発生から24年の世田谷一家殺害事件

歳月人を待たず。事件の捜査員をも待ちません。

2000年12月31日(あるいは30日)に東京・世田谷区上祖師谷三丁目で「世田谷一家殺害事件」が起きてから、今月末で24年です。

捜査員の懸命な捜査にも拘らず、今も犯人を検挙できていません。

事件が起きた日が近づくと、マスメディアが本事件を取り上げます。本日の朝日新聞には、次の見出しの小さな記事が載りました。

本事件では、被害に遭った宮澤さん一家の4人が、犯人によって殺害されているのが、2000年12月31日に、宮澤さん宅の隣りに住む宮澤さんの妻の実母によって発見されています。

本日の豆追記
被害者宅の隣りには、宮澤さんの妻の姉夫婦の家がありました。1992年に姉一家が海外へ移住したことで、宮澤んの妻の姉夫婦の家には、妻の実母がひとりで住んでいたそうです。その後、事件が起きた2000年に姉夫婦が一時的に帰国し、その家で妻の姉夫婦と実母が一緒に生活していました。

本事件にはさまざまな謎が残されており、捜査員の頭を悩ませています。

そもそも犯人は、どこから宮澤さん宅へ侵入したのか、これまで確定できていなかったのでしょう。

殺害された一家の変わり果てた姿を発見した宮澤さんの妻の実母は、当日の午前10時40分過ぎに宮澤宅へ入っています。その際、玄関のドアは施錠されていました。

犯人が宮澤さん宅の玄関ドアの鍵を何らかの理由で所有していれば別ですが、そうでなければ、犯人が玄関から出入りしたのではないことになります。

宅内には犯人の靴跡が残っています。奇妙なのは、一階と二階には足跡が残っているものの、なぜか、二階へ上がる階段に残る足跡が、下から上へ上がる一方方向の足跡だけだったことです。

推理小説などの創作物であれば、犯人が事件を推理する警察や探偵を欺くため、犯人に後ろ向きで階段を降りさせるようなトリックも工作します。しかし、現実の犯行で、そんなトリッキーなことを犯人がしたとは考えにくいです。

論理的に考えると、犯人は一階のどこかから、宅内に侵入し、一階を物色したあと、階段で二階に行ったと考えるよりほかありません。

この推理では、犯人が犯行のあと、二階から階段で一階には降りず、そのまま、宮澤さん宅から逃走したことになります。犯人はどこから外へ出たのかということです。

本事件については、本コーナーで、事件後一年目と二年目の二度取り上げています。自分の更新を読み直すと、捜査陣は早い段階で、二階にある浴室の窓から出入りしたとの見方を有力視していたそうです。

文章だけを読み、現場の構造がわからないと、二階の浴室の窓から簡単に出入りなどできるのだろうとかと考えてしまいます。

本日の朝日の記事を読むことで、それができそうなことがわかりました。

宮澤さん宅の浴室は、建物の北側にあり、二階は二階でも「中二階」の構造になっているそうです。室内の間取りはわかりませんが、一階と二階の中間の高さに浴室があったということでしょう。

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それでも一階よりは高い位置にあったわけですから、そこへ行くにも階段を使わなければならないことになります。そのことと、階段に残る犯人の足跡は関係があるといえましょうか。

上に紹介したTBSの「報道特集」で使われたコンピュータグラフィックス(CG)を見ることで、宮澤さん宅の家の構造が理解できました。TBSとテレビ朝日は、4年前、宮澤さん宅が事件後初めてマスメディアに公開され、それを基にTBSが、家の構造をCGにしたものです。

