2000/11/13 ベネチア・ゴンドラ・なんでもない日常

見るともなく、テレビのチャンネルを切り替えている途中で、思いがけず良い番組に出くわすことがあります。作日もそんな番組の一つに出会いました。

『未来の瞳』(TBS / 日曜18:30~19:00)というドキュメンタリー番組です。

まさに見るつもりもなく見た、というよりも、そうした番組があること自体これまで知りませんでした。番組の趣旨としては、これからの未来を担っていく世界各地の子供たちの日常を描いたもの、のようです。

私がたまたま見ることとなった昨日の回は、イタリアの都市、ベネチア(=ベニス)の少年が描かれていました。まだ、小学校へ上がるか上がらないかの年齢です。彼は両親との3人暮らし。父の職業は、ベネチアに最もふさわしいゴンドラ乗りの仕事です。

ご存じの方はご存じのように、ベネチアという都市は一種の水上都市のごとく、街の至る所に水路が通っていて、かつてはゴンドラが街の人たちの重要な交通手段であったようです。まさに伝統的な職業で、番組に登場する家族の家系は、千年にも渡ってその職業を受け継いでいる、とのことです。

そんな父親の働く姿を間近に見て育った少年は、自然と彼自身も、幼いながら、「ボクも大きくなったら、お父さんと同じように、ゴンドラを操る仕事をするんだ」と心に決めているかのようです。そんな少年は、父からゴンドラの話を聞くのが大好きです。

私がその番組を見ていて強く感じたのは、ヨーロッパの分厚い伝統と、そこに暮らす人々の確かな生活感です。

話は少しそれますが、何百年も前の偉大な画家の生家が今なお、そのまま残されていることは珍しくありません。日本であったら考えられないことです。日本は絶えず急激な変化を続けています。特に、ここ50年間の変化は、とてつもなく速いスピードです。それに対して、ヨーロッパのソレは、もっと緩やかであるように私には感じられるのです。もちろん、ヨーロッパといえども、同じように変化はしているのでしょうが。

また、番組に登場する家族のあり方は、とても自然です。父は太陽の下、見光客を乗せたゴンドラを操る仕事をします。そんな仕事ぶりを息子は頼もしげに見つめます。そして、仕事が終われば歩いて家路につきます。家には、一家の団らんが待っています。母のお腹の中には、新しい命が宿っています。そんなまだ見ぬ母のお腹の中のベイビーに、少年は自分で作ってあげた唄を聞かせてあげます。お母さんのお腹を撫でながら。

そんななんでもない日常の光景が、日本の、中でもサラリーマン、家庭に望めるでしょうか?

遠距離通勤の父は朝早い電車に飛び乗り、会社へ向かいます。子供は父が外でどんな仕事をしているのか知らずに育ちます。家で待つ母と子は、帰りの遅い父抜きの夕食を摂ります。同じ時間、残業を終えた父は、居酒屋に寄り、同僚と酒を酌み交わしています。酒臭い息をした父は、子供の寝顔を見ることもなく、布団の中に潜り込みます。頭の中は仕事のことでいっぱいです。_以上はもちろん誇張して書いています。が、核家族といわれるような家庭では、多かれ少なかれ、似たような環境の中で日常を送っているのではないでしょうか。

番組の終わり近く、お腹の大きかった母親は元気な男の子を無事出産しました。それまでひとりっ子として母に甘えてきた少年は、一瞬とまどいを見せますが、やがてそれを受け入れ、立派な兄になろうと、父からゴンドラの漕ぎ方を教えてもらうようになります。彼のゴンドラの最初の“お客さん”は、かわいい弟、でしょうか。

母の退院の日、父と子は真新しい乳母車を押して市民病院へと向かいます。そこから帰れば、一家4人の新しい生活が待っています。

なんでもない家族の、なんでもない日常なのに、私にはとてつもなく羨ましく感じられました。

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