有元利夫がいた時代

私は昔から、見るテレビ番組が決まっています。そのひとつに、日曜の午前9時からNHK Eテレ(昔はNKK教育テレビジョン)で放送される「日曜美術館」があります。

途中で「新日曜美術館」に番組名が変わることがありましたが、今は元の番組名です。

民生用ビデオレコーダーを使うようになった1980年代はじめ頃からは、ビデオで録画しながら見るか、あるいは、録画しておいて、あとで見るようになりました。

こんな馴染みを持つ「日曜美術館」ですが、その後、見ないことが多くなってしまいました。このようになったのはいつ頃からか、確認してみました。

昔の「日曜美術館」は、番組の進行役がNHKのアナウンサーで、アシスタント的に、タレントや知識人が加わる形でした。

私があまり見なくなったのは、進行役に知識人を使うようになってからであることがわかりました。

2009年から2011年姜尚中1950~)、2011年から2013年千住明1960~)、2013年から2018年井浦新1974~)、2018年から2024年小野正嗣1970~)、そして、今は坂本美雨1980~)です。

ということで、ここ16年ぐらいは番組を熱心に見ていないことになります。

こんな「日曜美術館」を、ここ最近の放送を2回、録画して見ました。録画した番組は消さずに残してあります。見たいと思ったのは、興味のある画家が取りあげられたからです。

ひとりは高島野十郎18901975)で、もうひとりは有元利夫19461985)です。有元を取りあげた放送は、2週間前の14日に放送しています。

ただ、番組を見ると、1985年に36歳の若さで世を去った有元そのものを取りあげるというより、残された妻の容子さんと、息子さんの今を伝えるような内容で、少し残念に思いました。

美術番組なのですから、専門的な番組作りが許されます。技法的なことなど、わかりにくことも番組にして欲しいです。

私が有元を知ったのも「日曜美術館」です。有元を取りあげた頃、番組の進行役をしていたのはNHKアナウンサーの斎藤季夫氏(19352023)で、アシスタントは歌人の俵万智1962~)でした。

その時の放送はビデオに録画しており、見たくなったら見るようにしています。

有元利夫の世界

その時の放送で強く印象に残ったのは、有元の製作の様子です。

有元は、カンヴァスに、水で溶いて使え、速乾性のアクリル絵具で作品を描いていました。

アクリル絵具の画像
アクリル絵具の画像

画家それぞれに製作の進め方は違います。あらかじめ下絵をきっちりと仕上げ、色をつけるのであれば、下絵から輪郭線を決め、それぞれの部分に色を塗るようなことをするでしょう。

有元の場合は全く違います。カンヴァスに直接、水で薄く溶いたアクリル絵具を塗るようなことをします。その段階では、どんな絵になるか、有元自身にもわかりません。

そのような描き賭けのカンヴァスが、アトリエに何枚も並べています。

日が改まれば、アトリエへ行き、そのときに、「自分を呼んでいるカンヴァス」を作業台の上に載せ、どこにどう手を加えるか、思案します。

私が所有するビデオ『有元利夫 絵と音の世界』箱(裏)

有元の場合は、アクリル絵具を水彩絵具のように扱うため、大きな作業台の上に水平に置いて、絵具をつけていきます。

有元が影響を受けた画家は、イタリアで宗教画などを描いたピエロ・デラ・フランチェスカ1412~ 1492)です。有元がイタリアへいったとき、フランチェスカの絵を見て、感銘を受けます。

ピエロ・デラ・フランチェスカ『キリストの洗礼』

フランチェスカが絵を描くのに使ったのは、テンペラ絵具です。昔に描かれた絵ですから、年月を経たことを感じさせます。アクリル絵具は現代のテンペラ絵具ということもできます。

有元は、現代に描きながら、遠き古(いにしえ)を感じさせる絵にしたい願望を持ちます。それだから、描きかけの自分の作品の表面を、紙やすりでこするようなこともしています。

そうやって、「呼ばれたカンヴァス」に何度も何度も手を入れ、作品を完成させていくのです。

私は以前、アクリル絵具を使って、NHK-FMが平日の午後6時から生放送していた「夕べのひととき」(東京発は「夕べの広場」)そして、そのあとの「サンセットパーク」宛てのリクエストカードに、絵を描くことをしました。

今は主に油絵具を使うので、アクリル絵具はほとんど使いません。

絵具は、色の粉である顔料染料を何で練るかによって、全く異なる性質を持ちます。その性質の違いは、絵の製作方法に大きな影響となります。

速乾性のテンペラ絵具から油絵具になったことで、大きな絵を描けるようになりました。

だからといって、テンペラ絵具による技法を捨てる必要はありません。その画家が、自分の表現に必要だと思えば、テンペラ絵具を選べばいいだけの話です。

本来は彫刻家であったミケランジェロ14751564)は、命じられるままに、システィーナ礼拝堂の壁と天井を埋め尽くす宗教画をひとりで描きました。

システィーナ礼拝堂の天井

ミケランジェロがそれをフレスコの技法で描きました。これは、漆喰が乾くまでの間に仕上げてしまわなければならない制約を受けます。

ミケランジェロは見事にそれをやってのけ、描かれた絵は、どれだけの時代を経ても、色褪せることがありません。表面が埃や脂で汚れても、それを洗浄すれば、いつまでも描いた当時の輝きが戻るのです。

有元がアクリル絵具で数々の作品を製作したことを思い出し、私も、機会を設けて、アクリル絵具を使ってみたくなりました。

当然、アクリル絵具を使うなら、油絵具とは違った描き方になります。それをすることで、何かが発見できたらいいと考えています。