2003/03/23 ケン・ジョセフの衝撃リポート

イラクへの攻撃が始まってからというもの、“情”に流された「反戦=反米」のうねりは日増しに大きくなっているようです。

この動きは、著名人へも反戦意識の高まりとなって表れているようで、今日の日経新聞には女性歌手の宇多田ヒカルさんと矢井田瞳さんの例が書かれており、それによれば、それぞれの自サイト内で彼女たちは以下のように反戦を訴えているそうです。

正しい戦争なんて無い。本当にこの戦争が必要で正義の行為だと、思っている人達がいる。それが私には信じられない。(宇多田ヒカル)

誰かに愛されているはずの人が、誰かの愛する人の血を流すのは紛れも無い事実だろう? 戦争反対。

他には、加藤登紀子さんと、坂本龍一さんの例も紹介されています。坂本さんの場合は、「イラクの女性や無邪気な表情の子どもを映し、罪のない人を巻き添えにする爆撃(2003年3月23日付けの日経新聞より)」への批判を視覚的に訴えている、とのことです。

これらの“反戦ポーズ”は、一面では人々の共感を得やすい性格を持っていますが、それが果たして圧政に苦しむイラク国民の願いと直接結びつくかどうかははなはだ疑問です。言い方はきついかもしれませんが、ことによると、「自己満足的な良心の押し付け」にならないとも限りません。

「反戦=反米」意識が最高に強い朝日新聞は、全く姿勢を変えることなく、連日「イラク攻撃反対」の主張を貫かれています。

昨日の朝日新聞の社説は、「これが本当の同盟か」との見出しの下、アメリカの軍事行動支持をいち早く表明した日本政府の判断をしつこく批判しています。その中で今回もまた、これまでにも何度となく繰り返し提起されてきた疑問を批判の中心に据えています。

なぜいま戦争なのか。明白な国連決議もないのになぜ米国を支持するのか。

朝日など反戦を唱える勢力が必ず持ち出してくるのが上の2点です。そこで、「なぜ」なのか私なりに考えて、答えを導き出してみたいと思います。

まず最初の「なぜ今の時期に攻撃する必要があるのか?」ですが、私は「なぜ今であってはいけないのか?」と逆に問いかけたいと思います。今がダメだというのなら、いつならいいのか? それとも、いつであってもいけないのか? どちらでしょうか。

正直いって、私は他国の政治状況には疎いです。

そこであくまでも付け焼刃でいろいろな知識を得ていくうちに、サダムによってイラクの一般国民は過酷な状況に置かれてきたことが次第に見えてきました。

どんなことにも縛りのない日本に住んでいると、これが当たり前で、それ以外の状況はなかなか想像できませんが、今この時もイラクの国民は体制批判は全く出来ない状況にあり、ただひたすらお上に従うようにして毎日を生き延びているようです。ですから、いくら「そのような体制でなければかの地は統治できない」といわれても納得できません。実際に生身の人間がその状況下で一生を終えるということはあってはならないし、それを見過ごすことはいけないことのように思います。

かといって、アメリカ当局が掲げる「イラクを民主化してイラク民を解放するために戦う」という大義名分もそのまま受け入れることはできません。しかし、どんな国であれ、国家戦略の裏には様々な思惑があるのは当たり前で、それがアメリカにあっても不思議ではありません。

そして、思惑とは別のところで、結果として、イラク民がサダムの恐怖政治から“解放”されるのであれば、それはそれで評価すべきことなのではないでしょうか。

私は本コーナーでも書いた記憶がありますが、「反戦=反米」を訴えて今回の軍事攻撃を止めたとして、それでイラクの国民が圧政から解放されることにつながるのか、強い疑問を持っていました。彼らの主張に従えば、イラク国民を今後も過酷な状況下に留まらせることを主張するのと同じことになってしまうのですから。果たしてそういうことでいいのでしょうか。

攻撃に反対する人々は、「偽善大国フランス」が主張するように、大量破壊兵器の査察期間を延長すれば問題が解決するといいますが、ここには大きなパラドックスがあるといわなければなりません。

これまでに「フセイン帝国」が保有してきた大量破壊兵器をそれによって見つけ出し、廃棄したとしましょう。しかし、依然としてサダムがイラクを掌握している限り、イラク民の被圧政状況は何一つ変わりません。

つまり、「反戦=反米」は、イラクの一般国民に対して「サダムの奴隷となって生きていけ」といっているのと同じことになってしまいます。

その状況から少しでも早く助け出すことができるかもしれないのが今回の攻撃で、それを「なぜ今なのか?」と遅らせなければならない理由が私には理解できません。むしろ、なぜ一刻も早く、サダムの圧政から助け出してあげないのでしょう。

2点目の「国連決議云々」ですが、朝日などのマスメディアが伝える国連報道は、一面(彼らにとって都合のいい面)しか伝えておらず、それだけを信じてアメリカだけを非難することは判断を誤ることにつながると思います。

国連の常任理事国を務めるフランスなど各国は、それぞれに複雑な背景を持ち、一般庶民の想像を遥かに超えた駆け引きを繰り広げています。ですので、「アメリカを悪・フランスを善」と決め付けられるほど物事は単純ではないということです。

そうした政治大国間の力の綱引きもあって、アメリカは国連に関わっている限り、攻撃の時期は無意味に延長されるだけと考え、敢えて国連で新決議を通さず、過去の決議で十分と踏み、行動に踏み出したのだと思います。

ド素人の目で今回の国連のゴタゴタを見ていましても、各部署の責任者が保身に努めている様子が見え、責任感のなさには落胆してしまいます。たとえば査察団の責任者であるブリクス委員長にしても、自分に開戦の責任が及ばないよう玉虫色の査察報告に終始し、判断の遅れに力を貸していました。意地悪くいえば、フランスが主張した「4カ月の査察延長」を利用して、自分の任期切れとなる今年の6月まで問題を先延ばしたいと考えていたのでは、といううがった見方さえできるほどです。

