私がいつも見ているテレビ番組『NHKアーカイブス』。
「テレビの青春」とキャッチフレーズされたこの番組では、日本の国の“青春時代”ともいえる1970年代前後にNHKが制作した当時の番組を、ドキュメンタリーを中心に再放送しています。見ていると、まるでその時代にタイムスリップしたかのように、いい気分になります。ちなみに、私は未来は苦手です。
夜の12時近くから始まるため、夜さっさと寝てしまう私はビデオに録って見ることになります。
新年になって初めての放送では、ドキュメンタリーが3本放送になりました。そのどれもが印象に残りましたが、今回は2本目のドキュメンタリーの話をしましょうか。
タイトルは『少年は河を上った』です。放送されたのは、確か昭和48(1973)年、だったと思います(←あるいは違っているかも)。
タイトルにある「河」とは、東京の下町を流れる荒川です。その周辺は、いわゆる「ゼロメートル地帯」といわれ、川の水位よりも低い地帯に街が発展しています。従って、川と住宅地の間には高い土手が築かれています。
ドキュメンタリーの“主人公”は、沖縄に近い徳之島出身の“少年”です。彼は幼くして両親に捨てられ、その後は祖母に育てられます。彼は17歳になったとき、育ての親ともいえる祖母を島に残し、東京に出てきます。
しかし、島から来た少年に仕事はありません。それでもどうにか、銀座でバーテンの見習いになります。1年後、仕事ぶりを認められた少年は、バーテンのチーフの仕事を与えられます。しかし、チーフに昇格するその日、彼はその仕事を辞め、職場から姿を消します。
その後、町工場で毎日単調な仕事をすることになります。そうした暮らしの中で、彼は居ても立ってもいられなくなります。
このまま東京に居ついたら、ボクはどん底に落ちてしまう。
どうしようもない焦燥感に駆られた少年は、ある“決意”をします。それは、ボートを盗み、徳之島の祖母の元に還る、という決意です。
傍目に見れば何とも無謀な考えで、どう解釈しても、ただのモーターボートで徳之島まで還るというのは無理な話です。
しかし、彼はそれを決行します。係留されていた一艘のボートを盗み、徳之島目指し、荒川の川面を疾走します。川岸の土手は高く、人々が暮らす家々は見えません。しばらく行くと、彼のボートは水路に迷い込んでしまいます。そう。彼は東京湾に向かったハズが、実は、逆に河を遡っていたのです。
彼は慌てて引き返そうとしました。そのとき、モーターから焦げ臭い匂いがし始めます。直結のコードが焦げていたのです。その瞬間、彼の徳島行き(東京脱出?)は挫折しました。
彼はボートを盗んだ罪により、東京鑑別所(「東京矯正管区」)に送られました。
番組の終わり近く、彼は取材のカメラの前に姿を晒します。徳之島に戻った彼は、育ててくれた祖母と島に暮らしています。バーテンをしているという彼は、グラスを拭きながら終始伏し目がちで質問に答えます。
あのボートで本当に徳之島に帰ろうと考えていたのか?
「島に帰れればいいとは思ったけど、別に徳之島でなくても良かった」
徳之島じゃなかったら、どこに行きたかったのか?
「無人島とか、、、とにかく、東京を離れたかった、、、」
それなら何もボートを盗まなくても帰れたのではないのか?
「給料日までも待っていられなかったんだ。とにかく一刻も早く島に還りたかった」
私は、自信満々に生きているように見える人間が苦手です。その反対に、ちょっとつつけばたちまち泣き出してしまいそうな子供のように、ギリギリのところで生きているような人間にどうしても心を引かれてしまうのです。
彼もそんなギリギリの人間ではなかったかと思います。現在、彼はどのような毎日を送っているのでしょう。