2007/01/25 『天空の草原のナンサ』(1)

本日は、ここまで書かずにきた「宝物」のような映画について書くことにします。その素晴らしい! 作品は、天空の草原のナンサ』2005)です。

これを見たのは、今月の14日。見てから10日ほど経ちました。いつもなら、見てから日を置かずに書くところ、この作品については書けませんでした。理由は自分でもわかりません。すぐに書いてしまうのがもったいないほどの出来だったから、ということにしておきます。

あまりにも素晴らしく、私はDVDで出ているか確認し、見つかったらすぐに注文し、手元に届きました。これからは、好きな時間に好きなだけ、何度でも繰り返し見ることになります。

原題は”The Cave of the Yellow Dog”で、直訳すれば『黄色い犬の洞穴(ほらあな)』ぐらいの意味になるでしょうか(←「cave」の意味がわからず辞書を引きました)。確かに、物語には黄色い犬の伝説や監督が祖母から(だったかな?)聞いたという犬の話などが要所に散りばめられ、物語全体を通して、犬がひとつの鍵を握っています。

一方、邦題では、「犬」の代わりに「ナンサ」にウェートを置きました。

これは主人公の少女の名前です。年の頃は、7、8歳。小学校の低学年といったところでしょうか。ナンサは、モンゴルの大草原に、家族と一緒に暮らしています。

本日のモンゴル豆知識
モンゴルは、北はロシア、南は中国に接する共和国です。面積は日本の約4倍で、人口は約230万人だそうです。この人口に匹敵する都道府県はどこになるかなぁ? と調べたところ、2005年時点の宮城県とだいたい同じくらいですね。この全人口のうち、約89万人は首都であるウランバートルに暮らしているといいます。近代化の波はモンゴルにも押し寄せ、テレビは1000人に45台の率で普及し始めているといいます。以上、同作品のパンフレットを参考にした豆知識でした。

本作は、モンゴルを舞台とする作品です。監督はビャンバスレン・ダバーというモンゴル出身の女性です。生まれたのは1971年といいますから、今年の誕生日がきて36歳です。

The Cave of the Yellow Dog | Director Byambasuren Interview (In German)

彼女が生まれたのは、モンゴルの首都ウランバートルで、国営テレビの司会者や助監督として働きながらウランバートル大学で法学を学び、さらには映画芸術大学で勉強し直したということです。2000年には、ドイツへ渡り、ミュンヘン映像映画大学でドキュメンタリー作りを学ぶことになります。

その大学の卒業制作として撮ったのがドキュメンタリー作品『らくだの涙』2003)なのでした。

手に入れたばかりのDVDには、同監督へのインタビュー(来日時のスペシャル・インタビューも含む)や撮影風景、予告編、フォト・ライブラリーなどが収められており、本編共々貴重な映像資料となっています。

本編の冒頭、スクリーンには、男と女の子がシルエットで浮かび上がります。どことも知れぬ丘の上。そこへ、ある生き物の死骸らしきものを抱えた男と女の子が登ってきます。ふたりの背景は、まだ明け切らぬ空とたれ込めた雲です。

丘の上に着くと、女の子が男に尋ねます。「お父さん、しっぽはどうするの?」。父親は、「頭の下に」と答えます。それは犬の死骸のようで、男は「体は死んでも、魂は死なない。次は人間に生まれるかもしれない」と娘にいいます。

このファーストシーンを見た私は、「この少女がナンサだ」と思いましたが、妹のようです(それとも、やっぱりナンサなのかな? シルエットなのでわかりません)。

昼。そこはモンゴルの草原地帯。主人公の一家が暮らす移動式家屋ゲル以外、建物らしいものはありません。そのゲルの周りで、若夫婦が羊を運ぶ作業に精を出しています。死んだ羊の皮をはぎ、町へ持って行って売るためです。

そこへ、大型のバンがやって来ます。いかにも年季の入った車の助手席からは、ひとりの女の子が降りてきます。彼女こそがこの作品の主人公ナンサです。

三つ編みにした髪にリボンをつけ、健康そうな真っ赤なほっぺをしています。ナンサは、この地方に一校だという学校の近くにある叔父さんの家に下宿し、学校へ通っていたようで、久しぶりに両親のところへ戻って来たところのようです。

ナンサには、妹と弟がいます。両親との5人家族です。大人も子供も同じように赤いほっぺをしています。私は途中まで、一番下の子も女の子だと思っていました。なぜなら、お姉さんたちと同じように、髪を三つ編みにしてリボンをつけていたからです。

しかし、寝床で姉たちとふざけるシーンで、おチビさんの可愛らしいオチンチンが映り、そのときになって初めて、「エ? アレ? ウソ! 男のだったのかい?」と気づき、驚きました。

それにしても、見ていて何と気持ちのよい作品でしょう。

嘘くさい演技が全くありません。演じている役者も、ごく普通の家族のようです。

それもそのはず。5人家族は、本物の5人家族だったのですから。お父さんがいてお母さんがいて、ナンサがいて妹がいて、そして一番下のおチビさんがいる本当のモンゴルの遊牧民バットチュルーン一家です。

実際に見ているときは、事前に知識を全く持っていなかったため、「劇映画なのか?」それとも「ドキュメンタリーなのか?」と何度も考えたほどでした。

監督・脚本のビャンバスレン・ダバーは、自国でもドイツでもドキュメンタリーを学び、卒業制作の『らくだの涙』もドキュメンタリー作品であるだけに、そもそもがドキュメンタリー志向の強い作家なのでしょう。

映画化を思い立ったあと、自分の母親が育ったという地域を走りに走り、約2週間旅して自分のイメージに合致する遊牧民一家を捜し歩いたといいます。そうして巡り会ったのがバットチュルーン一家だったわけです。しかし、撮影隊のドイツ人スタッフを見た子供たちは、生まれて初めて見るヨーロッパ人に驚き、監督の後ろに隠れたそうです。

DVDの特典映像のインタビューで監督が答えていますが、2番目の子は、灰色の眼をしたスタッフがいることに気がつき、監督に「眼が灰色だと草も灰色に見えるの?」と尋ねたそうです。

本作に出演しているのは全て素人です。ひとりの俳優も登場しません。監督は、彼らにことさら「演技」を求めず、逆に「待つ」姿勢を貫いたようです。

特に、子供たちとは仲良しになることから始め、彼らが気を許したあとで初めて見せる自然な動きをすかさずカメラに収めていったとのこと。撮影クルーは、家族と同じように、ゲルで生活したそうです。撮影が終わる頃には、子供たちは眼の色の違うスタッフにも少しは心を許していたことでしょう。

「子供たちは、自分が映画に出たとは思っていないでしょう」というようなことを監督が答えています。であるからこそ、見客は「これはドキュメンタリーか?」と戸惑うほどのシーンを生み出せたといえます。

それを見せられた私はといえば、ファーストシーンからやられっぱなしでした。

犬を埋葬するシーン。埋葬される犬と私は亡くしたばかりの愛猫だぶり、以後、上映が終了して場内が明るくなるまで、明るくなってからも、感情を刺激され続けたのでした。

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ラストまで一気に書くつもりでしたが、今日はここまでにしようと思います。大切に書いていくつもりです。読む立場に立てば、細切れで腹立たしく思うかもしれませんが、モンゴルの草原に吹き渡る風のように、ゆったりした気分で気長にお付き合い願えれば、と思う次第です。

人種の起源を同じくするモンゴルで生まれた本作。とかく、欧米中心の美意識に慣らされた私は、本作を見ることで、同じモンゴロイドであるナンサを自分を誇りに思ったのでした。