原始感覚と油絵具

本コーナーの前回の更新で、夭折した画家の有元利夫19461985)について書きました。

私は記憶だけで書いているので、自分で書いたことがどこまで正しいかは自信がありません。

有元が使った絵具として、私はアクリル絵具と書きました。

気になって、昔にNKK教育テレビジョン(今はNHK Eテレ)で放送され、ビデオに録画してある有元を特集した回を部分的に見ました。

有元利夫の世界

放送の中では、岩絵具も使っていると話しています。

私は、有元は岩絵具だけでなく、アクリル絵具も使っていたと考えています。

私は岩絵具を使ったことがなく、知識を持っていません。ネットの事典ウィキペディアの記述を読むと、主に日本画で使われる絵具で、顔料染料で溶いて使うそうです。

【日本画講座】岩絵の具の溶き方・使い方/How to use mineral pigment

有元は綺麗な石を見つけると、それを拾って家に持って帰り、砕いて粉状にし、絵具として使ったというような話もあります。

石から作った絵具は、色を表現するのにも使いつつ、ざらっとした材質感を持つでしょうから、マチエール(絵肌)の表現に使った面もあったのではと想像します。

有元が、ピエロ・デラ・フランチェスカ1412~ 1492)に大きな影響を受けていることも書きました。そのことが、有元に岩絵具を選ばせたのでしょう。

私が所有するビデオ『有元利夫 絵と音の世界』箱(裏)

有元が学んだのは、東京芸術大学のデザイン科です。もしも有元が油絵具を使ったら、どんな作品を描いただろうと想像してしまいます。

アクリル絵具と油絵具は、扱い方が違います。

アクリル絵具は水で溶くことができ、すぐに乾きます。油絵具は、主に油で練られており、溶剤にも油分を含むため、基本的には乾燥しません。長い時間をかけて固まるのです。

だから、アクリル絵具と油絵絵具では、絵具を筆ですくったときの感覚が違います。油絵具はねっとりとして、重さを感じます。

油絵具も溶剤で薄く溶くことができますが、今書いたような理由で、アクリルの時のように薄く塗ると、なかなか固まってくれません。

このような性質を持つため、有元のような表現を油絵具で実現するのは難しかったでしょう。

私は、アクリルで描くことをして、自分なりに描き方を身に付けました。暗部を透明や半透明に描き、明部に絵具を不透明に塗るような描き方です。そして、明部を乾かした上に、透明な絵具をグラッシ(グレーズ)するようなこともします。

油絵具を使い始めた頃、同じことを油絵具で試そうとしました。しかし、自分が考えたようにはいきませんでした。これまでに書いたように、アクリル絵具と違い、油絵具は乾燥することがないからです。

油絵具でもグラッシの表現はできます。しかし、そのためには、下の層を安定させるための時間が必要になります。各層ごとに安定させるため、時間がかかるということです。

こんな性質を持つため、一般的に、油絵具は、生乾き(層が安定していない状態)のまま別の色を重ねて描くことが多くなります。

筆と絵具の扱い方は、描く人それぞれに、その人なりの「作法」を持つでしょう。

油絵具は扱いが難しいです。しかし、扱っていて心が踊るのは油絵具です。アクリル絵具ではそれを感じられません。筆を通して感じられる油絵具の物質性が、心を刺激するのかもしれません。

米作りも機械化されました。現代は、苗を手で植える農家はまずないか、あっても極めて希でしょう。

少しの面積でもいいです。自分の手で苗を植えると、油絵具を筆ですくったときの感覚と近いものが感じられかもしれません。

油絵具で絵を描くと、人間に備わる、原始的な感覚が呼び覚まされます。