結婚によって始まる苦悩

松本清張の小説を読んでいます。きっかけは、本コーナーで書いた『張込み』という旧い映画を見たことです。映画を見たあと、原作を読みたくなりました。

今は、短編集『影の車』を拾い読みしています。ちなみに、表題作はありません。清張が月刊誌『婦人公論』1961年1月号から8月号に連載した短編小説が短編集として編まれたとき、『影の車』が短編集タイトルとされたようです。

同名の映画を、『張込み』の監督もした野村芳太郎が撮っています。映画のタイトルは『影の車』ですが、描かれているのは『潜在光景』という短編小説です。

私が持っている短編集『影の車』は角川文庫版(昭和58年2月10日)をAmazonの電子書籍Kindle版にしたものです。

本短編集には、次の7編が表記順に収録されています。

  • 潜在光景(1961年4月号)
  • 典雅な姉弟(5月号)
  • 万葉翡翠(2月号)
  • 鉢植えを買う女(7月号)
  • 薄化粧の男(3月号)
  • 確証(1月号)
  • 田舎医師(6月号)

私が本短編集を読み返そうと思ったのは、少し前、BS12でドラマ『薄化粧の男』が放送されたからです。放送は見ていません。放送を知ったあと、短編集の一作だったので、読み返しました。

そのあと、掲載順に戻り、『潜在光景』を読みました。そのあとは、『確証』がどんな話だったか思い出すため、読みました。

ネットの時点ウィキペディアには、清張作品のほとんどが紹介されています。『確証』はウィキペディアになっていません。

本作を既婚者が読むと不安になる人がいるかもしれないです。

大庭章二という34歳の男の視点で描かれる作品です。章二には多恵子という27歳の妻がいます。子供はいません。結婚して6年です。夫婦二人で東京都内の小さな家に暮らしています。

特徴的なのは、妻の多恵子が実によくできた妻であることです。実家は、大きな呉服店を営み、彼女はそこで、明るく、世話好きな女性に育ちました。

本作が書かれた1961年頃は、今と違い、妻が働きに出ず、家で家事をする専業主婦が珍しくなかったのでしょう。多恵子は夫の留守を預かる暮らしぶりです。

今ではこんなケースはほとんどないかもしれないですが、会社に出かける夫の世話を細々とします。

冬の寒い時期であれば、夫が洗顔するためにお湯を沸かし、歯ブラシに練り歯磨きを塗ることまでします。ワイシャツのボタンをとめ、ネクタイを結んであげ、頭にポマードを塗ることまでします。

多恵子は誰に対しても愛嬌よく接することができます。夫がたまに同僚を連れて帰宅しても、嫌な顔ひとつせず、夫と同僚が気持ちよく過ごせる環境を作ります。

だから、多恵子は誰からも好かれています。

そんな妻の多恵子に夫の章二が、疑いの目を持ってしまうことから、章二の苦悩が始まります。

夫は、陶器を販売する会社で営業の仕事をしています。都内の取扱店や問屋などに回るため、始終、外歩きをしています。親会社が関西にあるため、関西に泊りがけで出張することもたびたびです。

通常は、午後6時頃に帰宅します。妻は常に家で待っており、夕飯の用意ができています。

疑いの目を向けようがない妻に思えます。しかし、出来すぎて、誰にでも愛想が良い妻に、章二は疑惑を持ってしまうのです。自分が出張したとき、自分に隠れて、男と付き合っているのではないか、と。

本作が書かれてから6、70年です。生活様式が大きく変わりました。今は、女性が、結婚後も働くことが当たり前になりました。既婚の女性であっても、外で働けば、出会う男性の数が多くなります。

また、インターネットを日常的に使うことから、仕事以外の場所でも、異性が出会う機会が増えました。

妻や夫を持つ人が、妻や夫の浮気を疑い始めたら、取り止めがなくなりそうです。私は独身なので、その心配をしたり、不安になることはありません。

妻や夫を持つ人が、それを気にかけ始めたら、どんな精神状態になるでしょう。

2日前の本サイトで、次のYouTube動画を紹介しました。

本サイトでは紹介していませんが、同じ配信者の次の動画も見ました。

【らむ怖】同窓会で再会した男女の恐ろしい結末】

いずれも、既婚男女の話です。結婚したあとに、夫や妻の浮気を調査してもらう人。夫に不満の妻が、離婚を考え、再婚に適当な相手を見つけるため、自分の発案で中学校の同窓会を開き、実際に、再婚相手を見つけた女性の話。

そういえば、名古屋で主婦が殺された事件の犯人が、26年ぶりに捕まる事案もありました。あの事件も、男女の恋愛感情のもつれが事件の裏にあります。そして、引き金となったのが、被害者の夫と犯人が所属した中学時代のソフトテニス部の食事会だと知りました。

神戸では、胴体を二つに切断し、自宅の冷凍庫に15年も保管されていた事案が発覚しています。この事件の犯人も、殺された男性が殺されたときに妻だった女性です。

二つ上のYouTube動画では、夫に毒を盛って殺す計画を持つ女性の存在が語られています。

男女平等を望むマスメディアは、こと、夫婦間の男女関係では、男女平等に近づきつつある現実を、どのように考えているのでしょうか。

結婚がゴールでなく、結婚したことで始まる苦悩というのも、世の中にあることになりそうです。今この瞬間にも、妻や夫の不貞を疑い、気が狂いそうになっている人もいることだろうと思います。

清張が書いた『確証』で、章二の多恵子に対する疑惑が晴れたのかどうか知りたい人は、本作に目を通してみてください。