ビスタビジョンの変遷

映像のアスペクト比について書きます。これを書こうと思ったのはYouTubeで次の動画を見たことです。

Hollywood’s Forgotten Format

本動画では、横長のアスペクト比が誕生したいきさつと、それがどのように定着していったのかについて解説されています。

映画には、写真撮影で主に使われたロールに巻かれた35ミリ幅のフィルムが用いられました。フィルムの長さを長くすることで、撮影時間を長くすることができます。

デジタルになってから写真を始めた人は、フィルムのカメラには馴染がないと思います。スチルカメラで写真を撮る場合は、カメラの裏蓋を開き、フィルムが入った容器(パトローネ)をカメラの左側にセットします。

続いて、パトローネから外に出ている部分のフィルムを指で掴み、右側へ引き出していきます。レンズからの光が入る部分には閉じたシャッター膜があります。その上を通過させ、右側の巻取り軸に、巻き込みされるようにセットします。

フィルムの装填が終わったら、裏蓋を閉じます。あとは、フィルム装填時に露光した枚数分のシャッターを切り、巻き上げレバーでフィルムを巻き上げることを繰り返します。

フィルムの入れ方と取り出し方を Nikon F3 で解説

あとは、一枚撮影するごとに、巻き上げレバーでフィルムを巻き上げることを繰り返します。なお、撮影が終わったら、フィルムの容器を固定した側の軸を起こし、撮影済みのフィルムを容器に巻き戻します。

以上の説明からわかってもらえるように、写真撮影の場合、フィルムは左から右へ、水平移動します。

トーマス・エジソン18471931)が発明したといわれる映画の撮影と映写の技術は、写真のフィルムと同じ35ミリ幅のロールフィルムを用いますが、写真と大きく異なるのが、フィルムの移動方向です。

映画の場合は、上から下へ、垂直移動します。

この違いから気がつくことはありますか?

水平移動に1コマと、垂直移動の1コマでは、1コマの大きさが異なるであろうことです。

デジタル時代の今、写真好きの人は、フィルムの時代に馴染んだ35ミリフルサイズのカメラを好みます。フィルムの1コマに相当する撮像素子の有効撮影領域が35ミリフルサイズに調節されています。

フィルムを送るため、フィルムの両サイドにはパーフォレーションという穴が開いています。35ミリ幅のフィルムを使う135フィルムの場合は、パーフォレーション8個分を横の長さに使います。縦の長さは、フィルムの幅で決まっています。

ライカが採用した縦横比は縦が24mm、横が36mmで、これはライカ判と呼ばれ、35ミリフィルムを使う場合のスタンダードとなりました。デジタルカメラの35ミリフルサイズもこのサイズに準じています。

同じ35ミリ幅のフィルムを用いながら、映画は垂直方向へ移動させるのでしたね。ということは、水平における縦と横が逆になります。

1コマの縦の長さに収まるパーフォレーションの数は、横の場合の半分の4個になります。スチル写真の1コマの半分が、映画の1コマというわけです。

デジタルカメラにはさまざまなサイズの撮像素子が使われています。35ミリフルサイズの半分のサイズの撮像素子が使われたものにマイクロフォーサーズがあります。

横長の画面になる前のスタンダードサイズ時代の映画の1コマは、マイクロフォーサーズのサイズとほぼ同じといえましょうか。

サイレント時代の1コマのアスペクト比は、1:1.33です。アナログ時代のテレビ画面がこのアスペクト比です。

その後、1:1.375に改められ、この比率が35ミリ映画のスタンダードサイズとして定着しています。

映画の画面比が横長になったのは、テレビ放送が始まってからです。テレビでは得られない視覚的な体験を映画の映像に持たせるため、1950年代に、米国の映画スタジオの20世紀フォックスが、シネマスコープを実現しています。

35ミリフィルムを使うことは同じですが、レンズにアナモルフィックレンズを使うのがミソです。

撮影時には、スタンダードサイズの横幅を押しつぶすように撮影します。このようにフィルムに定着した映像は、映写時にもアナモルフィックレンズを使います。

その際は、撮影時と逆で、押しつぶされて縦長になった映像を正常な形に戻すことに使います。こうすることで、1コマがスタンダードサイズでありながら、横長の映像が得られるというわけです。

私は昔、8ミリ映画を趣味として楽しみました。当時もシネマスコープのような映像に憧れ、アナモルフィックを購入し、撮影と映写にそれを使い、横長の画面を楽しんだりしたのを思い出します。

ともあれ、シネマスコープのアスペクト比は、1:2.35です。

米国の同業他社はこれに対抗し、パラマウント・ピクチャーズビスタビジョンを開発ました。

原理は、スチルカメラの仕組みのムービーカメラへの応用です。

すでに書いたように、スチルカメラはムービーとは違い、フィルムを水平移動させて撮影します。同じことをムービーカメラに用いることで、垂直移動における2コマ分を1コマに使います。

その結果、縦が18.3mm、横が36mmになり、スチルの1コマとほぼ同じサイズになります。スチルでもムービーでも、1コマの面積が広いほど、画質はきめ細かくなります。

スチル写真の画像を見てわかるように、スタンダードサイズに比べて横の長さが伸びています。

しかし、オリジナルのビスタビジョンは短命に終わりました。水平方向にフィルムを移動させるカメラを新たに造らなければなりません。また、それまでのカメラの2コマ分が1コマになるため、フィルム代が2倍になります。

また、上映する映写機も水平移動にする必要がありますが、その映写機の普及が進まなかったのでしょう。

アルフレッド・ヒッチコック監督(18991980)の『北北西に進路を取れ』1959)もこの方式で撮影されたそうですが、上映には従来の垂直方向へフィルムを駆動する映写機が使われたそうです。

North by Northwest (1959) – The Crop Duster Scene (4/10) | Movieclips

それを実現するため、水平方向へ移動して撮影したフィルムを、垂直方向へ移動する従来の35ミリフィルムに焼き付けています。その際、横長の画面を維持するため、1コマごとに、画面の上下に黒いマスクをつけています。

パラマウント・ピクチャーズは、マスクの幅を調整し、1:1.85のアスペクト比を採用しています。これはアメリカン・ビスタと呼ばれます。ヨーロッパは1:1.66の比率で、ヨーロピアン・ビスタです。ハイビジョン放送はその中間の1:1.78(9:16)となっています。

1960年代に入ると、ムービーフィルムの性能が向上したことで、撮影時に上下にマスクを入れた簡易ビスタビジョンとして残りました。

より横長の映像を得るためとはいえ、本来の大きさの上下をマスクで塞ぐことは、スチル写真でいえば、35ミリフルサイズをAPS-Cにクロップして撮影するのに通じる話に思えます。

映写するスクリーンのサイズは同じなのですから、小さく撮って大きく映写することになり、画像の低下を生むのではないでしょうか。

それだったら、横に広い映像にはならなくとも、より高画質に撮影できる、クロップをしない撮影のほうが好ましいように素人の私は考えます。

私も、前回の更新で、マスクをかけて1:2.4のシネマスコープサイズに加工した動画を遊びで作り、紹介しました。

愛猫おてんばちゃん(シネマスコープ風)

画質の低下を気にしなければ、シネマスコープのような横長の画面にするだけで、映画のように見えるので、これはこれでおもしろいです。

画質のことも考えて、本気でシネマスコープの動画を撮ろうと思ったら、アナモルフィックレンズを使うよりほかなくなります。