相変わらず、Amazon Prime Videoで古い映画を見ています。古い時代こそがハリウッドのもっとも輝いていた時代です。だから、スタジオセットをはじめとして、映像づくりに携わる職人たちによって、手抜きなしで作られています。
昨日見たのは『生きている死骸』(1941)です。本作は、先の大戦が終わった2年後の昭和22年(1946年)に日本で封切られています。
製作されてから5年あとになりますが、間に戦争が挟まっているので、私が想像したよりも早い公開に感じました。
原題は”Ladies in Retirement”で、直訳すると「引退生活を送る女性たち」「隠遁(いんとん)生活を送る婦人たち」になるそうです。もう少し補足を、GoogleのAI Geminiにしてもらいます。
このタイトルには、作品の内容をふまえるといくつかの含みや皮肉が込められています。
- 物理的な「隠遁(いんとん)」: 物語の舞台が、都会から離れた霧深い湿地帯の古いお屋敷という、まさに社会から切り離された「世間から身を引いた(引きこもったような)場所」であることを表しています。
- 「隠居」や「老後」のニュアンス: 作中では、年老いた姉妹(エミリーとルイーザ)が穏やかな「隠居生活」を送るためにフィスク夫人の屋敷に転がり込んできます。しかし、その平和なはずの隠居生活が、次第に狂気と犯罪に満ちたものに変貌していくという皮肉が込められています。
- ダブルミーニングとしての「退場(引退)」: 英語の “in retirement” には「引退して」のほかに、婉曲的に「(世間や人生から)身を引く」「(永遠に)去る」といった意味合いも重なってきます。物語の展開を振り返ると、このタイトルは実にブラックで意味深な響きを持っています。
ちなみに、日本の公開時の邦題である『生きてる死骸』は、ホラー映画のような衝撃的なタイトルですが、原題のほうは一見すると上品なドラマを思わせる落ち着いたタイトルなのが、かえって不気味なサスペンスの雰囲気を引き立てていますね。
本作には原作があるのかと訊き、次のことを教えてもらいました。
本作は、イギリスの劇作家レジナルド・デンハム(Reginald Denham)とエドワード・パーシー(Edward Percy)による同名の舞台戯曲『Ladies in Retirement』が原作です。
- 舞台版のヒット: 1940年にはブロードウェイ(ニューヨーク)でも上演されて大ヒットを記録し、人間の心理をえぐる密室劇として高く評価されました。
原題の説明にもあるように、本作の舞台は、英国のテムズ川河口の湿地帯で、霧深い風景の中にある古い屋敷で繰り広げられる話です。
私は本作をとても面白く見ることができました。理由は、出演者がどれも魅力的に感じられたことです。主な登場人物をGeminiにまとめてもらいます。
エレン・クリード(演:アイダ・ルピノ)
- 主人公。裕福なフィスク夫人のお屋敷で住み込みの家政婦として働いています。世間から孤立した精神的に不安定な2人の妹を深く愛しており、彼女たちを守るためならどんな犠牲もいとわない強い決意と狂気を秘めています。
レオノーラ・フィスク夫人(演:イソベル・エルソム)
- エレンが働く大邸宅の女主人。普段はエレンに好意的ですが、エレンの奇妙な妹たちが屋敷に転がり込んできたことでトラブルになり、ついには彼女たちを追い出そうとします。
アルバート・フェザー(演:ルイス・ヘイワード)
- エレンの甥を自称する男。銀行の金を使い込んでしまい、その穴埋めの金を無心するためにお屋敷にやってきます。調子が良く、後に事件の秘密に気づいてエレンを脅迫しようとします。
エミリー・クリード & ルイーザ・グリード(演:エルザ・ランチェスター、エディス・バレット)
- エレンの2人の妹。社会に適応できず、奇異な癖や執着(収集癖など)を持つエキセントリックな性格です。
ルーシー(演:イヴリン・キース)
- お屋敷で働くもう一人の若いメイド。
女性の登場人物が多いですね。いずれも魅力的な女性ばかりです。彼女たちを見ているだけで楽しめます。
