古い米国映画が好きな人であれば、36歳で世を去ったマリリン・モンロー(1926~1962)を知っているでしょう。
そのモンローが、死の2年前に出演した作品が何であったか、咄嗟に答えられたら、映画通といえましょうか。
共演者の名を挙げたらヒントとなりそうです。モンローとその作品で共演したのはイヴ・モンタン(1921~1991)です。
これだけのヒントをもらっても、私はお手上げです。作品のタイトルさえ浮かびません。
その作品が今週の水曜日(12日)、NHK BSプレミアムの「プレミアムシネマ」で放送になり、私は録画しながら、オンタイム(「放送されている時間」ぐらいの意味で使っています)でも見ました。
私がその作品を初めて知り、初めて見た作品は、『恋をしましょう』(1960)です。
ネットの事典ウィキペディアで本作について確認すると、ごく簡単んなストーリーが書かれてあるだけです。本作を知る人が多くない(?)ことを窺わせます。
モンローと共演したイヴ・モンタンもよく知られる人ですが、私は彼が出演した映画をこれまで見たことがないように思います。モンタン39歳のときの作品になります。モンローは34歳ですね。
モンタンは軽妙な演技を見せてくれています。
彼は農民の子供としてイタリアで生まれますが、父親が共産主義者で、台頭してきたムッソリーニ(1883~1945)を嫌い、モンタンが2歳のとき、家族はフランスへ移住したそうです。
フランスで成長したモンタンは、生粋のフランス人のように見え、仕草の一つひとつが、洗練されて見えます。
そんなモンタンには、本作の役柄はうってつけといえましょう。
本作の冒頭、モンタンが演じるジョン・マルク・クレマンがどんな人物なのか、彼の家の代々の歴史を短くまとめて紹介します。
クレマン家の8代前の初代はフランスの農民で、畑で金貨の入った箱を見つけたことで、同家は億万長者の家系へと昇りつめます。このクレマン家の8代当主をモンタンが演じるというわけです。
世界有数の億万長者といえば、ロスチャイルド家が想像されます。クレマン家は架空の貴族ですが、ロスチャイルド家がモデル(?)かもしれません。
クレマンの家はフランスのパリにありますが、いつもはニューヨークにある超高層ビルの支社で過ごしています。
モンタンが演じるのですから、8代当主とはいっても、クレマンは実業にはほとんど手を染めず(?)、その代わりを、実質的な権限者(?)のジョージ・ウェールズという中高年の紳士が差配しています。
ジョージを演じる役者を見て、私はすぐに気がつきました。もしかしたら彼は、米国のドラマ『刑事コロンボ』の第13話「ロンドンの傘」に脇役として出演した俳優ではないか、と。
あとで確認すると、私が想像した通りでした。
本作でジョージを演じたウィルフリッド・ハイド=ライト(1903~1991)は、ロンドンが舞台となった「ロンドンの傘」では、犯人夫妻の執事のターナーを演じました。執事役がぴったりの堂々とした風格を備えています。
彼は、オードリー・ヘプバーン(1929~1993)が主演した映画『マイ・フェア・レディ』(1964)では、ピカリング大佐を演じています。
クレマン家の大事な仕事はジョージに任せ、ジョン・マルク・クレマンは、女性と浮名を流すような生活を送っています。本作では、それを匂わせるだけで、女性とのゴシップは一切描かれません。
クレマンは独身で、お目付け役のジョージとしても、早くいい相手を見つけ、後継ぎとなる子宝が授かることを内心願っています。
そのジョージのもとに、同社で公報の仕事をするコフマンが面会に訪れます。コフマンは持参した演劇新聞をジョージに見せ、ニューヨークにある小劇場が、近々、有名人を風刺するミュージカルを上演する予定であることを伝えます。
新聞の記事によれば、揶揄される有名人として、マリア・カラス(1923~1977)やエルヴィス・プレスリー(1935~1977)、ヴァン・クライバーン(1934~2013)に混じり、クレマンも皮肉られるというのです。
脇で話を聴いていたクレマンは、自分のそっくりさんが風刺劇に登場すると聴いても、特別意に介さず、そんなに神経を尖らせる話でもないだろう、と気楽な態度です。
厳格な性格のジョージは大いに気にし、社のためにも良いことではない、と社の力と金で、上演を中止させる方向で動こうとします。
あとは、この話を持ち込んだコフマンをクレマンの警護役につけ、劇を中止させることを前提に、とりあえずは、その劇のリハーサルの様子を見に行くことになります。
その劇が「恋をしましょう」という題で、歌あり、踊りありの体裁となっています。クレマンはコフマンを連れて楽屋口から入り、その劇の稽古の様子を見学します。
その劇の主演女優が、マリリン・モンローの演じるアマンダです。
文句のひとつもいうつもりで乗り込んだクレマンでしたが、アマンダの歌と踊りに一遍で魅了され、気がつけば、コフマンに向かって、「彼女を食事に誘えないか? 今夜8時からで設定してくれないか」といい出す始末です。
モンタンが演じるレイマンは、いつも微笑みを称えているような紳士です。
稽古場の片隅にクレマンがコフマンといると、クレマンのそっくりさんを演じる役者に間違われます。クレマンを初めて見たアマンダも、「ニュース映画で見たクレマンにそっくり」と驚きます。
クレマンは、自分が本物のクレマンだという暇も与えらず、クレマンのそっくりさんの役で劇に出演する話が進んでしまいます。
アマンダは、劇の仕事をしながら、夜は夜間の学校へ通っています。アマンダにはトニーという芝居仲間がおり、「恋をしましょう」では、トニーがアマンダの相手役です。
クレマンはアマンダとトニーの仲の良さに圧倒されつつ、アマンダとの恋を発展させることを望みます。
実生活では、イヴ・モンタンはいくつかの映画で共演したという女優のシモーヌ・シニョレ(1921~1985)と結婚し、彼女が先に亡くなるまで、婚姻関係は続いたそうです。
そんなふたりでしたが、本作でモンタンがモンローと共演した時、妻のシニョレが自殺未遂を起こした、とネットの事典ウィキペディアの記述にあります。
実生活にも影響を及ぼすほど、本作でのモンタンとモンローの演技に熱が入った(?)ということになりましょうか。