巨大地震予知の狂気

ちょうど1カ月前、南海トラフ巨大地震発生の可能性が高まったとして「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されました。

その後の1カ月間に巨大地震は発生していません。このすぐあとに発生するかもしれませんし、このまま、何年も発生することがないかもしれません。

結局のところ、あの臨時情報はなんだったのかと思わずにはいられません。

1カ月前といえば、お盆休暇の直前でした。その休暇を利用し、帰京や行楽の計画を立てていた人もいたでしょう。

巨大な地震が8日から1週間程度の間に発生する可能性が高まったと聞き、帰京や行楽を取りやめた人もいたでしょう。特に、南海トラフの大きな影響を受ける地域へ行くことは控えられたと思います。

その地域にある海水浴場が軒並み閉鎖されたとの報道を目にしました。それでなくても、ピーク時に比べ、全国の海水浴場の数が激減していると聞きます。それに加えて、一年で最も稼ぎ時に閉鎖したのですから、関係者の痛手は小さくなかったでしょう。

東海から西の地方の宿泊施設は、予約をキャンセルする人が多く出たとのことでした。

今、米不足が報じられています。それがどの程度深刻なのか、私は把握していません。マスメディアが必要以上にそれを騒いでいる可能性を疑ったりもします。

この米不足の原因に南海トラフ巨大地震の予測が影響したとの分析もあるようです。災害に備え、米を買い溜めする動きが起きたという話です。

このように、予測を発表することで、社会のさまざまな方面に広く影響が及ぶことを考えれば、今後は、予測の発表はできるだけ慎重であるべきです。

大騒ぎしただけで、予測された巨大地震は発生しませんでした。これでは子供の肝試しと同じで、幽霊だと騒いだ正体が、友達の影を見ただけというのと変わりません。

臨時情報が結果的に空振りしても、災害が起きなかったのだから、情報の発表を非難するのは良くないと理解を示す人が多くいるようです。

その受け止め方はどうでしょうか?

今から10年や20年ぐらい前だったと思います。世界的な専門家によって、地震予知が不可能であることが指摘されています。将来的には南海トラフは発生するでしょう。しかし、その発生時期を予測することはまず無理です。

それがなぜか、1カ月前、1週間の期間まで作り、南海トラフ発生の可能性が高まったと突然のように発表されました。その自信はどこから生まれたのでしょうか?

昨日、YouTubeで、ある著名な投資家に興味深い話を訊く動画を見ました。その投資家はハワード・マークス氏(1946~)で、あのウォーレン・バフェット氏(1930~)からも一目を置かれる人です。

私はこれまでマークス氏を知りませんでした。

このところ、株価の変動が大きい状態となり、関連の動画をYouTubeで見る中で、マークス氏の存在と、氏の投資に対する考え方に興味を持ちました。

マークス氏の投資理論で特徴的なのは、経済予測を信用しないことです。また、利益が得られるのであれば、投資先が優秀である必要がなく、米国で最低な企業であっても、勝機があると見れば投資するというスタンスのようです。

この投資スタイルはバフェット氏とはずいぶん違います。バフェット氏は投資先を徹底的に調べ、自分が知らない分野には長いこと投資をしませんでした。

それだから、IT分野が急成長した時期もそれらに投資せず、その分野が十分成長したあとになって、アップルに投資したのが話題になったほどです。そのアップルへの投資ですが、バフェット氏はここ最近、アップル株を大量に手放したことがニュースになりました。

南海トラフ発生の可能性の話にマークス氏の話を加えたのには理由があります。マークス氏がインタビューで答える中で、あるたとえ話をし、それが連想となりました。

マークス氏へのインタビューを、私が注目した部分から始まるように設定し、下に埋め込みます。

ウォール街の重鎮ハワード・マークスが語る「経済予測を信じない投資」の極意【モーサテプレミアム特別コンテンツ】

インタビューアーが、日本銀行は2%物価上昇目標が達成できるといっているが、それが持続的に実現可能だと考える人はほとんどいないと話し、マークス氏の反応を待ちます。

マークス氏は、それこそが私たちが今している会話の本質だと述べ、次のようなたとえ話をします。

アインシュタインは狂気というものを次のように定義している。「同じことを何度も繰り返して、異なる結果を期待することが狂気だ」と。

続けて、このたとえ話に次のような補足を加えます。

予測する人が何年も同じ予測をして、それがめったに当たらなければ、その予測に耳を傾けるのは止めるべきだ。

これは、地震予測にそのまま当てはまるのではありませんか? これまで、公式な機関があらかじめ地震を予測し、そのとおりに地震が発生したことがありますか? おそらく一度もないでしょう。

地震だけでなく、火山噴火の予測でも同じことがいえます。御嶽山(おんたけさん)の噴火で、登山者58人が犠牲になり、5人が行方不明のままです。

Video: Japan volcano shoots rock & ash on Mount Ontake – BBC News

あの噴火こそ事前に予測して欲しかったですが、予測はまったくしていません。

今回の南海トラフの予測にしても、結果的には当たっていません。当たらなかったのは幸いなことで、予測は必要だという声も聞きますが、それは何のために必要なのですか?

結果的に当たらない予測によって社会に混乱が起こることの方が問題です。何年、何十年後かに起こるかもしれない天災に日々神経を尖らせて生きていたら、精神がやられ、病気になるのがおちです。

そんなことを考えるに、1カ月前に突如出された臨時情報にどんな意味があったのか、私にはわかりません。

いつも同じ方法で地震予測しているのではないかもしれません。しかし、一回ごとにそれを大きく変えているとも思えません。それでも、次こそは異なる結果になると期待するなら、アインシュタイン18791955)に「あなたがたがやっていることは狂気だ」といわれてしまいかねません。

その発表を伝えるマスメディアにしても、オウム返しに伝えるのではなく、もう少し理性的に考え、マスメディアなりの視点で、冷静に伝える努力をしませんか?

世の中にはわからないものが山ほどあります。投資の先の見通しは、その道のプロ中のプロでもわからないはわからないと素直に認めています。

天災が発生する予測も、人間にはわからないのだということを基本にする必要があるように私には思えます。