今は、写真も動画もデジタルで記録する人が多いでしょう。
私は昔から写真や映像の撮影を趣味にしていますが、デジタルに替わる前は、民生用にはデジタルがまだ登場していなかったのですから、フィルムを使っていました。
写真でいいますと、私は一般的なネガフィルムではなく、リバーサルフィウルム(ポジフィルム)を使っていました。このフィルムで撮影すると、現像が済んだ写真は、映画の1コマのようになります。
ネガフィルムで撮影したフィルムを現像に出しますと、現像済みのフィルムと印画紙にプリントされた写真を受け取ります。
ポジフィルムの場合は、ネガフィルムのときと違い、原則的には、現像されたフィルムだけを受け取ります。このフィルムの仕上げには、「スリープ仕上げ」と、1枚ずつマウントされた「マウント仕上げ」があります。
私はいつもマウント仕上げで現像を頼みました。手元に帰っていたフィルムは、プロジェクターにかけてスクリーンに映写するか、ライトボックスに並べ、ルーペで覗き込んで楽しみます。
私が使ったポジフィルムは、コダックの「コダクローム64」です。64という数字はISO感度を表しています。つまり、ISO感度がたったの64でしかなかったということです。
デジタルのカメラになり、ISO感度は飛躍的に高くなりました。そんな現代から見れば、64は信じられない低感度です。
どんなものにも上には上があるものです。
私は8ミリ映画も楽しんでいましたが、私が使ったフジカシングル8は、日中外で撮るデイライトタイプと、人工光の下で撮るタングステンタイプに分かれていました。
デイライトタイプは25です。当時はASA感度といったものですが、今のISO感度でたったの25です。
ちなみに、タングステンタイプは「RT200」といい、ISO感度は200です。このフィルムを入れた「フジカシングル8 AX100」というカメラを使えば「闇夜のカラスも写せます」(← だったかな?)という謳い文句でした。
私もそのAX100を持っています。このカメラについているレンズは、F値が【1.1】です。
このようなフィルムを使い、写真と映像を楽しみました。
8ミリのフィルムは、映画のフィルムと違い、撮影したフィルムを現像し、それがそのまま映写用のフィルムになります。これはちょうど、ポジフィルムと同じようなものです。
こんなフィルムを使って撮影し、映写して楽しむのですから、現像が済んだあと、フィルムに定着した映像の色相や彩度、明度を変更することなどできません。
それに比べて、デジタルのカメラで撮影した静止画や動画の場合は、画像編集ソフトや動画編集ソフトを使うことで、いかようにもそれらを変更することができます。
しかし、その変更によって、本来持つ良さを損なわせてしまうことがあるように感じます。
昔、テレビで、プロのメイキャップアーティストが、モデルの女性を魅力的に見せるのだとして、メイキャップする様子を紹介しました。
私はそれを見ていて、メイキャップしたあとより、メイキャップする前のほうが、その女性を魅力的に見せるように感じたものです。
同じことが、デジタルを使った静止画や動画の色変更にもいえないだろうか、ということです。
このところは、“DaVinci Resolve”という動画編集ソフトが人気になっているようです。
私は、昔から“Vegas Pro”シリーズを使っており、そのソフトは使ったことがありません。
私がそのソフトを知るきっかけとなったのは次の動画です。
大昔、まだアナログのビデオを使っていた頃、VHSビデオでは録画ができなかったため、Uマチックのほとんどプロ用の編集システムを組みました。
そのとき、編集に使ったコントローラーのようなものが紹介されており、興味を持って見ました。それが、DaVinci Relolveのために用意されたコントローラー”Speed Editor”でした。
そんなわけで、遅ればせながらそのソフトの存在と人気を知りました。そのソフトの成り立ちを聞くと、元々が「カラーグレーディング」という色変換に強いソフトであるようです。
それだから、そのソフトを使う人は、個人ユーザーでも、色変更が前提となっている印象です。その様子をネットの動画共有サイトYouTubeで紹介した動画がいくつもあり、私もよく見ています。
どんなものでも、それを効果的に利用することで、素材の魅力を何倍にもすることができるでしょう。しかし、途中でも書きましたように、魅力的に見せるためのメイキャップが、ときに行き過ぎれば、魅力を半減することにもなりかねません。
こんなことを考えるきっかけは、今日の午前、次の動画をYouTubeで見たことです。
この動画の配信者も、動画編集が好きで、DaVinci Resolveを使えば、こんなこともできる、というようなことでこの動画も配信されているのでしょう。
しかし、見ているうちに、ここまでして色をいじるのはどうなのか? と疑問を持ってしまいました。見方によれば、カメラが撮影したままの色彩のほうが、私には良く見えてしまうからです。
同じように感じたのかどうか、コメントがひとつ書き込まれており、その人は、撮影後はあまり色を変えないというようなことを書いています。
それに対して配信者が返事をし、そのコメントに「全く同感」と書いています。本音としては、編集段階で変更を加えなくてもいいように、撮影段階で色彩のことも考えたい、という考えをお持ちのようです。
コメントを寄せた人は、ネットで見かける静止画を指してのことだと思いますが、画像編集ソフトで色を変更しすぎた結果なのか、「現実離れした写真が多い」と書いています。
今回紹介した動画でも、青空を必要以上に青くしているのが気になりました。
私は、ポジフィルムにコダックのコダクローム64を愛用したと書きました。そのフィルムが好きだったのは、派手でないコクのある色に写ったからです。
それと対象的だったのが、富士フイルムの「ベルビア」というポジフィルムです。このフィルムは彩度が高く設定されており、派手派手の色彩がフィルムに定着される性格を持ちます。このフィルムのISO感度は50です。
たまに富士フイルムのポジフィルムを使うことがありましたが、そのときに私が選んだのは、「プロビア」でした。こちらのフィルムは、現実に即した色合いでした。
そんな色彩の好みはデジタルの時代に変わっても同じです。
私はすべて、デジタルの「現像」を前提に、RAW画像で撮影します。撮影が終わった画像は、私が使うソニーのカメラ専用の現像ソフトで現像します。
その際、変更するのは明度を少し変えることぐらいで、カラーバランスやクリエイティブスタイルは、基本的に変更しません。
私は動画の編集もしますが、これまで、カラーグレーディングはしたことがないです。撮って出しで、素材の色彩をそのまま使うようにしています。
伝えたいものが色彩そのものであれば、それに合わせて色彩を変更するでしょうが、私が伝えたいことは別にあり、色彩を変更することを必要としていないということでしょう。
私は絵も描きまして、最も好きな画家は、いつも書いていますが、17世紀のオランダの画家、レンブラント(1606~1669)です。長年レンブラントの作品に接したことが、派手な色彩を好まない私の色彩に対する考え方につながっているかもしれません。
昔の画家たちは、使用する色が少なかったといわれます。その中でも、レンブラントは使用する色が少なかったのです。それでありながら、見事な色彩を感じさせる作品を残しています。
写真でも動画でも、そして絵画でも、伝いたいものが何かというのが最も大切なことで、”飾り”は必要最小限に抑えておきたいものだ、と私は考えています。