映画はどのように撮影するのか興味があります。私のこの興味は、1カット1カットをどのような順番で撮影するのか、という具体的なことです。
きっかけは、毎週土曜日の夕方にNHK BSプレミアムで放送される米国ドラマ『刑事コロンボ』を見たことです。これを見るのが習慣となっていますので、同じようなことは毎回頭に浮かぶはずですが、今回はなぜか、それが特別気になって、番組を見ました。
この土曜日に放送されたのは、シリーズ38作目の『ルーサン警部の犯罪』です。米国で初回に放送されたのは、1976年10月10日です。日本では、1977年12月17日にNHK総合で放送されています。
本作で犯人役を演じたのは、米国のテレビシリーズ『宇宙大作戦 スター・トレック』(1966~1969)で人気スターとなったウィリアム・シャトナー(1931~)です。
私は『スター・トレック』のシリーズは見ていませんので、この俳優にも馴染はありません。シリーズを見ていた人は、犯人役を見て「あの人だ」とすぐに気がついたでしょう。
それが話の種になっており、ルーサン警部を演じる彼は、誰にも内緒で、背が高く見える靴を履き、実際より5センチ程度高く見せています。
『刑事コロンボ』シリーズは全部で69作あります。そのうち、旧シリーズは45作で、残り少なくなってきました。
旧シリーズ最後の『策謀の結末』が米国で放送されたのが1978年5月13日で、新シリーズ1作目の『汚れた超能力』の放送が米国で始まったのが1989年2月6日ですから、旧と新の間には11年の空白があります。
日本での放送に関していえば、コロンボ役の吹き替えが、小池朝雄(1931~1985)が亡くなったことで、石田太郎(1944~2013)に替わっています。
個人的には、石田のコロンボは、調子にのってしゃべっているように聴こえることもあり、小池コロンボの旧シリーズの方が好きです。
新シリーズは、放送局がNHKから日本テレビに替わり、新シリーズ初回の放送は、1993年5月7日です。
シリーズ63作目の『4時02分の銃声』にも、本作で犯人を演じたウィリアム・シャトナーが犯人役で登場します。これが米国で放送されたのは1994年1月10日で、本作から18年あとです。
別のいい方をすれば、息の長い俳優といえましょう。
ざっと、『コロンボ』シリーズについて書きました。
この土曜日放送の『ルーサン警部の犯罪』は、米国で『ルーサン警部』というテレビドラマが放送されていることになっており、その番組でルーサン警部役をする人気俳優が、番組の女性プロデューサーを射殺するという設定です。
犯行場面は残酷です。
殺される女性プロデューサーは、人気俳優を見出した人です。プロデューサーは男優と気心が知れていると考え、変装して現れた犯人がルーサン警部役の男優であることにすぐに気づき、冗談はやめてといった調子で、手を挙げる振りをします。
まさか、本当に銃を発射するとは思っていないのです。ところが、男優は、背後から彼女の心臓を正確に撃ち抜いてしまうのです。彼女は死ぬ間際、「なんで?」と思ったでしょう。
話の筋はともかく、番組の後半、コロンボが犯人を取り調べる場面を見ていて、本日分冒頭で書いた、撮影の順番が気になり、以後は、それを頭に描きながら、最後まで見ました。
この時代の米国ドラマは、ドラマの撮影であっても、実績のある撮影監督が撮影を務めています。
本作の撮影監督は、ミルトン・R・クラスナー(1904~1988)です。クラスナーは1904年生まれですので、本作の撮影監督を務めたときは72歳であることがわかります。
名前を聞いても私にはわかりません。ただ、クラスナーが撮影監督を務めた作品を見ると、ハリウッドが黄金期を迎えていた時代の作品が多いように思います。以下に、担当した主な作品を公開順に上げておきます。
『刑事コロンボ』シリーズでクラスナーが撮影を担当したのは本作だけのようです。クラスナーが撮影したのは、あとで確認してわかりましたが、結果的には、クラスナーの撮影だったため、何となく撮影スタイルがオーソドックスで、撮影の段取りが気になったのかもしれません。
部屋の中で、コロンボと犯人が、それぞれ椅子に座って、受け答えするシーンがあります。
撮影するカメラは、三脚に固定されています。
撮影するカットは、大きく分けて、3通りになります。ひとつは、ふたりが写るカット。あとのふたつは、それぞれひとりだけが写るカットです。



普通に考えると、脚本に書かれているとおり順番に撮影すると考える(?)かもしれません。
しかし、そんなことをしたら、カットが変るたびに、三脚に載せた重いカメラ(米国はテレビドラマも、映画と同じ35ミリフィルムを使うと聞きます。ですから、1970年代当時のカメラは大きくて重かったでしょう)を移動し、フォーカスを正確に合わせ直し、俳優にあたる照明の向きを変え、レンズの露出を適正に合わせ直し、音声の採り方も変えなければならないなど、さまざまな作業を一からやり直す必要ができてしまいます。
もしかしたら、日本の撮影現場では、効率を度外視して、脚本どおり、順番に撮影することをしている場合もあるかもしれません。
その点、米国の撮影現場は、効率重視で、てきぱきと撮影していきます。
効率よく撮影するには、どんな工夫が必要でしょう。
一度カメラを据えたら、同じ構図の場面を、脚本の順番を無視して、次々に撮影することです。
俳優がひとりだけ写るシーンで、相手と話す場面であっても、相手は休憩室で休んでもらっても構いません。相手が目の前にいることにして、演技し、カメラに収めていくのです。
相手がいることを前提に演技をする場合は、視線が重要になりそうです。
撮影現場をイメージできるでしょうか。
たとえば、コロンボが、相手の話すことに苦笑するシーンがあったとします。演技をするコロンボ役のピーター・フォーク(1927~2011)の前にはカメラがあるだけで、相手役はいません。
ピーター・フォークは、カメラに向かって、相手に対して苦笑するシーンを演じるのです。
この撮り方であれば、監督なり、撮影監督なりが気に入る演技ができるまで、何度でも撮りなおすことができます。あるいは、何通りかの演技をしてもらい、編集の段階で、最も良いと思われる演技を選ぶこともできます。
こんなことを考えながらドラマを見ていると、自分でも映画を撮りたくなってしまいます。ま、そんなことは、一生涯叶いませんが。
今は、ハリウッドでも、デジタル技術で映画を制作しています。監督も撮影監督も、考え方が一新され、オーソドックスな撮影の仕方はしていないかもしれません。
私は、映画でもドラマでも昔の作品を見るのが好きです。これからも、昔の作品を見る時は、撮影監督になったつもりで、カットのつながりを楽しむことにしましょうか。