バブル期の経済事件

誰もが自分だけの特徴を持つのだと思います。私の場合は、あることを始めると、しばらく、そればかり続けるのが自分の特徴だろう、と自覚しています。

今は、レコーダーに録画したテレビ番組の整理をすることが多いです。

私が使うレコーダーは、ハードディクドライブ(HDD)ブルーレイディスク(BD)DVDに録画し、再生できるプレーヤーが内蔵されたタイプです。

通常は、気になる番組をHDDに録画し、保存したい番組があれば、BDにダビングして残し、HDDからは消して領域を開けるようにします。

私はNHK BSプレミアムで放送される映画や海外ドラマを録画することが多いです。また、デジタルで修復された「新日本紀行」も、記録に残す意味合いで、放送されるたびに録画しています。

気になった番組や、いつも録画する番組をHDDに次々録画し、そのたびに見ればいいのですが、時間がとれず、録画したままの番組も少なくありません。

その結果録画した番組が溜まったので、このところは、再生して見て、保存した番組はBDにダビングすることをまとめてしています。

この作業の一環で、本コーナーで取り上げたフレッド・アステア18991987)の主演作品も見て、その魅力に、今になって気がついたことになります。

昨日は、天才的な詐欺師が登場する番組を見ました。架空の話ではなく、実在する人物を取り上げた番組です。

その番組は、「アナザーストーリーズ 運命の分岐点」です。私が録画して見た回では「イトマン事件 30年目の告白」が放送されています。私が録画したのは昨年11月4日ですが、それは再放送で、初回の放送がいつだったかはわかりません。

イトマンというのは、大阪にあった会社です。

ネットの事典ウィキペディアで引くと、1883年伊藤萬助という人物が創業した会社で、会社が大きくなるにつれ、「伊藤萬」から「イトマン」へと社名を替えたようです。

イトマンといえばイトマン事件を思い出す人がいるでしょう。日本がバブル経済に沸き立った時代に起きた事件です。

私は以前、ネットの動画共有サイトのYouTubeで、この事件の裏側について話す動画を見たことがありましたが、詳細はよく憶えていません。

番組は、いつものように、複数の視点から事件を描いていますが、肝心なところが抜けている印象です。

そのため、番組の録画を見たあと、YouTubeで次の動画を見つけて見ました。

【Vlog】闇の勢力に食われた住友銀行

NHKで働き、番組の製作にも関った池田信夫氏(1953~)がイトマン事件の裏側について語る動画です。

この動画について感想を書いておけば、音声の録音の仕方に足りないところがあるように感じます。声が明瞭に聴こえず、聴きづらいです。

また、池田氏は、話の途中で笑う癖があるなど、話し方にも問題があり、聴き取りにくく私は感じました。

池田氏が本動画で語る肝心なことが、NHKの「アナザーストーリーズ」では完全に抜け落ちていています。

事件が起きた当時に同社の社長についていた河村良彦氏(19242010)については書き、経営状態が悪くなったとき、河村氏が強気の記者会見をしたことを当時の映像を使って伝えますが、どうして河村氏が強気に振る舞わなければならなかったかは解説していません。

池田氏は動画で、河村社長も、反社会的勢力に脅されていた、と話しています。河村社長としても、そのために、強気の姿勢でいるしかなかったのだろうと思います。

池田氏がNHKで番組作りをしている時も、イトマンが土地取引で関係を持たざるを得なかった反社会的勢力が暴力団の山口組であったことは、当時の「NHKスペシャル」でも表に出せなかった、というようなことを話されています。

当時の社長になった河村氏は、商業高校を出て住友銀行(住銀)に入ったそうです。有名大学を出れば仕事ができるというわけではなく、河村氏は、高卒であっても営業面の仕事が抜群にでき、渋谷や銀座の支店長に抜擢されるなどしています。

イトマンは、繊維を扱う中堅商社でしたが、1970年代に起きたオイルショックにより、業績が落ち、一時は破綻寸前まで追い詰められます。

イトマンは、住銀の商社部門のような会社だったため、苦境を立て直すためでしょう、1975年に河村氏がイトマンへ送り込まれて社長になります。

河村氏はその使命に見事に応え、2年で業績をV字回復させ、当時の雑誌で、その手腕が紹介されたりしたそうです。

河村氏はワンマン社長で、数字にこだわり、前年期に比べて数パーセントでも伸びる企業運営を身上とします。それがのちに、イトマン事件の温床になってしまったといえますけれど。

