障害者思いの「いいひと」

2016年7月26日未明に起きた相模原障害者施設殺傷事件の植松聖被告の罪を問う裁判が今年になって始まりましたが、ここへきて思わぬ展開を見せ始めました。

この事件では、植松被告が障害者施設の入所者19人の命を奪い、入所者と職員合わせて26人に重軽傷を負わせています。

被告の弁護を担当する弁護士2名は、事件を起こしたのが被告であることは覆せないため、被告に刑事責任がなかったことを盾に、無罪を勝ち取る戦術に出ました。

これまでにも、犯行が悪質で、犯行が被告であると断定された場合、弁護側は最後の手段のように、こうした戦術を展開することはありました。

今回の裁判では、公判の初日、被告が法廷で突然自分の指を噛むような仕草を見せる場面があったと伝えられました。

それを知り、彼は自分が正常でないことを臭わせる“芝居”を早速したのでは、といった見方もされました。

事実はそうではなく、被告の内面では、自分を弁護する弁護士との考え方の違いで、葛藤があったようです。

24日に初めての被告人質問がありました。その機会を利用し、被告は次のように述べたと25日の朝日新聞の記事にあります(カッコ内は私が補足する形で書いています)。

(弁護側が自分の)責任能力を争うのは間違っている。自分は責任能力があると考えています。

3年ほど前から、大麻を週2~4回ほど吸っていたそうですが、それなどによる妄想によって起こした事件ではないということでしょう。

であれば、19人の命を奪っているのですから、裁判の結論はどう間違っても死刑以外に落ち着くことはないでしょう。

その覚悟を持って裁判に臨んでいることを前提に、被告のいい分を聴くことにします。

被告は、事件を起こした施設で働いた時期があります。現場を職場にしたことで、施設に自分の子供を預かってもらっている家族を観察でき、彼らの多くが精神的に疲れ切っていることがわかったようです。

この事件のあと、障害者の息子や娘を亡くした親たちが、口々に子供たちを愛していたと報道陣に述べる映像や記事を見ました。

その言葉に間違いはないでしょうが、それでも、障害を持つ子供たちを自分たちだけで面倒見ることが難しく、施設に預けざるを得なかったのだと思います。

この事件や裁判を扱うとき、必ずといって取材陣に答える被害の夫婦がいますが。ご記憶でしょうか。

この事件によって息子さんが重傷を負った尾野剛志氏(76)とチキ子氏(78)です。事件発生当初から、このご夫婦はNHKの取材にも登場しています。

父親の剛志氏は、いつも頭にバンダナのようなものを巻いています。裁判が始まったことで、今度は傍聴することを生き甲斐のようにされている印象です。

私は、テレビのニュースを見ません。例外は、平日の午後6時台にNHK総合で関東向けに放送される「首都圏ネットワーク」を見ることです(※週末と祝日は午後6時45分からの関東ローカルニュースを見ます)。その時間帯にも尾野ご夫婦がたびたび登場しますので、いつの間にお顔を憶えてしまいました。

どんなご職業のご夫婦か知りませんでしたが、たしか、朝日新聞か何かでご夫婦が取り上げられた時だと思いますが、家業は町のお豆腐屋さんであったように記憶しています。今も続けられているかはわかりません。

そんな尾野家に障害を持つ息子さんが生まれ、家業の仕事をしながら、息子さんの面倒を見るのは大変だっただろうと想像します。そういう事情で、家で面倒が見られなくなり、施設に預けざるを得なくなったのでしょう。

同じ記事か別の記事で、障碍者施設にいる息子が、以前は、夫婦に心を開くことがあまりなかったと話していました。ご夫婦も仕事が忙しく、息子さんに会いに施設に通うことがそう多くなかった(?)のかもしれません。

それが、思いもしなかった凶悪事件によって重傷を負ったことで、もしかしたら、初めてぐらいに、障害者としての息子さんに向き合ったといえなくもないでしょう。

施設を訪れることが増え、待ち構える取材陣に取材され、それが続くことで、障害者を持つ親を“演じる”ことが増えていきました。

裁判が始まる前の5日、日経新聞がご夫婦を記事に登場させています。

この記事には、ご夫婦が写った写真が添えられています。冊子のようなものをふたりで持ち、それに目を通す様子を写した写真です。

その写真は、取材のカメラマンが偶然撮ったものではないでしょう。これは私の想像ですが、「今、写真を撮りますから、おふたりでその冊子を手に取って眺めていてください」と頼み、シャッターを切ったことも考えられます。

そうであれば、“やらせ写真”といえなくもありません。

事件が起きたことで施設に通うことが増え、その場に取材が立ち会うことも多くなり、多少のサービス精神も手伝って息子さんに接するうち、それまであまり顧みられていなかったのであろう息子さんが、急に自分に関心を持ち始めたご夫婦に心を開くようになっていったようです。

もしも事件が起きなかったら、尾野夫婦は息子さんを施設に預けっぱなしにし、自分たちの仕事を優先した可能性が考えられなくもありません。

尾野夫婦は、今回の事件のあと、障害者の息子さんを思う良いお父さんとお母さんというイメージが報道を通して作り上げられました。

こういってはなんですが、私はこの手の「ええかっこしい」が苦手です。

尾野夫婦も、それ以前は、障害を持つ息子さんの存在を煩わしく感じることもあったはずです。それが今は、障害の息子がいてくれて私たちは幸せ者だという顔ばかりしています。

何度もいいますが、人間というのは、いい面も悪い面も併せ持つ多面体でしょ? いい面ばかりを見せようとする人は、私は信用できませんねぇ(´・ω・`)

介護の問題は、障害者だけに限ったことではありません。今は健康な人であっても、必ず歳をとります。高齢になれば、体力が衰えて自分で身の周りのことができにくくなり、誰かの手を煩わせることになります。

あと何年かしたら、尾野夫婦もどちらかが、今度は介護される側に回る可能性があります。自分が介護される側に回って初めて、障害を持ち、長いこと介護を受けてきた息子さんの心境が理解できるようになるでしょう。

毎日介護される自分を自分がどのように考えるのか。当たり前と思うのか、それとも、自分を惨めに考えるのか。その時の気分の持ちようで、激しく揺れ動くはずです。

ご夫婦の世話を誰がされるかはわかりません。自宅での介護が無理と感じれば、施設に預かってもらうことになります。

その施設を訪れる家族は、次第に疲労の色が濃くなります。それを、被告と同じような考えを持つ者が眺め、「介護疲れの家族を救いたい」と考えないとも限りません。

独りよがりの間違った考えには違いありませんが、今後似たような事件が起きないと自信を持って否定できません。

自分がその事件の被害者や被害者家族にはなりたくありませんが、未来のことは誰にもわかりません。

仮に被害者家族になっても、「いい人」を演じて報道される身にはなりたくありません。

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