2003/02/22 フセイン帝国の恐怖

またしてもイラク情勢について書こうと思いますが、今や反米感情を有する一部マスメディアが主導する形で全世界に「反戦=反米=イラク擁護」の嵐が吹き荒れていますが、その張本人といいますか“張本国”のイラクについて報じる新聞、テレビはそれほど多くありません。

実際のところイラクとはどんな国で、その国を支配しているサッダーム・フセインとはどんな人物なのか、少なくとも私は、知識を持ち合わせていません。そんなところに実にタイムリーに、今日の地方紙には1ページを費やしてフセインとイラクについて解説した記事が特集されています。ですので、そこから拾い読みしながらイラクの現状の一端を確認していこうと思います。

まずサッダーム・フセインとはどんな人物で、どのようにして権力を手に入れていったのかということですが、フセインが伝記作家に語ったことが確かだとすれば(こうした場合、事実が誇張されるのが常ではありますが)、彼は1937年4月、イラクの首都バグダードの北約160キロにあるティクリート近郊のアルアウジャという村で生まれたそうです。

彼の家は貧しい農家で、幼い彼は家畜と一緒に寝起きするような生活を送ることになります。彼は靴も満足に買ってもらえず、裸足で6歳から農作業を手伝った、といわれます。

さらには、実父が早くに亡くなったこともあり、他の子供たちからもいじめられ、彼は自らを守る意味もあり、常に鉄棒を持ち歩くようになり、時にはその鉄棒で野良犬を叩き殺すようなこともあったといいます。

そののち、彼は1956年バース党に入党しています。日本人一般には馴染みの薄いその「バース党」を広辞苑で引くと次のように書かれています。

アラブ民族主義の政党。アラブ民族の復興(バース)を目標とし、「自由・統一・社会主義」がスローガン。1940年代シリア人が結党、アラブ諸国に支部建設。1963年以降のシリア、1968年以降のイラクで政権を握る。アラブ社会主義復興党。

どのような経緯で彼がその党に入党したのか私は知りませんが、そこで彼はめきめきと力を見せたのでしょう、入党から10年後の1966年(東京オリンピックの2年後)9月には党副書記長の地位にまで上り詰めています。

そしてその2年後の1968年、バース党はクーデターによって一国の政権を掌握するところとなり、その頃にはアフマド・ハサン・アル=バクル大統領の重用を得るまでになっていたサダムは、1979年7月、バルク大統領の引退に伴ってイラク大統領の座を譲り受け、以後現在に至るまで20年以上その座に君臨し続けることになります。

権力を手に入れる前から彼には目標とする人物がいました。それは、ソ連(現在のロシア)の独裁者・スターリンです。

彼は周囲の人間にも「自分が政権を取ったらスターリン主義国家にする」と語り、事実、大統領執務室にはスターリンに関する蔵書が多数あった(現在もある?)そうです。

彼はその後「恐怖政治」をしていくことになるわけですが、大統領就任早々、人々に強く印象付ける行為を行っています。

彼は就任直後の臨時党大会で、「クーデターに関与した疑いがある」として突然66人の党員の名前を読み上げたそうです。事前に何も知らされていなかった彼らは他の党員が見守る中、連れ出され、その内22人は公開処刑されます。

彼らが連れ出される際サッダーム・フセインは「反逆者」と非難し、悠然と煙草を燻らせながらその一部始終を見守り、その姿をしっかりとビデオに記録させ、そのビデオを全国の党員に回覧させたそうです。

「俺に逆らえば同じ運命が待っている」ことを広く印象付ける作戦に出たわけです。

以後、イラクの権力は彼の思うままになり、かくして「フセイン帝国」の誕生となりました。そんなフセインですが、イランに亡命した反体制組織「SCIRI(イラク・イスラム革命最高評議会)」の幹部アサディ氏という人物は、亡命先のイランでその彼を次のように批判しています。

全てのイラク国民は死の恐怖に支配されている。独裁体制はサダム一人に依拠し、彼は国民の利益のためではなく個人的関心に従って統治している。

現在もなお、イラク国内では社会の隅々にまで監視のネットワークが張り巡らされており、たとえば「大統領に敬称を付けないだけで投獄され、電気椅子や鞭打ちなど、百七種類の拷問で自白を強要される」といわれています。

その治安組織は以下の5つからなるそうです。

  1. 特別治安局
  2. 総合治安局
  3. 総合情報局
  4. 軍情報局
  5. 軍治安局

監視対象は軍関係者はもちろんのこと、民間人や外国人など様々で、互いが監視し合い、それらの“情報”は直ちに上部の治安評議会を通じて大統領にもたらされるそうです。

この“恐怖支配”と共にサダムの支配を特徴付けているのは、政権の中枢を親族や同郷のティクリート出身者らなど、自分に忠誠を尽くす少数の者だけで固めていることです。

その最たるものが自分たちの息子の扱いで、共和国であるにも拘わらず、息子たちを権力の後継者として育てており、事実上の「王政」の形を採っています。

今日の記事にはその息子たちを写した写真(2001年5月17日、バグダッドで開かれたバース党の会議の際の写真)が掲載されていますが、そこには異常に長い葉巻を手にして嫌らしい笑いを浮かべている長男のウダイ氏と二男のクサイ氏の姿が写っています。

長男のウダイ氏は、イラク人亡命者が証言することには「信じがたいほどの凶暴な性格の持ち主」だそうで、イラク国内のマスメディアを事実上支配し、経済界からスポーツ界に至るまで強い影響力を手にしているそうです。

彼はまた高級車好きで知られ、国連の経済制裁で外貨が手に入らない状況下であるにも拘わらず、ロールス・ロイスフェラーリといった高級車を1300台も所有しているそうです。

どこからそんなお金が捻出できるのかといえば、彼はイラクの石油密輸の重要人物なのだそうで、密輸のための船を50隻持ち、それを使って密輸しまくっているという話です。

途中でも書きましたが彼の性格はとにかく凶暴の一語で、自分の意に沿わないものは簡単に粛清、平たくいえば「殺してしまう」そうです。

イギリスに亡命したかつての秘書であるジャナビ氏という人物は、アラブ紙とのインタビューで「(長男のウダイ氏は)父親同様、(イラク)国民を奴隷としか思っていない」と証言しているそうです。

一方二男のクサイ氏はウダイ氏とは対照的に物静かな性格だそうで、イラクの共和国防衛隊などの精鋭部隊を掌握していることなどから、後継者としては二男のクサイ氏が有力との見方もあります。ただ彼の前にはボブ・サップ顔負けの(ボブ・サップの場合は演技で、実像はいたって知的な人間だそうですが)凶暴な兄がいるわけで、すんなり後継の座に収まれるのか、予断の許さない状況ではあります。

それにしても、こうしたイラクの実情を知るにつけ、「反戦=反米」を叫び、結果的にイラクの現体制を守ろうとしている人々は、虚無感に陥ったりはしないのでしょうか?

なんせ、イラクを守ることはイコール、サッダーム・フセインの体制を維持することになり、ゆくゆくはバカ息子たちが政権に就くことを手助けしているのと同じことになるのですから。

こんなのバカバカしいでしょ?

それでもなお「反戦=反米=イラク擁護」の立場を採りつづけますか?

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