1985年、河村氏が社長になって初めて、前年に比べた売り上げが落ちます。河村氏としてもショックだったでしょう。しかし、そんなイトマンに追い風が吹きます。バブル経済の始まったことです。

その時代、土地も株も、猛烈に右肩上がりしました。

誰かの入れ知恵だったのか、イトマンの河村社長は、不動産投資に力を入れます。

イトマンの顧問弁護士をしていた河合弘之氏(1944~)が、番組で当時を振り返っています。

番組では、イトマンが採った土地取引の一例として、次のような架空の図を使って説明しています。

イトマンの土地取引の一例図解

イトマンは、河村社長になってから、それまでの繊維専門から、総合商社に替わりつつあり、数多くのグループ企業を持つようになっています。

その金融部門を使い、土地を取得しては売買し、資産と金を増やす錬金術を身につけます。

たとえば、上の図を例に、10憶円である土地を手に入れる場合を考えてみましょう。

土地はイトマンが直接手を出さず、Aという不動産業者に買わせます。購入資金は、イトマンファイナンスから出させます。その際、「企画料」の名目で、イトマンが3割の利益を天引きします。

バブルにより、10憶円の土地の価格が上昇し、伊藤萬不動産が15億円で買います。その後も土地バブルは続き、A社が伊藤萬不動産から20億円で買い戻し、そのあと、イトマンが25億円で手にれる、といった具合に売買を続けます。

土地を動かすだけで、この例では、10憶円の土地価格が25億円に化け、イトマンが25億円の資産価値があることにされた土地を所有する形となります。

このままバブルが続けば、土地の売買を繰り返していくだけで、土地の価格は上昇し、最終的に手にした土地の資産価値も上昇するのですから、まさに錬金術というよりほかりません。

こうしたことを、目につけた土地で繰り返すことで、イトマンの営業利益は下がることを知らず、数字の上では年々増え続けるばかりです。

イトマンの顧問弁護士をしていた河合は、間近で河村社長の詐欺まがいの土地取引を見るうちに黙っていられなくなります。

ある日、思い切って、「東証の1部に上場する企業には、して良いことと悪いことがあるのではないのか」と自分の考えをぶつけたそうです。

すると、河村社長の顔色が変わり、「経営には口を出すな」と一括されたそうです。

それが、河合氏が河村社長に会った最後となったそうです。以来、電話をしても、秘書にブロックされ、連絡できなくなります。1990年春には、15年続けた顧問弁護士を解任されたそうです。

土地取引の錬金術の知恵は、住金からイトマンに来た、ある男から授かった(?)のかもしれません。その男こそが、本ページに埋め込んだ動画で、池田氏が天声詐欺師といった伊藤寿永光(いとう・すえみち)氏(1945~)です。

番組では、1988年7月にNHKで放送した「 首都圏スペシャル」の「東京・川物語」に残る伊藤氏の姿を伝えています。

40代だった伊藤氏は、爽やかな印象で、弁舌が立ちそうです。伊藤氏は住銀の銀行マンで、地上げのプロとして、その名を馳せていたようです。

NHK当時、池田氏も伊藤氏を取材したそうですが、2時間ぐらい伊藤氏の話を聴くと、氏の話術が巧み過ぎて、話していることを疑うことなどできなかったそうです。

伊藤氏は1990年2月、好待遇でイトマンに招かれます。4カ月のうちに、不動産取引やゴルフ場開発などを受け持つ「企画管理部」を新設し、常務取締役に昇進します。

伊藤氏は、イトマンから金を引き出し、ゴルフ場開発の名目で、開発の認可のめどがない山林などを入手していったようです。

企画管理部で昔働いた社員にも取材していますが、回ってくる書類にははじめから伊藤氏の判が押してあり、おかしいとは思いながら、誰も逆らえなかったようです。

河村社長にしても、伊藤常務に任せておけば間違いない、と信じたでしょう。

この伊藤氏が、山口組とつながっていた、と池田氏が動画で話しています。その辺りの話が、NHKの番組では一切語られていません。

2千数百億の大金の行方はわからない、で終わりです。

伊藤は、何かを嗅ぎつけたのか、1990年2月に入ったばかりのイトマンを、同じ年の11月には退社しています。

池田氏が動画で紹介した『住友銀行秘史』を読んでみようと思い、電子書籍版のサンプルをダウンロードしました。これを読んで書きたいことがあれば、本コーナーに”続編”として書くことにします。

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