規定の前に越えられない壁

先週金曜日(12日)の本コーナーで、将棋の福間香奈女流六冠(1992~)が社会に投げかけた問題について取り上げました。

棋戦のほぼすべて(「叡王戦」だけが民間企業)の主催が新聞社であることもあり、マスメディアとしては、本事案に無関心ではいられないようです。

GoogleのAI、Geminiに8つある棋戦の主催を質問すると、次のような表にしてくれました。

序列棋戦名主催社(メディア・企業)備考(特別協賛など)
1竜王戦読売新聞社特別協賛:野村ホールディングス
2名人戦朝日新聞社・毎日新聞社共催。順位戦も含む。
3王位戦新聞三社連合
(北海道・中日・西日本)
+神戸新聞・徳島新聞
特別協賛:伊藤園
(伊藤園お〜いお茶杯)
4叡王戦株式会社不二家以前はドワンゴ主催。
お菓子メーカーの不二家が主催。
5王座戦日本経済新聞社特別協賛:東海東京証券
6棋王戦共同通信社特別協賛:コナミグループ
(棋王戦コナミグループ杯)
7王将戦スポーツニッポン新聞社
毎日新聞社
特別協賛:ALSOK
(ALSOK杯)
8棋聖戦産経新聞社特別協賛:ヒューリック
(ヒューリック杯)

産経新聞が14日の「主張」で、朝日新聞は本日の「社説」で本事案を取り上げました。いずれも、福間さんの立場に立つ書き方をしています。

将棋に特別関心がない人が、本事案の福間さんの訴えを知れば、日本将棋連盟はまだそんな考えでいるのか、と福間さん支持に回る人が多いだろうと思います。

私は本事案について前回更新した時点でも、連盟の規定がいつできたのかなどを正確に知りませんでした。私は以前から、そのような規定になっていたと考えていました。

朝日の「社説」を参考にします。

連盟が福間さんに関わる対局規定を作成したのは今年の4月だそうです。それまでそのような規定がなかったということは、なくても特別問題になることがなかったから、と考えられなくもありません。

連盟が今年の4月に定めた規定は、前回の更新でも書きましたが、もう一度ここに示しておきます。

出産予定日の産前6週から産後8週までの期間が、タイトル戦の日程と一部でも重複すれば対局者が変更される。

男性棋士は出産に左右されることがありません。これは、女流棋戦に限っての対局規定となります。

本規定策定のきっかけは、本事案の問題点を提起した福間さんに起きた事情です。

福間さんは昨年12月、長男を出産されています。その産前、出産、産後の時期には、出産時における棋戦の扱いについての対局規定はありませんでした。

ある出来事があったことで、規定の不備が認識され、新たな規定が設けられることが起きます。今回は、それが当てはまります。

妊娠した福間さんは、タイトルを持つ3棋戦は出産後に延期してもらったものの、挑戦者だった2棋戦は、体調不良になったりしたことで対局に臨めず、不戦敗とされています。

本経験をした福間さんが、ほかの女流棋士と、将棋界の将来を考え、規定の見直しを連盟に訴えたという図式です。

【LIVE】将棋・福間香奈女流六冠「将棋界でも安心して妊娠・出産できる環境を」 将棋連盟の規定めぐり記者会見【生配信】

今現在、「女流」がつかない女性の棋士はひとりもいません。今後は女性の棋士も誕生するかもしれません。しかしその数は多くないように思われます。

今のところ、全ての女流棋士は、女流棋士同士で対局し、棋戦も女流棋士同士です。それを考えて、日本将棋連盟から分利して、女流のためだけの単独の連盟にすることが解決策ではないか、と私は単純に考えてしまわなくもありません。

仮に「日本女流日本将棋連盟」というような連盟を作り、福間さんの考えと思いをすべて取り入れた棋戦用対局規定を策定することを考えてもいいでしょう。

現段階で、男性の棋士だけが所属する連盟に、福間さんの訴えをのんだ女性用の対局規定を策定しても、それが適用されるのは、福間さんのみという、偏った規定になりかねません。

福間さんは、女流棋士がますます活躍できる将棋界を求めているそうですが、福間さんが求めるのが、棋戦だけに限っているのが気になります。

福間さんの本心としては、棋戦以外のすべての予選対局にも同じような規定を適用してもらいたいのでしょうか。このあたりの考えは、福間さんに直接窺わないとわかりません。

そして、もしも、予選対局すべてにも取り入れてくれというのであれば、出産予定の女流棋士が増えた場合は、調整が難しくなりそうに思います。

朝日の社説は、締めくくりを次のように書いて、本事案が、女性が置かれた労働環境全般まで話を広げています。

福間さんの問題提起は、将棋界にとどまらない普遍性を持つ。仕事をするなら出産を、出産するなら仕事を、諦めなければならない。その二択を迫られ、今までどれだけの女性が苦しみ、地位や収入を失ってきたか。「仕方ない」ことにされていたことが本当に仕方ないのか、省み、変えていかなくてはならない。

女性の視点はいつも同じに感じます。それは「女性を男性と同等に扱え」です。

一見正しいように思われます。しかし、それが現実的には難しいこともわかってもらいたいです。それを難しくしているのは、男性と女性では、身体の造りが違うことです。

スポーツの世界で、男性と女性が同じ条件で競ったら、女性選手が男性選手に勝ることは希だと思われます。それは「仕方ない」事実です。

出産においては、それが、これ以上ないほど明白です。男性が子供を産むことはありません。胎児は百パーセント女性の身体から産まれるものです。

これはどうしようもないことです。

そんな身体の造りになっている女性が棋士という特殊な仕事をする場合でも、男性棋士にはない「ハンディ」がどうしてもできてしまいます。将棋の世界だけでなく、スポーツや、一般の仕事でもそれがつきまとう場面がどうしても避けられません。

基本的には、男性と女性は同じ条件で生活し、働くことが望まれます。しかし、身体の構造が違う以上、どうしても、女性が不利になるケースが起きてしまいます。

そんなときのために、規定によって女性の不利を補うことが必要になります。

今後、将棋連盟が、福間さんの訴えを受け入れて、妊娠、出産する女性の棋士が不利にならないような規定に変更をすることがあるかもしれません。

そうやって、男性と女性の間に生じる待遇の差が改善されていきます。しかし、どこまでいっても、身体の違いがある以上、女性から男性への不満はなくならないような気もします。

福間さんの考えにマスメディアが寄り添っているのはわかりました。その上で私がマスメディアに問いたいことがあります。それは、女流棋士への規定が、タイトル戦対局にだけ適用するべきかどうか、ということです。

もうひとつ訊きたいのは、今の日本将棋連盟から女流棋士の連盟に分離する試案に対する考えです。

連盟を男性中心の日本将棋連盟と女流の連盟に分ければ、本事案に今の連盟が巻き込まれずに済むように思われます。

近い将来、女性が日本将棋連盟の棋士になる人が誕生した場合も、その女性の棋士が、各棋戦のタイトル保持者や挑戦者になることは考えにくいです。

私が認識する限り、福間さんの要望は、棋戦対局に限った規定の変更であるように思われます。

福間さんが望まれるような社会の仕組みになるといいと私は思います。しかし、「仕方ない」面があることも、この機会に、女性には理解して欲しいです。