この中で私がもっともなじみがないのが、意外なことに、主人公 エレン・クリードを演じるアイダ・ルピノです。彼女について、Geminiに教えてもらいましょう。
イギリス・ロンドンの芸能一家に生まれ、若くしてハリウッドに渡った彼女は、その美貌と気丈さ、そして何より抜群の演技力でスターの座をつかみました。
- 影のある役柄の代名詞: 当時のハリウッドで主流だった「か弱いお姫様」的なヒロインではなく、気性が激しかったり、心に深い闇を抱えていたり、強烈な執念を持つ女性(ファム・ファタールや切実な犯罪者など)を演じるのが非常に上手い俳優でした。
- 代表作: 本作『生きてる死骸』(1941年)のほか、ハンフリー・ボガートと共演した傑作フィルム・ノワール『ハイ・シエラ』(1941年)、映画史に残るミュージカル『深夜の告白』(1947年)などで、ただ美しいだけではない、泥臭くも切ない女性の人間模様を体現しました。
ハリウッド唯一の「女性映画監督」としての偉業
彼女の最大の特筆すべき点は、俳優としてだけでなく、1950年代のハリウッド・スタジオシステムの中で、唯一コンスタントに映画監督として活躍した女性であるという歴史的な業績です。
- 男性社会だった当時の映画界で自ら製作会社を立ち上げ、社会派の低予算映画やフィルム・ノワールを次々と手がけました。
- 未婚の母、レイプ被害、ビッグガミー(重婚)など、当時のハリウッドがタブー視していた重い社会的テーマを真正面から女性の視点で描き、のちの女性映画監督たちの先駆者となりました。
彼女がそれほどの才媛だったとは知りませんでした。
彼女が演じるエレンには、始まりの時点では、離れて暮らしている二人の妹思いの女性です。彼女はとてもよくできた女性で、本作の舞台であるレオノーラ・フィスク夫人が一人で暮らす屋敷で家政婦をしています。
フィスク夫人はおおらかな性格で、彼女の世話をするエレンも、彼女と良好な関係にあります。
しかし、心配事が起きます。彼女のもとに郵便が届きます。そこには、妹二人が二人そろって風変わりであるため、問題を起こしてばかりなので、今住んでいる家から立ち退きを求められていることが書かれています。
それを知った妹思いのエレンは、妹たちを救うため、今自分が世話になっているフィスク夫人のもとで、一緒に暮らせないかと考えます。
フィスク夫人を演じたのはイソベル・エルソムです。彼女も、私が過去に見た作品に出演していたことがわかりました。彼女についても、Geminiに教えてもらいます。
イソベル・エルソム(Isobel Elsom)は、イギリス出身の女優です。映画や舞台、テレビで長く活躍し、ハリウッド映画においては「気品あふれる上品な貴婦人や上流階級の女性」といえばこの人、と言われるほどの定番バイプレイヤーとして知られています。
彼女の主な特徴とキャリアをご紹介します。
キャリアのハイライト
- 舞台『生きてる死骸』からの縁:実は彼女は、映画化の前に行われたブロードウェイの舞台版『Ladies in Retirement』でも、裕福な被害者(フィスク夫人)の役をオリジナルで演じていました。舞台での高い評価がそのまま映画版への出演につながり、スクリーンでも見事に気さくでありながらどこか隙のある邸宅の女主人を好演しました。
- ハリウッド名作への多数出演:1940年代以降はアメリカに拠点を移し、数々のハリウッド名作に気品ある脇役として顔を出しています。
- 『幽霊と未亡人』(1947年)
- チャールズ・チャップリン監督の『殺人狂時代』(1947年)
- アルフレッド・ヒッチコック監督の『パラダイン夫人の恋』(1947年)
- 名作ミュージカル『マイ・フェア・レディ』(1964年) など
チャップリンの『殺人狂時代』にも出演しているのですね。『殺人狂時代』も、何度見ても楽しめる作品です。筋がわかっていても、チャップリン演じる「殺人鬼」が、殺人を画策する様子がユーモラスに描かれているからです。
