ここ数回、本コーナーで取り上げる話題は音に関することです。私の関心がそちらへ向いているからです。
きっかけは、ZOOMの“M3 MicTrak”というM/S方式のマイクがついたオーディオレコーダーを導入したばかりだからです。
昨年4月には、同じZOOMから出ているフィールドレコーダーの“F2”を購入しました。

どちらにも同じ録音機能が搭載されています。それは32bit floatというもので、これが実に画期的に私には思われます。
F2を使っている時から、庭で聴こえる野鳥や虫の声、雷鳴の音などを録音していました。しかし、F2はラベリアマイク(ピンマイク)が付属し、基本的には、マイクを胸元に付け、話す声を収録するのに最も適(かな)っています。
それを使って自然の音を収録することもでき、M3 MIcTrakを使い出すまでは、それで満足していました。
しかし、M3 MicTrakを使って幅の広いステレオで収録した音を聴くと、F2で自然音を収録する気にはならなくなりました。
それぞれの機器にはそれに合った使い方があり、F2は声の収録に最も適していることを再認識しました。
そこで、F2を使い、自分の声を収録してみました。マイクは、上から三番目のボタンがあるあたりに取り付けています。
とりあえずということで、今読んでいる山口瞳(1926~1995)のコラム集『男性自身』にあった一部分を音訳してみました。
決して大きな声で音訳しているわけではありません。自分の耳にやっと届くぐらいの声の大きさです。そのように小さな声でも、それなりの音の大きさにできるのが、私には32bit floatの最大の魅力です。
32bit floatで録音する場合は、通常の録音と違い、録音時に録音レベルを調節する必要がありません。それだから、この技術で録音するレコーダーには、録音レベルが調節できないようになっています。
ですから、録音を終えた音声ファイルは、audio editorで音の大きさを自分の望む大きさに戻すことが前提となります。
私がその編集に使うのは、iZotopeの”RX 10 Standard”です。前回の更新で、これを使って、以前録ったウグイスの声が入った音声ファイルを、RX 10 Standardにプリセットされている音量調整機能で調整し直したものを紹介しました。
F2を使って録った自分の声も、RX 10 StandardのLoudness Controlで音の大きさを整えています。
全部で23あるプリセットから、今回は、”Audiobook Delivery”を使っています。そのプリセットは、次のような設定になっています。
- True peak [dB]: -3.0
- Integrated [LKFS]: -20.0
- Tolerance [LU]: 2.0
この設定でレンダリングすると、人の声が聴きやすい大きさになると思います。プリセット名が”Audiobook Delivery”で、オーディオブック用の音声ファイルに適しているといえましょう。
32bit floatで録音した音声ファイルは、自分で音声レベルを調整するのが前提であることを書きました。それだから、自由にレベルが変えられますが、誰に聴いてもらっても聴きやすいレベルはあるはずで、それを客観的に適用してくれるプリセットがあると安心です。
こんな風に、今回はM3 MicTrakがありながら、敢えて、F2を使って自分の声の収録をしてみました。
それぞれの機器は、用途にあった使い方をしたときに最も有効に働きます。それを再認識する機会となりました。