今日の日経新聞・書評欄にある写真家について書かれた本が紹介されています。
それは、写真家・ロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe 1946-1989)について書かれた本で、『メイプルソープ』(パトリシア・モリズロー著/Patricia Morrisroe 米国生まれ。ニューヨーク大学で修士号を取得。編集者、ライター / 新潮社)とそのものズバリのタイトルがつけられています。
その本を紹介する記事の見出しは、「美と闇に生きた写真家の実像」です。「美と闇」_まさにメイプルソープを象徴するような言葉ではあります。
私は写真雑誌や美術雑誌を通して彼の名前はよく耳にしていました。で、「確か、彼の写真集も持っていたはずだよなぁ」と探してみたところ、、、ありました、ありました(^-^)
“Lady by Mapplethorpe”(JICC出版)というのがソレです。この写真集は1984年に『Ladyリサ・ライオンBYロバート・メイプルソープ』というタイトルで一度出版したものを新装し直し、1992年に改めて出版したもののようです。
初版のタイトルにもあるリサ・ライオン(1979年第1回世界女性ボディビル・チャンピオン)という名の女性をモデルに撮られた写真集です。
リサ・ライオン(Lisa Lyon)_何だかインパクトのある名前でしょ? ですよね? 私は彼女の名前も記憶に残っていたりするのですが、彼女は当時割と知られた“パフォーマンス・アーティスト”で、その経歴からもわかるとおり、ボディビルによって鍛えられた肉体を持っていました。
ただ、彼女自身、その鍛え上げた肉体も程なく失われることをわかっていて、それを写真に収めておきたい、といった思いが強くあったようです。
今回、その写真集をざっと見返してみましたが、そこに収められたモノクローム写真は、女性の裸体が写し取られているにも拘わらず、どれも不思議なほどエロティックなものを感じさせません。リサ自身の表情にも笑顔はなく、どこかストイックな雰囲気さえ漂っています。硬質な光を放つ写真、とでもいったらいいのでしょうか。
その写真集に書かれている彼の経歴を読みますと、最初、彼は音楽に関心があったらしく、サキソフォーンを吹いたりするのが好きな少年だったようです。そして一時は、音楽で身を立てることも夢見たようですが、両親の薦めもあり、コマーシャル・アートを学ぶことで落ち着きました。
やがてニューヨークのマンハッタンに移り住んだ彼は、当時無名だった歌手のパティ・スミスと暮らし始めることになります。彼が写真に出会うのはそんな時期です。
初めて手にしたカメラはポラロイド・カメラです。そこで写真の可能性を直感したのかどうか知りませんが、その後ハッセルブラッド(スウェーデン製の有名な中判カメラ。真四角の画面が特徴的)に持ち替え、本格的に写真に取り組み始めます。
写真という自分に合った表現手段を手にした彼は、己の嗜好を写真というメディアによって表現し始めます。彼の嗜好とは_「同性愛、SM、糞尿嗜好」などです。
どれも一般社会では受け入れ難い厄介な“分野”ばかりですね(^^; しかし、彼は臆することなく自らの信ずるフィールドで作品を発表し続けていくことになります。
今回の記事によりますと、彼は名声を得てからも「夜の放蕩」を改めなかったとあります。彼の場合の「夜の放蕩」とは、華やかなパーティに出たあとでさえも、一夜のパートナーを漁あさるため、場末のバーへ繰り出すことです。そこで格好のパートナーを得ては、自分のアパートメントへ連れ帰るのが日課でした。
ただ、ここで私の勝手な注釈をつけるとすれば、彼の場合、それは単なる“遊び”では終わらず、それが無意識の内に彼自身の創作活動へとつながっていたのだと思います。
いずれにしても、こうした文章を読むにつけ、彼のイメージはどこかあの天才画家・カラヴァッジオに通じているところがあるように思わないでもありません。
写真家・メイプルソープは、ドラッグや乱交の果て現代の“黒死病”(ペスト)ともいえるエイズに感染し、若くしてこの世から永遠に生を奪われました。
結局のところ、彼は生きたいように生を生き、撮りたいように写真を撮った、のでしょうか? そうだとしたら、それはそれで彼なりに満足のいく一生であった、といえるのかもしれません。