猛獣使いの悲劇

このところずっと、アーサー・コナン・ドイル18591930)の『シャーロック・ホームズシリーズ』をAmazonの電子書籍版で読むことを続けてきました。

きっかけは、昨年に、Kindle Unlimitedを無料で3カ月間利用できる権利を得たことです。このサービスを使えば、該当する書籍を何冊でも好きなだけ、追加料金なしに、つまり、無料で読むことができます。

通常は月額980円のところ、3カ月無料で利用できるのですから、利用しない手はありません。これに加えて、この利用期間に電子書籍の端末を新調したことで、無料の本サービス期間が伸びました。

Amazon Kindle 第12世代

これを利用し、無料で読めるシャーロック・ホームズシリーズを長編4作品、短編56作品の併せて60作品をまもなく読み終えます。

短編集は5冊ありますが、その最後となる『シャーロック・ホームズの事件簿』だけは、私が確認した限りでは、無料で読める版がないので、購入しました。その最終盤を今読んでいるところです。

私のKindle Unlimitedの利用期間はすでに終了しています。

この最後となる短編集に収めるられる作品に『覆面の下宿人』1927)という作品があります。本作品は、ジェレミー・ブレット( 19331995)がホームズを演じた英国のテレビドラマシリーズでもドラマ化されていません。

The Adventures of Sherlock Holmes Soundtrack – Sherlock Holmes Complete Theme

ホームズのところへは、さまざまな相談事が持ち込まれます。本作でそれを持ち込んだのは、ひとりの不気味な下宿人に部屋を貸すメリロウという名の中年女性です。

メリロウがホームズに相談しようと思ったわけではありません。下宿人の女性が、ホームズに自分の身の上話を聴いて欲しいといったので、メリロウがホームズのもとを訪れたのです。

下宿人がメリロウの家に下宿するようになって7年になりますが、メリロウが下宿人の顔を見たのはたった一度だけです。

しかも、一度でも見てしまったことを後悔しています。とても人間の顔には見えなかったというからです。

一度などは、下宿人が気を許して、顔を窓越しに晒してしまうことがありました。それを牛乳配達人がたまたま見てしまいます。配達人は下宿人の顔に驚いたあまり、提げていた牛乳缶を放り出し、前庭が牛乳の海になってしまうほどでした。

ホームズには、メリロウが持ち込んだ相談を聴くうち、ひらめいたことがあったのでしょう。彼女が帰ると、新聞の切り抜きの山に飛びつき、目的の記事を見つることに熱中します。そして、謎の下宿人が「アッパス・パーヴァの悲劇」の当事者であろうことを突き止めます。

その昔、サーカスの興業が盛んだった頃、人気のサーカス興行主のひとりにロンガーという男がいました。ロンガー率いるサーカス一座の人気の見世物のひとつに、ロンガーが妻と猛獣のライオンの檻に入り、檻の中でライオンに芸を披露させる猛獣ショーがありました。

このロンガー夫妻に悲劇が起きたのがアッパス・パーヴァという小さな村です。ウィンブルドンへ向かう道中にあるその村で、一夜のキャンプを張ったときに悲劇が起きたのでした。

檻の中でライオンに芸をさせるるのは、命がけことです。夫婦はライオンに絶対刃向かわせないよう、ライオンを手なずける餌を与えるのは夫婦だけに限られていました。

サーカス団がキャンプを張っていた深夜、一座の人間は、猛り狂うライオンの彷徨と女性の絶叫で目を覚まします。

駆けつけると、ライオンの檻の扉が開いており、仰向けに倒れたロンダ―婦人にライオンが馬乗りになり、婦人の顔をかきむしっていました。

そこから離れたところには、後頭部を破壊されて死んでいるロンダ―の姿がありました。

現場を見る限り、ライオンが檻から抜け出し、ロンダ―夫妻を襲ったとしか思えません。

この悲劇によって顔をずたずたにされたロンダ―夫人が、メリロウの下宿人なのでした。ロンダ―夫人は世をはかなんでいましたが、自分の身の上話をどうしても聴いてもらおうと、ホームズに手を差し伸べたのでした。

現場の状況からは事故としか思えないわけですが、もしも事故でないとしたら、そこでは何が起きたのでしょう。

真相は本編を読んで納得してもらうよりほかありません。

一命をとりとめたロンダ―夫人は、「卑怯者! 卑怯者!」とうわ言のように叫んでいたといいます。夫人は何に向かって叫んだのでしょう。