村上原作の希薄な短編ドラマ始まる

昨日の夜10時から、NHK総合で土曜ドラマが放送されました。

土曜ドラマと聞いて思い出すドラマがあります。昔、その時間枠で放送された山田太一19342023)原作・脚本の『男たちの旅路』です。私はそれが放送されるたび、熱心に見たものです。

男たちの旅路

今はテレビドラマを見ることがなくなりました。見るとしても、英米の昔のドラマぐらいです。NHKの土曜ドラマにも興味は持てません。

しかし、今回ばかりは関心を持ちました。きっかけは、昨日の朝日新聞テレビ欄で、毎日一番組を紹介する「試写室」が、NHK土曜ドラマ枠で放送が始まるドラマを取り上げたことです。

大学に入るまで神戸で過ごした村上春樹1949~)が、阪神淡路大震災が起きたあと書いた短編集から、4作品をオムニバス形式で4つのドラマにしたということです。

今回ドラマ化されたのは、2000年に刊行された短編集『神の子どもたちはみな踊る』に収められた短編作品です。

私は村上作品には常に違和感を持ちます。それでも、電子書籍版でこれまで、小説だけでなくエッセイや紀行文、ノンフィクションまで、60冊を読みました。

『神の子どもたちはみな踊る』も読んで、本コーナーで取り上げています。

私は毎日早く眠ってしまうため、昨夜10時から放送された村上原作ドラマは録画しました。それを、さっき見たばかりです。

昨日、テレビ欄でそれが放送されることを知り、一話目の『UFOが釧路に降りる』1998)を読み返しました。そうだ。こんな話だったと確認できました。

しかし、その作品がドラマ化に適う作品なのか、疑問を持たないでもありませんでした。中身らしい中身がないように感じたからです。

本作で鍵を握るのは、主人公の小村という三十歳ぐらいの男が、受け取る小さな箱です。それを北海道の釧路へまで運び、そこに住んでいる妹に渡して欲しいと、職場の後輩に頼まれます。

内容を明かしてしまうと、最後まで箱の中身については書かれていません。

私が本作を読んで連想したのは、アーサー・コナン・ドイル18591930)が書いたシャーロック・ホームズシリーズの短編作品『ボール箱』1893)です。

ドイルは、その箱の中身をしっかりと書いています。箱には、ふたりの人間の頭部から切り落とした耳が二個入っていました。

耳が入った箱が、ある独身女性のもとへ送られてきます。差出人がわからず、警察も捜査に行き詰まり、ホームズに助けを求めるのです。

村上はもっと構想を練り、小村が届ける小箱の中身をしっかりと決めて書いたら、もっと奥深い話にできたでしょう。

村上が自分の小説の書き方について書いたエッセイも読みました。村上は、あまり構成のようなものは組み立てず、だから、村上自身にも先行きがまったくわからないまま書き始めてしまうようです。

本来であれば、それを書く作家の頭に結末がわかっていてももらわなければ困ります。それがわかっているからこそ、物語のさまざまな画面に伏線を張り巡らすことができるのですから。それを見つけて読むのも読書の楽しみのひとつです。

本コーナーで少し前に書いたドイルのシャーロックもの『黄色い顔』1892)を再読してみました。結末がわかったうえで読むと、若夫婦の妻が、どうしてそのような行為に出たのかや、夫への対応があのようにならざるを得なかったことが読者にも身に染みてわかるように書かれています。

村上の場合は、それを書く本人がどのようなラストにするかわからずに書いているので、それを読まされる読者はますますわからなくなってしまいます。

小村が受け取った小箱は空っぽではありません。ほとんど重さを感じないものの、何かが入っているらしいように書いています。

小村も小箱を受け取ったとき、耳の傍で振り、何か音がするか確かめています。

その小箱を釧路まで運ぶ小村という人間の「中身」が小箱の中身などと逃げず、小箱の中身をしっかりと決め、その箱を開封したときにどんな話に展開するのかもよく考えてから書き始めるべきでした。

小村は妻から一方的に離婚を宣言され、自分の前から姿を消されてしまいます。妻が残した書置きには、小村と一緒にいても、空気の塊といるようなものだったとありました。

村上自身が何を書いていいかわからないまま書いたものを読んだ読者が勝手に解釈して欲しいと投げ出されているようなものです。

NHKのドラマは、何カ所か変更されてはいますが、ほぼ、原作に忠実に描かれています。原作の中身が希薄なため、ドラマも希薄とならざるを得ません。

ありきたりなドラマの形に収めようとするからいけないのです。見てくれが良く、それほどうまい演技をするわけでもない若い俳優を使わず、もっと別な表現方法があったように思います。

一番いいのは、文章だけで完結している小説をわざわざ映像化などしないことです。

NHKの土曜ドラマはこのあと、村上の短編を3作品ドラマ化し、3週連続で放送する予定です。私はそれらも録画して、期待しないで見ることにしています。

次作を見たら、また、本コーナーで取り上げるかもしれません。