思い出すのは、チャップリン演じるヘルドゥが、一人の婦人をターゲットに選び、二人で小舟に乗り、そこで殺そうとします。しかし、それがうまくいかない様子が実にコミカルに描かれています。
その時に演じていたのが本作でフィスク夫人を演じたイソベル・エルムソかどうかはわかりません。
そうそう、そのシーンです!『殺人狂時代』の非常に有名で、かつブラックユーモアに満ちた名場面をよく覚えていらっしゃいますね。
あの、チャップリン演じる主人公ベルドゥが、未亡人(実は彼女は別の金持ちの女性で、イソベル・エルソムが演じたのとはまた別のターゲット、マリリン・ナッシュ演じる女性だったりします)をボートに乗せて「ここで転覆させよう」と企てるものの、逆に女性のペースに振り回されたり、ボートが揺れて自分が落ちそうになったりするドタバタ劇は、本当に最高に面白いですよね。
私が、女性出演者の中で、個人的に一番魅力的に感じたのは、主人公 エレンの上の妹 エミリーを演じたエルザ・ランチェスターです。
彼女についてGeminiに教えてもらい、そうだったのかと驚きました。
エルザ・ランチェスター(Elsa Lanchester)は、イギリス出身の名優で、映画史に残る数々の名作で「個性派・名脇役」として強烈な存在感を放った名女優です。どこか鳥のようにシャープで独特な愛嬌があり、風変わりで一癖ある人物を演じさせたら右に出る者がいないと言われるほどの演技派でした。
彼女の代表的な特徴やキャリアをいくつかご紹介します。
代表作とキャリアのハイライト
- 『フランケンシュタインの花嫁』(1935年)
- 彼女の最も有名な役柄が、このホラー映画の歴史的傑作で演じた「フランケンシュタインの花嫁」です。頭に包帯を巻き、奇妙な悲鳴を上げるクリーチャーの花嫁姿は、映画史における最もアイコニックなビジュアルの一つとして語り継がれています(冒頭で原作者のメアリー・シェリー役も兼任しています)。
- 『情婦』(1957年)
- ビリー・ワイルダー監督の傑作サスペンス。チャールズ・ロートン(彼女の実際の夫でもあります)演じる頑固な弁護士の健康を常に心配し、口うるさくお世話をする看護師ミス・プリムソルを演じ、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされました。
- ディズニー映画への出演
- キャリアの後半には、『メリー・ポピンズ』(1964年の乳母ケイティ・ナンナ役)や『サンタクロースをもらった男』(1968年)など、名作ファミリー映画やディズニー作品にも愛嬌のあるおばあちゃん役などで多数出演し、お茶の間にも親しまれました。
私生活と作風
- 夫は同じく名優のチャールズ・ロートンで、夫婦で多くの舞台や映画に共演しました。
- 主役を張るスターというよりも、物語のなかにスパイスを効かせる「一度見たら忘れられない個性」を持つ名バイプレイヤーとして長く愛された俳優です。
彼女が、ビリー・ワイルダー監督の『情婦』で、弁護士を演じたチャールズ・ロートンとは夫婦関係にあったのですね。知りませんでした。
とても魅力的に感じる女性です。
『フランケンシュタインの花嫁』は、作品のポスター画像は見かけたことがあるように思いますが、本編は見たことがないです。近いうちに、見てみることにします。Amazon Prime Videoにあるといいですが。
フィスク夫人のもとで働くもうひとりの若いメイドにルーシーという女性がいます。登場する女性たちの中でもっとも年下です。綺麗な女性です。
彼女を演じたイヴリン・キースについて訊き、これも意外なことを知り、驚きました。
お屋敷の若いメイド・ルーシー役を演じたイヴリン・キース(Evelyn Keyes)は、ハリウッド黄金期に活躍した、親しみやすく華のあるアメリカ人女優です。
彼女のキャリアにおける主なポイントをご紹介します。
代表作と主なキャリア
- 『風と共に去りぬ』(1939年)の演出:彼女の経歴で最も有名な役柄の一つが、映画史に残る超大作『風と共に去りぬ』で演じたスカーレット・オハラ(ヴィヴィアン・リー)の妹スエレン役です。わがままで生意気な妹役を好演し、一躍注目を集めました。
