日本の株式市場には、一日の取引の中で、株価の上限と下限に制限を設けてあります。米国の主要な株価であるダウ平均株価などでは、そのような値幅制限はない(?)と聞きます。
日本の場合は、時によって値動きが異常に大きくなり、それによって個人投資家が損害を被ることがないよう設けられているのだと思います。
制限値幅の上限を「ストップ高」、制限値幅の下限を「ストップ安」といいます。
私は興味本位で2004年の大型連休明けに株式投資の真似ごとを始めました。
何も知らなかった頃(今も何も知らないのと一緒ですが)は、怖いもの知らずで、値動きの大きな銘柄を買っては、多くの場合は損をし、たまに得をすることがありました。
ときには、その日に買った銘柄がストップ高になることもありました。
本日の日経新聞を読むまで、昨日の東京株式市場でそんなことが起きていたを知りませんでした。
その記事の見出しには「ソシオネクスト株、ストップ安」とあります。
私はソシオネクストという会社があったことも知らず、その会社の株価が直近に大きく揚がり、その後、短期間で大きく下がっていたこともまったく知りませんでした。
日経の記事を読み、ソシオネクストという会社が、半導体を設計する会社であることを知りました。
記事によりますと、パナソニックHDと富士通の半導体設計開発の事業を統合し、2015年にソシオネクストが発足したそうです。日本政策投資銀行(政投銀)がこれを支援したということですから、国策会社の意味合いもある(?)でしょうか。
同社は昨年10月に新規株式公開(IPO)したということですから、株式市場に上場してまだ一年にもなりません。同社の株は、富士通が全体の15%、政投銀が15%、パナソニックHDが7.5%で、全体の37.5%を保有していたことになります。
同社は半導体の設計に特化することで、製造工場を持たない「ファブレス企業」であったということです。半導体の製造は、台湾積体電路製造(TSMC)に委託していたそうです。
半導体業界は、2010年代に、製造を切り離して技術開発に特化する流れが強まり、それを受けて、ソシオネクストが設計に特化する道を選んだのでしょう。
それが、今はまた、半導体の製造が重視されるようになり、製造会社が自前で設計をする流れとなってきているようです。
同社の株価の動きを確認しますと、今年の春先から6月後半にかけ、異常な勢いで上昇していたことがわかります。3月はじめの頃の株価は8,810円で今年の最安値をつけています。
日本の株式市場は、ほとんどの銘柄が100株単位で売買するようになっています。ですから、最安値のときでも、同社の株を購入しようと思ったら881,000円の投資資金が必要になります。
私は利用したことが一度もありませんが、信用取引を使って、個人が同社の株式を売買した人もいたでしょう。
今年になって、世界的にも日本の株価が強い動きを見せてきましたが、それを象徴するように、同社の株価は力強い右肩上がりを見せ、先月21日の取引時間中に28,330円の上場来高値をつけています。3月の安値からは3.2倍強の値上がりです。
上場来高値で取引が成立したということは、1株を28,330円で売った人がいて、買った人がいたということです。その株価で100株購入するには2,833,000円の資金が必要になります。
同社の株価の値動きは、翌6月22日から大きく転調したといえましょう。株価の値動きを示すローソク足チャートを見ますと、翌日に大きな陰線を作っています。
その後は値を戻すことがなく、昨日の取引は、取引が始まった寄り付きから、制限値幅下限のストップ安になり、一日、そこに張り付いたままでした。
自分が保有している株が急に下がったりすると売りたい気分になりますが、ストップ安に張り付いたままでは、売りたくても売れず、同社の株の保有者は、不安な気持ちになったでしょう。
日経の記事を参考にしますと、前日の終値から23%安い16,950円で取引を終えています。前日の終値が20,850円ぐらいとすると、3,900円ほど一日で下がったことになり、それが100株ですから、評価益が390,000程度のマイナスになります。
昔、値動きの激しい株をデイトレード感覚で扱っている中で、一株単位で売買できる株を買い、買値から一気に30万円ぐらい下落することに見舞われたことがあります。
そこで売ったら30万円の損です。もしかしたらまた揚がるかも、と根拠のない願望を持って待っていたら、また元の値に戻ることがあり、そのときは損をしないで済みました。
ソシオネクスト株の話に戻します。
日経の記事を読みますと、気になることが書かれています。
同社の株の35%を保有していた富士通と政投銀、パナソニックHDが、今月5日の取引終了後、3社が保有する同社の株をすべて売却することを発表したそうです。
その翌日である昨日(6日)、同社の株が寄付きから一日、ストップ安に張り付いたことになります。
途中で書きましたように、今月21日に上場来高値を付けた翌日、大きな陰線を引いて下落していますが、もしかしたら、この日の取引で、3社が保有する株を手放すことはなかったのだろうか、と想像します。
そのあとも、6月26日、27日、28日と続けて3日間株価が下落しています。
この値動きを見ますと、この短期間に、大株主であった富士通と政投銀、パナソニックHDが大半の保有株を集中的に手放したのでは(?)と根拠のない想像してしまいます。
3社がすべての株を売却すると発表した今月5日は、全体の35%の株が売られたのであれば、ストップ安では足りないぐらいの下落があってもいいはずですが、その日の株価は高いまま維持されています。
それとも、5日の取引が終わったあとに売却を発表したことで、昨日のストップ安が起きたのでしょうか。
今月5日の終値で計算すると、3社合計の売却額は約2800憶円になる、と日経の記事にあります。
政投銀は別にして、富士通は今後、情報技術(IT)サービスに経営資金を集中させる方針だそうです。また、パナソニックHDは半導体事業からは撤退し、成長が見込める車載電池などに注力すると日経の記事は書いています。
半導体業界を巡る流れが変化していることはすでに書きました。それを受けての方向転換と採れなくもありません。
しかし、政投銀も加わって目指していたにしては、先行きの見通しの甘さが指摘されてもいいように個人的には思えます。
個人投資家の多くは、値動きの良さに敏感に反応しただけかもしれませんが、異常な高値で同社の株を手に入れてしまった人は、途方に暮れてしまいかねない出来事です。
日経の記事には「ソシオネクストショック」と嘆いた市場関係者がいたことも書いています。
同社の株価がストップ安になったことでか、昨日の日経平均は値下がりし、700円ほど下がる場面もありました。
同社が半導体設計をするため、ほかの半導体銘柄にも影響が出て、東京エレクトロンが4%、ルネサンスエレクトロニクスが5%安を記録する場面があったそうです。
春先から続いて来た日本株の上昇を牽引した銘柄のひとつがソシオネクストで、それがここへ来て急落したことで、今後、日本の株式市場に悪影響を与えることがないか、懸念する声もあると日経の記事にはあります。