「音楽で巡る世界旅行」シリーズの「ヨーロッパ編」宛てということでお願いします。▼音楽で1957年のパリへお連れしましょう。監督は、当時、ヌーヴェルヴァーグ(=新しい波)と呼ばれた若手監督のひとりルイ・マルです。ちなみに“ヌーヴェルヴァーグ”とは、撮影所での下積み経験のない若手の監督たちに共通する表現スタイルのことのようで(?)、ドキュメンタリーのような手法で劇映画も撮影したりしたようです。なるほど、本作もモノクロの映像で、古い型を脱した印象です。カメラの映像が、スリリングな展開を一層盛り上げています。▼あらすじはご存じの方が多いでしょう。主人公の男(=モーリス・ロネ)が完全犯罪を目論むも、あるモノを見落としたことが徒となり、誰もいなくなったビルのエレベーターに閉じこめられてしまいます。その彼を待ち続ける女(=ジャンヌ・モロー)がいます。そしてまた、このカップルの名をかたり、事件を起こす若者が登場します。当時の街並みと車。▼音楽もヌーヴェルヴァーグそのままでマイルス・デイヴィスがアドリブで挑みます。録音は1957年12月4日の夜。監督が持参したフィルムをエンドレスで回し、わずか4時間で全てを録り終えたそうです。
【番組のサイトのメールフォームから書き込んだ追加メッセージ】:同じリクエストはすでにFAXにて送信していますが、マイルスに音楽を頼んだいきさつなどについて補足的に書いておきます。▼これは、『死刑台のエレベーター』の“完全版”と銘打たれたオリジナル・サウンドトラック盤に載っている文章ですが、マルセル・ロマノという人(※どういう立場の人なのか私はよく知らなかったりしますf(^_^))が、1988年8月に記した述懐らしいです。▼それによりますと、本作が撮影される少し前の時期、マルセル・ロマノはマイルスを主役にするジャズ映画を構想していたようです。おそらくはドキュメンタリー形式の作品で、レコーディング風景をメインに、ジャズ・ミュージシャンを人間的に描く企画ではないかと思います。 結果的にはこのプランは実現しないままに終わっていますが、プランを断念した頃、若手の映画監督がスリラー物の作品(※『死刑台のエレベーター』のことです)を撮っているという話を聞き、その監督(※ルイ・マル監督)がジャズ好きらいしということで、映画の音楽にマイルスを使ってはどうかと持ちかけたそうです。この話はまとまり、実現します。▼録音はマイルスのヨーロッパ・ツアーのあとに行われたようですが、当時、ヨーロッパでのマイルスはまだ人気がそれほどなかったのか(?)、ツアーは期待されたほどの成功は収められなかったようです。▼実際の録音は、ルイ・マル監督が音楽をつけて欲しい場面のフィルムをつないで持ってきて、それを繰り返し映写しながら行われたようです。ま、即興演奏ということになるのでしょうが、マルセル・ロマノがマイルス側に映画の音楽の話を打診して、実際に録音が行われるまでは時間がたっぷりあったということで、即興とはいいながら、実は、いくつかのフレーズを書き留めるなど、主要テーマのメロディは既に“用意”されていたことになりそうです。▼演奏の録音に要した時間は4時間ほどだったようですが、録音された音楽がすべて作品で使われたわけではありません。音楽の選択もルイ・マル監督が一手に引き受けたようですが、当のマイルスは、演奏と録音が済んだあとに満足そうな表情を浮かべたものの、「2度とこの種の録音をやるつもりはない」という言葉をマルセル・ロマノに残した、とあります。真意がどの辺にあるのかは、私にはわかりませんけれど。▼以上、この作品にマイルス・デイヴィスの音楽が使われるまでの裏話的なことを書き添えてみました。もしもお気に召しましたなら、放送でこの作品を取り上げてください。