宮澤さん宅の内部構造

上の図は、浴室がある北側から見た様子です。一番手前に、壁に隠れた階段があり、それを上がると浴室や夫婦の寝室などがある中二階になります。

中二階の中ほどに、三、四段ぐらいの階段があり、それを上がったところが、奥に見える二階です。二階にはリビングとキッチンがあります。

このCGを見る限り、二階と中二階に比べ、一階の床面積が少ないように感じます。一階は、玄関を入った部屋が一室あるだけでしょうか。

向かって右側の中二階の浴室やトイレ、夫婦の寝室がある部分が、一階ではまったく使われていないように見えます。

中二階の上にロフトがあり、そこへ上がるための梯子段があります。

犯人の足跡が残っていたという階段は、中二階から一階へ降りる階段のことでしょうか? だとすれば、上がる足跡だけというのはヘンです。

事件があったとき、主の宮澤さんは一階にいて、1階のテーブルに置かれたPCに向かっていたようです。主の宮澤さんは、中二階に上がる階段の途中に倒れていたようです。

物音に気がついた宮澤さんが中二階より上に上がろうとしたのを、犯人は、一階には降りず、階段の途中で包丁で刺して殺したということでしょうか。

浴室の窓は地面から約3.4メートルの位置にあるそうです。中二階とはいえ、3.4メートルというのは低くありません。

米国のテレビドラマに「刑事コロンボ」シリーズがあります。その32話は「忘れられたスター」で、アルフレッド・ヒッチコック監督(18991980)の『サイコ』1960)で、ショッキングな殺され方をした役を演じたジャネット・リー19272004)が犯人を演じています。

Psycho (1960) – ‘The Bathroom’, ‘The Murder’ (Shower scene) [1080]

リーが演じたグレースは、往年のスターで、医師をする夫と暮らしています。その夫をグレースは殺してしまいます。

この事件でも、グレースが二階からどうやって戸外に出たのか、コロンボの頭を悩ませます。このときは、二階に沿って伸びている木を伝って下へ降りたのであろうことに気がつきます。

Best Scenes of ‘Psycho’ Star Janet Leigh | Columbo

本作が米国で初めて放送されたのは1975年9月14日。日本では1977年の正月三が日の1月3日に放送されました。

世田谷で一家を殺害した犯人がこの回のコロンボを見ていたかどうかはわかりません。

宮澤さん一家にとっては結果的に非常に不運だったことになりますが、宮澤さん宅北側の浴室があるあたりには、家屋の壁に沿うように、高さ約1.8メートルのフェンスが取り付けてあったそうです。

これも文章だけで、現場を見ていないのでなんともいえませんが、フェンスと家屋の壁とはどの程度の間隔があったのでしょう。ともあれ、朝日の記事によれば、「(フェンスを)よじ登れば(浴室の窓から)侵入は可能」ということです。

事件が発覚時、浴室の窓だけが開いていたそうです。

ここでも疑問がひとつあります。犯行時、浴室の窓に鍵はかかっていなかったのでしょうか。犯行は大晦日(あるいはその前日?)にあったのですから、気温は低く、窓を開ける必要はなさそうです。

それなのに、なぜか、窓には施錠されおらず、外から開けられる状態だったということでしょうか。

また、窓に取り付けてあった網戸が地面に落下していました。網戸が自然に落下することもあり得ないとはいえませんが、事件と関連付けて考えるのが自然です。

事件が起きてから24年の間、捜査陣は、行きつ戻りつしながらいろいろなケースを考えたでしょう。早々に、浴室の窓から犯人が出入りした見方を取りつつ、別のケースを想定するように。

そのようにして、結果的に、当初の見立て通り、浴室の窓から出入りしたとの結論に達したことになります。

しかし、二十年以上前、本事件について私が書いた中に、「そのあたりに指紋や足跡は残されていない」と書いています。「そのあたり」というのは浴室とその周辺ということです。

犯人がフェンスをよじ登るようにして浴室の窓から侵入し、犯行後に、同じように、フェンスを伝って戸外へ出たのであれば、フェンスや浴室の窓枠、そして、浴室内、それからフェンスから飛び降りたときにできる犯人が履いていた靴の跡や窪み、靴に着いた土のようなものが残留していたでしょう。

フェンスの強度によっては、犯人がそれをよじ登ることで、犯人が体重をかけた部分が、下向きにたわんでいたりもするでしょう。鑑識の専門家の眼は騙せないはずです。

侵入と脱出の経路が断定できたとしても、それがすぐに、犯人検挙につながらなそうなことがやるせないです。

宮澤さん一家4人を殺害した犯人が確実にこの世にいます。その犯人を一刻も早く検挙して欲しいですが、本事件を迷宮から抜け出す手立てが何か残っているのでしょうか。