- コロムビア・ピクチャーズの専属名女優:その後コロムビア・ピクチャーズの看板女優となり、『幽霊ニューヨークへ行く(原題:Here Comes Mr. Jordan)』(1941年)や、大ヒット音楽映画『ジョルスン物語』(1946年)のヒロインなど、ドラマやコメディ、ミステリー作品で幅広く活躍しました。
- 『七年目の浮気』(1955年):後年には、マリリン・モンロー主演の名作コメディ『七年目の浮気』で、主人公トム・ウェルの妻(夏の間旅行に出かけている妻)役を演じたことでも知られています。
私が注目したのは、これまたビリー・ワイルダー監督の『七年目の浮気』で主人公の妻を演じていたことです。本作を見ていて、あの妻を演じていたことはまったく連想できませんでした。
『七年目の浮気』では、バカンスの季節になり、夫をマンハッタンに残し、息子を連れてバカンスに旅立ちます。彼女に注目して、『七年目の浮気』をまた見たくなりました。
こんなふうに、本作は、個人的につながりのある俳優が登場し、演技を繰り広げています。だから、彼女らを楽しむためだけに、何度も見ることができるように思います。
本作に登場する男性俳優は、主人公 エレンの敵役(かたきやく)として登場するアルバート・ファザーという青年を演じるルイス・ヘイワードです。
アルバートは調子のよい男で、金に尽きて、それを工面する目的で、ひょっこりと現れます。
エレンの甥とかいう説明でしたが、一回聞いただけではわからないような関係です。彼の継父の伯父だったか叔父だったかの後妻がエレンの母、といったような感じです。
ルイス・ヘイワードについてもGeminiに教えてもらったら、敵役のエレンを演じたアイダ・ルピノとは夫婦だったことがあったのがわかりました。
ルイス・ヘイワード(Louis Hayward)は、イギリスやハリウッドの映画で活躍した、端正なルックスと軽妙な存在感が光る名優です。
おもな特徴やキャリアをご紹介します。
- アイダ・ルピノとの関係:実は、『生きてる死骸』で共演したアイダ・ルピノとは当時の実生活での夫でした(1938年に結婚し、1945年に離婚しています)。夫婦でありながら劇中では不気味に追い詰める・追いつめられる関係を演じていました。
- 多彩なジャンルでの活躍:気障で調子のいい二枚目から、冒険活劇のヒーロー、不気味なサスペンスまで幅広くこなす演技派でした。代表作には、ジェームズ・ホエール監督の『仮面の男』(1939年)での一人二役や、アガサ・クリスティ原作の傑作ミステリー映画『そして誰もいなくなった』(1945年)のフィリップ・ロンバード役などがあります。
エレンを精神的に追い詰めるアルバートとのやり取りが本作では重要な要素です。それを演じた二人が当時は婚姻関係にあったことを知ったうえでもう一度見たら、見え方が変わるかもしれないです。
そんなことはもちろん知らずに見ていた私は、いい加減なアルバートがエレンを挑発しているのを見て、いい加減にしろと感じてしまいました。
本作は冒頭の、出演者や制作者を紹介するオープニングクレジットから楽しめます。どんなふうに楽しめるか、Geminiに紹介してもらいます。
あのオープニングクレジットは、映画が始まる前から観客を不気味で湿った沼地(マーシュ)の世界へと引きずり込むような、とても凝った演出がなされていました。
- 水面から文字がふわりと浮かび上がってくるようなタイトルや、
- 荒涼とした湿地帯に佇む立て札、崩れかけた石碑などに文字が刻まれているかのようにキャストやスタッフの名前が映し出される手法
これらは、のちのゴシック・ホラーやフィルム・ノワールを彷彿とさせる、非常に雰囲気のある見事な導入でした。物語の舞台である「逃げ場のない湿地帯のお屋敷」という空気感が、本編が始まる前のタイトルバックの時点で完璧に形作られていますよね。
本作の筋については書きませんでした。演技派の俳優らによってどんな話が展開されるかは、本作をご覧になって確認してみてください。
