旧い米国映画に『大時計』(1948)という作品があります。ご存知ですか? 私は知りませんでした。
その作品を、Amazon Primeで見ました。私はAmazonの有料会員です。ですので、追加料金なしで何度でも見ることができます。1時間半程度の作品だったこともあり、続けて二回見ました。
時間が空いたので、YouTubeで何か見るものがないか考えました。特に見たい動画がなかったので、Amazon Primeで、最初にお勧めに上がっていた本作品を選びました。
選んだ理由は、動画のサムネールにある俳優の顔に見覚えがあったからです。レイ・ミランド(1907~1986)という俳優です。彼が本作の主人公、ジョージ・ストラウドを演じています。
本作について書かれたウィキペディアでは、彼の役名を「ジョージ・ストロード」としていますが、本作の動画につけられた字幕では「ストラウド」となっているので、ストラウドということで書いていきます。
本作には原作があります。それを書いたのはケンス・フィアリングです。Amazonの電子書籍版で原作があるか確認するとあるので、あとでそれも読もうと思っています。
脚色したのはジョナサン・ラティマー(1906~ 1983)ですが、台詞がポンポンやり取りされ、テンポよく物語が展開されます。
上に埋め込んだ動画もそうですが、本作の動画をYouTubeで見ると、ストラウドが他の男ふたりとマイクの前に立ち、何かをしゃべるシーンがあります。
そのシーンが、私が見たAmazon Primeには登場しません。Amazon版はそれがカットされているのでしょうか?
監督はジョン・ファロー(1904~ 1963)です。この名を聞いて、私はある女優を思い浮かべました。とてもチャーミングなミア・ファロー(1945~)です。実は彼女はこの監督の娘です。彼女が3歳のときに作られたのが本作です。
『大時計』という題名を知っても、どんな作品か想像できないでしょう。私も見るまではどんな内容かわかりませんでした。
作品はモノクロームで、スタンダードサイズです。舞台はニューヨークで、白黒の映像で高層ビルを映したあと、あるビルの中にカメラが入っていきます。そこは、主人公のストラウドが働くジョナス出版社の自社ビルです。
画面は、そのビルの頂上にある大時計の内部に切り替わります。その中に、他人の目を逃れるようにしているストラウドがいます。ストラウド自身の独白で、36時間前は、そこから見渡せる玄関ロビーに自分もいて、そこには当たり前の日常があったというようなことを語ります。
そのあと、36時間前からストラウドの身に起きたことが描かれるという趣向です。
ストラウドを演じたレイ・ミランドは英国出身で、米国に渡って俳優になりました。はじめはなかなか芽が出なかったそうです。
38歳の年に公開されたビリー・ワイルダー監督(1906~2002)の『失われた週末』(1945)で主演し、アカデミー主演男優賞を獲得し、地位を得ています。
ということは、その3年後に本作で主役を演じていることになります。当人は主演男優賞を受賞していますから、演技にも自信を持っていたでしょう。
彼は後年、米国の刑事ドラマで、私が好きな『刑事コロン』シリーズに二度ほど出演しています。シリーズ11作目の『悪の温室』では犯人を演じました。
コロンボシリーズといえば、今月9日から、毎週土曜日の夕方にNHK BSでまた、シリーズの放送が始まりました。私はこれまでに何度も本シリーズを見ていますが、今回も、全作に付き合うことになるでしょう。何度見ても楽しめます。
ミランド演じるストラウドは、3000万部以上の発行部数を持つ雑誌の花形編集者です。やり手で、上司にも自分の本音をいえるタイプです。女性の扱いも上手です。
仕事にのめり込まざるを得ない立場にあるため、家庭を蔑ろにせざるを得なくなり、妻はそれを不満に感じています。
7年前に結婚し、小さな息子(原作では娘)がひとりいます。結婚した時に新婚旅行をする約束を妻にしていましたが、ちょうどそのとき、栄転が決まったことなどがあり、未だに新婚旅行を実現できていません。
その後も、その旅行をしようとすると邪魔が入り、実現できずにきたようです。
今回も、「事件」が起こらなければ、7年目にしてやっと「新婚旅行」に行けるところでした。
そんなストラウドが得意とするのは、たとえば指名手配されている犯罪者の居所を、警察より先に見つけたりできることです。ストラウドの下には多くのスタッフがおり、彼らの力も借りて、それを成し遂げています。
ストラウドが働く出版社は、社名にその名がつくジョナスが社長をしています。一代でそれだけの出版社にしたようです。その社長を演じるのは、こちらも英国出身の舞台俳優であり映画俳優であり、映画監督もしたチャールズ・ロートン(1899~1962)です。
彼が画面に現れたとき、すぐにロートンだと気がつきました。
ロートンは、ビリー・ワイルダーがアガサ・クリスティ(1890~ 1976)原作の『情婦』(1957)を映画化したとき、超自分勝手で不遜で、そして非常に有能な弁護士を演じています。
ストラウドを演じたミランドが『失われた週末』で彼自身のキャリアを得たからか、本作でも、破天荒な女流画家の作品が失われたとして「失われた傑作」などと描くシーンが忍び込まされています。
このあたりにも、脚本家の遊びの要素が感じられます。
長回しをするカメラワークは、見る人にカメラがあることを意識させません。それだけ自然に撮影しているということです。学ぶべき点がとても多いです。
こうしたこともあり、本作は本来はもっとシリアスに描いてもいいところ、全体的にはコミカルで、台詞のやり取りを楽しむ作品といえましょう。
人が死んでも深刻には描かれません。
ストーリーについては書きませんでした。私が本作のタイトルをつけるとしたら『ストラウドの災難』とするでしょう。
二度見て話が頭に入ったので、カメラワークだけに着目して、もう一度見てみようと思っています。
本作は、知る人ぞ知る、隠れた傑作といえましょう。
