです。あのときの犯人は捕まったのでしょうか?
森さんが作品を製作する過程を伝える映像が、私が保存しているビデオテープに残っています。昨日、ふと見たくなり、再生させて見ました。1991年の1月から3月にかけ、NHK教育で放送された美術番組に「絵画に親しむ・アクリル画の世界」がありまして、私はその全放送を録画して残してあります。

番組では、アクリル絵具を使って製作している画家のアトリエを、絵本作家の伊勢英子さんが1人ずつ訪ね、製作の様子を見せてもらったり、製作に関する話をお伺いする形式になっています。その番組の4回目(1月29日放送)に森さんが登場しています。
実は、私がこのビデオを見て確認したかったのは、6回目(2月12日放送)に登場する星憲司さんの製作風景です。
番組が製作され、放送になった当時、星さんは大阪教育大学の研究室にアトリエを持ち、非常に興味深い作品を製作する過程が番組で紹介されました。
現在、星さんがどのような作風の作品を製作されているか知りませんが、当時は、エアブラシなどを巧みに使い、支持体の上の絵具が手前に浮き上がって見える不思議な作品を製作していました。
ここからは昨日の本コーナーで書いたことにつながる話になります。来年早々にある私の姪の結婚式で使う「ウェルカム・ボード」というものの製作を姪から頼まれたことを書きました。そのボード作りに、星さんの製作方法が応用できないか、と思いついたのです。
できたら、文字を浮かび上がらせるようなことをしてみたいと考えていますが、そのためにもエアブラシの道具はすぐ必要になります。その肝心のハンドピースをどこかに仕舞い忘れ、途方に暮れているわけです。
ハンドピースに圧縮した空気を送るためのエア・コンプレッサーとチューブはあります。あとはハンドピースだけです。もしも見つからなかったら、この際ですから、ひとつ買い求めることにします。
探しものをしたことで、思わぬ収穫もありました。以前買い、ストックしてあることを忘れていたアクリル絵具が10色ぐらい見つかったことです。

見つかった色は、カドミウム・イエロー・ライトにカドミウム・オレンジ、イエロー・オレンジ・アゾ、ロー・シェンナー、ロー・アンバー、セルリアン・ブルー、コバルト・ブルー、ウルトラマリン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、クロミウム・グリーン・オキサイドです。これらの色を新たに揃えたら、エアブラシのハンドピースがひとつ買えるぐらいの金額、でしょうか?