昨日、東京マラソンが行われました。日本国内で行われるメジャーのマラソン大会では、本大会だけ、男女の選手が同時に疾走します。
私は普段テレビを見ることは限られます。そんな私ですが、陸上競技のマラソンと駅伝には興味を持つので、大会があれば、テレビで生中継を見ることをよくします。
昨日も、スタートして30分ぐらい過ぎたあたりから見始め、結局、主力選手がゴールインする時間まで見ました。
私が見始めたときは、トップグループが、先頭グループ、第2グループ、第3グループぐらいに分かれていました。それぞれにペースメーカーがついており、設定されたタイムで導かれています。
ペースメーカーがレースを離れるのは30キロぐらいで、そこからが、ランナーの真剣勝負となるでしょう。
驚いたのは、先頭グループに青山学院大学を今春に卒業する太田蒼生選手がいたことです。先頭グループは、そのまま行けば、日本記録はもとより、2時間3分を切るようなペースだという話でした。
太田選手がそのままゴールまで走り切ることができれば、初マラソンで、それまでの日本記録を大幅に更新することになります。レースの半分ぐらいまでは疲れた様子もなく、とんでもない記録が出るのかと思って見ていました。
太田選手は青学の駅伝メンバーで、箱根駅伝での活躍していますので、駅伝ファンであれば、彼のことは知っているでしょう。
レース後の話によれば、今の世界のマラソンのトップレベルに自分がどれぐらい通用するか確かめたい気持ちを持っていたようです。そのために、先頭グループでレースを続けたのでしょう。
結果的にはオーバーペースとなり、中盤以降失速し、30数キロ過ぎで棄権したそうです。彼には今後の奮起を期待しましょう
第2グループには、レース前に予想に上がっていた日本の有力選手がいました。その中の誰かが日本選手の争いに勝ち、記録が良ければ、今年の9月に東京で開かれる世界陸上のマラソン日本代表の座を自分の手に近づけることになります。
レースの終盤になり、思わぬ選手が浮上してきました。レース前にはまったく話題に上らなかった選手です。よほど長距離分野に興味を持つ人でなければ、そんな選手がいることも知らない人がほとんだと思います。
レースのテレビ中継で、第2や第3のグループの日本人選手をリポートするときも、彼の名はそれまで一度も告げられなかったように記憶します。
最後の最後で日本選手のトップでゴールテープを切ったのは、市山翼選手です。体が特別大きいわけでもありません。ほとんどノーマークの選手が日本人のトップ選手となりました。
記録的にも2時間6分で、日本の男子マラソンで歴代10位の記録です。本人のこれまでの自己ベストが2時間7分台ですので、大幅に記録を更新できたことになります。
市山選手は大学卒業後、埼玉医科グループの所属となり、その後小森コーポレーションに替わったあと、今はサンベルクスで競技を続けています。
私は初めて聞く企業だったため、ネットで調べました。東京の足立区にある企業で、スーパーマーケットの「ベルクス」を経営しているとあります。
同社は2012年に陸上部を作り、後進の指導に力を入れ、少しずつ芽が開いているといったところでしょうか。
私の家では新聞を4紙とっていますが、どの紙のスポーツ面にも彼のことが書かれていました。そのどれかに書かれていたところによると、高校時代も陸上の長距離種目をやってはいたものの、特別好成績を上げていたわけでもないようです。
箱根駅伝で走りたいという希望もあったのか、埼玉の大宮東高校を卒業後、スポーツ推薦枠ではなく、一般入試で千葉の中央学院大学へ入学し、陸上部に入っています。
陸上部に入ったとき、同学年は25人ぐらいいたそうですが、記録的には下から3番目だったそうです。
同大の陸上部で4年間練習し、少しずつ力をつけていったのでしょう。4年生のときはエースとなり、箱根駅伝では花の2区を走っています。
本人にとっても、入学時のことを思えば、信じられない気分だったでしょう。
同大学陸上部のコーチから、マラソンへの適性があるといわれたことが、今の、そして、昨日の結果にもつながったものと思います。
現在は、週4日、1日5時間、スーパーマーケットで商品の品出しや発注の仕事をし、その傍らで練習を続けているそうです。
昨日のレースでも、自分の前に日本人選手がいると思って、最後まで走り、レース後に自分が日本人のトップだったことを知ったそうです。
レース後には、「もっと速い選手がたくさんいらっしゃるので、さらに力をつけて戦いたい」と報道陣に語っています。
大リーグ(メジャーリーグベースボール)で大活躍する大谷翔平選手(1994~)のように、マチュア時代からスポットライトを浴び、マスメディアから注目を集め、そのまま大選手に育つ人もいます。
しかし、今回取り上げた市山選手のように、レース直前やレース中でさえもほとんど注目されないながら、自分の持つ力を発揮する人がいます。
マラソンを人生にたとえるいい方があります。
多くを望まず、それでも、そのときに自分ができることを黙々と続けるのも、その人なりの人生といえましょう。華々しさはなくても、自分なりの感触が得られれば、当人にとっては幸せなことだろうと思います。
市山選手の昨日の走りは、同じような人生を歩んでいる人には、ひとつのヒントになったのではないでしょうか。
「人間至る処青山あり」を身を持って示してくれたのが昨日の市山選手であるように感じました。
