日本語の特徴は、最後まで読んだり、聞いたりしないと結論がわからないことです。
例をひとつ挙げます。
駅売りのスポーツ新聞にこんな見出しが大きく載っていたら、思わず手にしたくなるでしょう。どんなことが書いてあるかワクワクして新聞を広げると、折り目の下に次のようにありました。
_できず
新聞は、偏りのない報道を心掛けるといいます。が、注意して読むと、新聞社が隠している本音に気がつくことができます。
昨日の朝日新聞は、社会面を使って、安倍晋三首相の唐突過ぎる休校要請を取り上げています。見出しは、「突然の『休校』、混乱 試験は・入試は・卒業式は 新型肺炎」です。
安倍首相が要請した休校の判断はまた別の機会で取り上げるつもりですが、今回は、これを報じた朝日の記事に注目し、朝日が心の奥に隠しているのかもしれない、安倍首相への忖度を推察することにします。
まず、注目するのは、この要請について、識者3名の感想を伝える部分です。登場するのは、コラムニストの小田嶋隆氏、教育評論家の妹尾昌俊氏、東京慈恵会 医科大教授(予防医学)の浦島充佳氏です。
具体的な感想は省略し、それぞれの感想につけられた見出しを、小田島氏、妹尾氏、浦島氏の順に並べます。
- やってる感
- 教育格差を懸念
- 感染抑制に期待
どんな読み物でも、通常は上から順に読んでいきます。そして、読み終わったあと、記憶に強く残るのは最後に書いてあることです。
ある若い女性がいたとします。彼女の特徴を、「笑顔が可愛い」ことと「金遣いが荒い」ことにしましょう。それをひとつの文章にしてみます。
- 彼女は金遣いが荒いけれど、笑顔が可愛い。
- 彼女は笑顔が可愛いけれど、金遣いが荒い。
同じことを公平にいっていますが、受ける印象が違うことに気づきませんか。どうしても、あとに書かれたことが、読んだ人の印象により強く残ります。
これを、昨日の朝日に載った3人の識者に当てはめるとどうなりますか。3人の異なった見方を一見公平に紹介しています。が、安倍首相が突如いい出した全国の公立の小学校・中学校・高等学校の休校要請を、読者に是認させる紹介をしているのでは、と私は受け止めました。
こうした「隠れた工作」は、保護者の感想の紹介からも見てとれます。
共働きで小学校6年と2年の娘を育てる東京・中野区の会社員の女性(41)は、「急すぎる。無責任すぎる」と憤ります。
次は、九州地方に住む40代の女性です。失業中で、就職活動をしています。彼女には、4月に就学を控えた幼稚園児と中学に通う子供がいます。
「仕事を探さなければいけないので、いざとなれば、中国地方の実家に子どもを連れて行くつもり。でも、頼る実家がない母子家庭は死活問題では」と話します。
保護者の3人目は、福岡市中央区で専業主婦をする女性(41)です。小学校5年と1年の娘がいます。彼女は、要請がある前から感染を心配していたため、「早く学校が休みになればいいと思っていた」と答えます。
保護者の最後は、大阪市内の女性(31)です。小学校と幼稚園に3人の子供を通わせていますが、自主的な判断で、1月末から登校と登園を控えさせたそうです。それだから、「休校と聞いて、私も子どもも心底ホッとした」と述べます。
3人の識者の感想の紹介と同じ構成です。はじめに、要請に強く戸惑う人の声を載せ、要請に理解を示す声で締めています。
新聞の記事の構成を考え、自然にこの形になったのなら、そうなのか、と思わないでもありません。しかし、もしも、ここに、この記事を書いた記者や紙面を構成する担当者らの思惑が働いた結果であるとすれば、朝日新聞が隠そうとする本音が、透けて見える気がします。
同じ構造は、テレビニュースも同じです。新聞やテレビの報道を注意して見ることで、権力に忖度する日本の報道機関が共通して持つ歪みを知ることができます。