ともあれ、ことあるごとに「アメリカは自分の都合で国連を利用する」と批判されますが、そのように批判を加えるマスメディアとて同じように「自分の都合で国連を利用している」のが現実です。本来であれば、保身に懸命なブリクス委員長に対してもっと批判を加えてもよかったはずです。

昨日の産経新聞には、東京特派員の湯浅博氏がお書きになった「ホンネ見えにくい“バザール政治” 攻撃望むイラク市民」と見出しのついたコラムが掲載されています。

その冒頭、21日のテレビ番組「スーパーモーニング」(テレビ朝日)の生放送で流された、「反戦」派にとっては“衝撃的”なリポートについて触れています。

実はこの番組は私もビデオに録画して見ましたが、その番組中盤、イラクの隣国ヨルダンの首都アンマンから、一人のNGO(非政府組織)スタッフの男性が生のリポートを寄せました。

彼はケン・ジョセフさんという男性で、NGO「JET(日本緊急救援隊)」を主宰されているそうです。彼はテレビの討論番組やドキュメンタリーにも時々出演、取材され、私は彼の顔は以前から見て知っています。確か、以前は「アガペ・ハウス」という組織で活動されていたはずです(記憶が不確かですので、正確ではないかもしれません)。

私はその風貌から、彼をてっきり欧米系の人だとばかり勘違いしていました。が、今回の番組で彼がイラクの少数民族アッシリア人の血を引いていた(両親の国籍は米国。彼は日本で生まれ、国籍も日本)ことを初めて知りました。

その彼は、今月の18日(19日?)までの約2週間、イラクのバグダードを訪問してきたそうです。彼の目的は攻撃を阻止することで、「反戦」の立場で活動を続けています。

その立場の彼だからこそ説得力があるのですが、イラクに留まるつもりだったのが国外避難を勧められ、隣国ヨルダンに移動したところで今回、「スーパーモーニング」の生インタビューに応じています。

東京のスタジオには、一貫して「反戦=反米」の立場を採る共にジャーナリストの鳥越俊太郎氏と大谷昭宏氏が控えています。それを見せられる私は、てっきりケン・ジョセフさんの口からアメリカに対する非難の声が聞かれるのかと思っていましたら、彼からは次のような思ってもいない発言が飛び出しました。

私は米英軍のイラク攻撃に反対なんですが、現地で会った百人あまりのイラク人たちが、みんな米軍の攻撃を心待ちにしていた。私にとって、これはとてもショックでした(2003年3月22日付け産経新聞コラムより)。

それまで余裕の表情を浮かべていた鳥越氏は、ケンさんの生々しいリポートを聞くや否や、あからさまに不機嫌そうに渋い表情を浮かべるところが画面には映し出されました。

それまで余裕の表情を浮かべていた鳥越氏は、ケンさんの生々しいリポートを聞くや否や、あからさまに不機嫌そうに渋い表情を浮かべるところが画面には映し出されました 。

スタジオのゲスト・コメンテイターの大谷氏は、ケンさんのリポートの真偽を確かめるように、「攻撃が始まればイラクの一般市民も被害に遭うわけですが、それでも米軍攻撃を支持しているんですか?」と尋ねると、ケンさんは「イラクの一般市民は、米軍の攻撃は上手だから怖くないといっています。それよりもサダムが何をしでかすかわからないから、その方が怖いといっています」と答えました。

このリポートを聞いて、これまで“正義”の御旗の下に「反戦=反米」を訴えてきた“知識人”はどう返答するのでしょうか。どんな形であれ、イラクの一般市民はもうサダムの支配体制下に置かれるのはこりごりで、どんな形であれ一刻も早く解放されたいと願っているというのですから。

はじめの方でも書きましたが、坂本龍一さんがご自分のサイトで視覚効果によるイラク民への同情を訴えているといいますが、彼ら自身が攻撃を待ち望んでいるとしたら、その訴えはどういう意味を持つのでしょうか。

これが私が冒頭に書いた「自己満足な良心の押し付けなのでは?」という疑問につながります。

ともあれ、「スーパーモーニング」におけるケンさんのリポートは、録画ビデオから音声データ(その部分には一切編集を加えていません。なお、映像は省いています)に変換してみましたので、もし関心がありましたらお聴きになってみてください。

ケン・ジョセフ氏イラク民の生の声をリポート」(テレビ朝日「スーパーモーニング」)

いずれにしても、彼は元々は「反戦」の立場の人間で、その彼が伝えるリポートであるからこそ信用に足るものと思います。

なお当番組ではそのリポートを受けて、それに対する意見の交換が行なわれるのかと思いきや、ケンさんのリポートは聞かなかったことにでもしたかのように、CMのあとは一切触れることなく、番組は進行していきました。

これこそは重大なリポートで、もしかしたら一般のイラク市民の願望と米軍の行動は合致することになるわけで、これこそが議論するに足る問題になると思うのですが。それにしても、同じ「反戦=反米」の立場を採りながら、ケンさんに疑問を投げかけた大谷氏に比べ、思考を停止させ、終始腕組みをして顔をしかめ、一言の発言もなかった鳥越氏からは、それまでのご自身の言動に対する責任(彼の言動の端々からは、サダム・フセインを擁護する態度が感じられます)を果たしていないように感じられました。

ともあれ、今回のイラク攻撃は、その問題を語らせることで、その人の思想の偏りや偽善性、思考のレベルをも露呈してしまうという、怖い「踏み絵」の性格も持つようです。

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