2004/03/04 妖しい魅力の「球体関節人形展」

昨日、ちょっと刺激的で魅力的な展覧会を見てきました。

現在、東京・江東区東京都現代美術館で開催中の「球体関節人形展」(2004年2月7日~3月21日)です。

「球体関節人形」というのはあまり馴染みのない言葉ですが、意味はそのままで、「関節の部分に球体を入れることで自由なポーズを取れる人形」を総称するようです。

同展のチラシ(表)
同展のチラシ(裏)

私がその展覧会のチラシを目にして直感的にイメージしたのは、シュールレアリスムの作家ハンス・ベルメールの人形作品群です。

今、手元に彼の作品集を持ってきましたが、その帯には次のように書かれています。

腐敗と死の匂いをまとい、肉塊と化して陵辱される人形(ドール)たち

彼の一連の作品をご覧になったことがない方でも、上のキャッチ・コピーから、ただ単に可愛いだけの人形ではないのを想像されることと思います。実際の作品は、その想像の遥か上をいきます。

彼が造り出した人形たちは、全て少女の身体を持っています。その剥き出しの裸の少女たちをエロティックにしているのは、女性器が深く刻まれていることです。

私が持つハンス・ベルメール人形写真集 “The DOLL”(表紙)
私が持つハンス・ベルメール人形写真集 “The DOLL”(裏表紙)

今回の展覧会に展示されている人形作家たちも、ベルメールに深く影響を受けているようで、会場に一歩足を踏み入れると、一種独特な空気に包まれた気分になります。

人形展という性格からか、若い女性の入場者が多く見られました。また、昨日は平日であるにも拘わらず、想像していたよりも多くの鑑賞者がおり、人気のほどが窺えました。

今もハンス・ベルメールの影響を受けた作家たちの作品であることを書きましたが、そこに展示されている人形たちは圧倒的に少女像が多く、剥き出しの裸で静かに佇んでいます。そして、彼女たちの特徴である、深く刻まれた女性器がどうしても目に入ってきてしまいます。

といって、今度は彼女たちの顔に視線を転じると、そこには少女漫画の主人公のような、あるいは近いところでは、芥川賞を最年少で受賞した綿谷りささんに通じるような顔立ちが載っており、つぶらな瞳であらぬ方向を見つめています。

作品の足元には作家の名前と共に、制作に使用された材料が記されています。ある作品の材料には「陰毛」と書かれています。その局部を視ると、確かに陰毛が貼り付けられています。しかし、脱色されたようなふわふわした陰毛で、生々しさは極力排除されています。

また、会場には写真作品の展示もあります。それらは、ドールに見立てた生身の女性を撮った作品です。写真の中の彼女たちも、会場内の“本物のドール”同様につるりとした陰部にクレバスを一種の“暗号”のように刻んでいます。

このような作品群を見ながら、私の頭の中には様々な考えが浮かんでいました。

ハンス・ベルメールにしろ、今回の展覧会で作品を展示している人形作家たちにしろ、「究極的には少女の陰部を表現したいがために作品を制作しているのではないか」 という考えです。

陰部というのは正確ではありませんね。陰部そのものではなく、それを柔らかく包む外側の「微妙にして美的なふくらみと窪み」と表現した方がより適切でしょう。

実をいって、私もその部分は造形的に人間の身体の中でも最高レベルの美しいフォルムを有していると感じています。ですから、人形作家がそれを表現したい欲求を強く持っていることは納得できてしまうのです。

今回の展覧会で特徴的なのは、女性の作家が多いということです。そして、男性の人形作家よりも女性の方が神経が細やかであるように思われます。会場内には、日本のこうした人形作家の先駆者的存在の四谷シモンの作品も展示されていますが、それらはいかにも男性作家によって作られたことが如実で、粗さが目立つように感じられたほどです。

人形遊びというと反射的に女の子をイメージしてしまいますが、女性という生き物は大人へと成長しても、男性にはない人形への思い入れが強く残っているものなのかもしれません。そうした女性の内面は、男の私には容易には窺い知ることができない究極的な謎の部分です。

ところで、今回の企画展の監修者に押井守の名前があります。私はあいにくアニメーションの知識はほとんど持ち合わせていないため彼についてもほとんど知らないのですが、アニメファンであれば、常識のように彼の名前はよく知っているのではないでしょうか。

その押井監督による新作『イノセンス』が6日の土曜日から上映が始まるのだそうで、それに合わせて企画された展覧会の性格を持つことを遅ればせながら知りました。

これについては、先日放送された「BB-WAVEtv」(テレビ東京/土曜日22:30~22:54)という番組でも紹介されています。それによれば、新作『イノセンス』が生まれる原点には、押井監督が学生時代、写真集の中に見つけた少女の人形に恋をしたことが大きく関わっているようです。

企画展の規模としては大きなものではなく、一通りぐるりと見るのにもそれほど時間はかかりません。しかし、その場から去り難い気分にさせられるのはなぜでしょう。できるものなら、展示されている作品から一体連れ帰りたい気分です。

しかし、人形である“彼女”を自分の部屋に飾ろうものなら、必ずや魅了されてしまい、他のことが手につかなくなりそうなことは目に見えています。

ともかくも、今回の展覧会を通して押井監督の『イノセンス』にも関心が芽生え、アニメーション作品には関心の薄い私ではありますが、機会を設けて見てみたい気持ちになっています。ということは、映画の宣伝効果にまんまと乗せられてしまっていることになるのでしょうか?

都内か近郊にお住まいで、時間がある方は、ぜひ会場に足を運ばれてみてはいかがでしょうか。何がしかの刺激を受ける企画展であることは請け合いです。

本日の豆心残り
昨日、企画展の図録などは一切購入せずに帰ってきてしまいましたが、「買ってくればよかったかな」と今になって思っています。ということで、会期中にもう一度出かけ、今度は図録や作品集を買い求めてきましょうかね。

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