昨夜、正確にいえば今日の午前1時5分から、NHK総合の「ミッドナイト・チャンネル」で放送されたドキュメンタリーには久しぶりに引き込まれました。もちろん、深夜の放送ですので、私は生で見たわけではなく、ビデオに収めたもので見ました。
で、そのドキュメンタリーとは、昨年の12月29日にNHK「ドキュメント地球時間」枠で放送され、今回再び放送になった「映画にささげた魂 ・巨匠アンドレイ・タルコフスキー」という番組です。制作はフランスのAMIPという番組制作会社名がクレジットされています。
アンドレイ・タルコフスキーという当時のソビエト連邦生まれの映画監督を描いたドキュメンタリーなわけですが、恥ずかしながら、私はその監督名は今回初めて意識して聞いたような気がします。
昨夜、そろそろ寝ようと思いながら何気なく見た新聞のテレビ欄に「映画にささげた魂」という番組名を見つけ、気になり、一応ビデオをセットして眠りについたのでした。
そして、今日になってそのビデオを見、思わず引き込まれてしまったというわけです。
彼は元々は画家志望だったようですが、その後映像作品作りに自らの可能性を賭け、その分野で才能を開花させることとなりました。そうしたバックグランドがあるせいか、一枚の絵画でも描くように、ワンショットごとの絵造りには大変な入れ込み様を見せます。
今回のドキュメント番組では、彼の遺作となった『サクリファイス』の撮影風景が登場するのですが、自らがムービー・カメラのファインダーを覗き、時に激しく、情熱をむき出しにし、そして茶目っ気たっぷりにスタッフに指示を出していきます。
そんな彼の作品の画面構成を特徴づける要素の一つに、カメラアングルがあります。
たとえば広大な自然を背景に人物を配置するようなシーンの場合、いわゆる“ハリウッド様式”ではやや低い位置から人物を撮影するのが通例だそうです。そうすることで、背景がより広く表現されるのと同時に手前の人物が浮き立って見えるからです。
一方、タルコフスキーの場合はどうかといいますと、それとはまるっきり反対のアングルで撮影します。つまりは、人物をやや俯瞰するようなアングルを採ります。
そうすることで彼は何を狙ったかといえば、人物の背後に大地である自然を配することにより、「登場人物である人間は自然の一部なのだというメッセージを見客に植え付けること」でしょうか? 少なくとも、私はそんな風な印象を番組から受けました。
そんな彼、タルコフスキーは祖国ソ連から亡命したあと、異国で54年のある意味短すぎる生涯を閉じることになるわけですが、その間に作られた作品は以下の7本です(参考:”Cinemagazine -Tarkovsky’s Room”)。
- 僕の村は戦場だった(1962年)(“YouTube:Ivan’s Childhood – The Kis”」)
- アンドレイ・ルブリョフ(1967年)(“YouTube:Андрей Рублев. Любовь”)
- 惑星ソラリス(1972)(“YouTube:solaris“)
- 鏡(1975年)(“YouTube:Andrei Tarkovsky – Mirror”)
- ストーカー(1979年)
- ノスタルジア(1983年)(“YouTube:Dream Sequence, Andrei Tarkovsky, Nostalghia 〔1983〕”)
- サクリファイス(1986年)(“YouTube:The Sacrifice – Michael Nyman”)
意外に少ない作品数ですね。
この中では、(4)の『鏡』という作品はとりわけ異色で、ストーリーらしいストーリーはなく、映像と音楽とだけで表現されているということです。
ちなみに、私は(3)の『惑星ソラリス』は断片的に見た記憶がありますが、ハリウッドのSFモノとは明らかに違い、地味な作品という印象しかありませんでした。今度は気持ちを入れ替えて見てみたいと思います。
彼はオカルト的なことにも関心が強かったそうですが、そうした傾向もあってか、彼の後半の作品では、何の断りもなく、登場人物がフワリと宙に浮いたりするシーンが出てくるのだそうです。
今回のドキュメント番組の終わり近く、死期が迫りベッドに体を横たえている彼の元に、ほとんど編集が済んだ最後の作品『サクリファイス』がビデオ・テープにコピーされた形で届けられ、それをテレビ・モニターで確認するシーンが出てきます。
そのラッシュを見終わった彼からの指示は細部にまで渡ります。中でも彼が最もこだわりを見せるのは、映像の色彩です。彼が映画を作る上で常に意識していたことは、「映画を他の芸術に肩を並べるだけの領域にまで向上させたい」ということ、だそうです。
ということは、彼が見せる色彩や構図への執拗なまでのこだわりも、彼の素地にある絵画に対する感覚から来ているものなのかもしれません。
アンドレイ・タルコフスキー。今後はその名前を意識に留め、機会があればぜひ映画館の大きなスクリーンで彼の映像美を堪能してみたいと思います。