『ティファニーで朝食を』原作を村上春樹訳で

昨年の大晦日、元日に放送されるオードリー・ヘプバーン主演の映画『ティファニーで朝食を』について書きました。

本作は何度も見ていますが、元日にまた付き合いました。それにつけても、ユニオシという日系人の描き方は、何度見ても目について仕方がありません。彼がとにかく醜悪に描かれているからです。

それがため、本作の原作(原題は”Breakfast at Tiffany’s”)(1958)をトルーマン・カポーティがどんな風に書いているか気になり、新年になって初めて読む本として、年初にネット通販最大手のAmazonに注文を入れました。

日本語に翻訳されたAmazonの電子書籍版はまだないようです。

本好きな人ほど紙の本を有り難る傾向があるようです。私にはその手のアレルギーがなく、電子書籍になじんだ今は、本作が電子版になっていないことを残念に思ったほどです。

結果的には、2008年2月25日に新潮社から出た単行本を中古で手に入れました。送料を含めて【300円】ほどで、Amazonポイントが【10】つきますから、290円ほどになります。

ま、こんな細かい話はどうでもいいですねf(^_^)

翻訳をしたのが村上春樹ですから、いわゆるハルキストにはたまらない一冊になりましょうか。

単行本『ティファニーで朝食を』表紙

この単行本には、『ティファニー_』のほか、次の短編が3作品収められています。

  • 花盛りの家
  • ダイアモンドのギター
  • クリスマスの思い出

「あとがき」まで含めた総ページ数が【223】で、そのうち、『ティファニー_』が【138】まで。残りを3つの短編で分け合う形です。

注文した本は5日に届きました。非常に良い状態で、新品と変わりません。届いた日に少し読み、昨日読み終えました。

映画では、オードリー・ヘプバーンを中心に描いていますが、原作では、映画ではポールと名付けられた若い男の目線で描かれています。

ここでは映画に倣ってその男をポールとしておきますが、ポールが暮らすニューヨークのアパートに、周囲をざわつかせるホリーという若い女が暮らしています。

原作を読むことで、映画が原作をほぼ忠実に映像化していたことがわかります。個人的に気になっていたユニオシも、映画と同じような設定で登場します。

ユニオシを呼び鈴で起こしてアパートに入って来たホリーに、ユニオシがカンカンに怒り、階段の上の方から顔だけ見せて、「ミス、ゴライトリー! 呼び鈴で起こすのは止めろ!」などと怒鳴るのは映画の設定と一緒です。

ただ、ユニオシがホリーとやり合うのはそれだけで、あとは登場しません。映画のユニオシの役割は、原作では、アパートに長年暮らす口やかましいスパネッラという名の女性オペラ歌手が受け持ちます。

原作と映画で違っているのは、私が思いつく限りでは、次のようなことになりましょうか。

  • ポールの設定。映画では、年の離れた金持ちのインテリアデザイナー(だったかな?)に養ってもらっているが、原作では、独り暮らしをしており、誰に養われているわけでもない。物書きを目指しているが、一時は、サラリーマンをしたりもする
  • 「フレッド」とホリーが呼ぶ男(作品には登場しない)が、映画ではホリーの弟だったのが、原作では兄であること
  • ホリーとポールが行きつけのバーとそこの気難しい主人ジョー・ベルが登場しないこと。ジョーも主要な役回りだと思うのだが
  • 暴れ馬にまたがったポールが、ニューヨークの街中を暴走し、危うく命を落としかねなかった場面が映画ではないこと
  • 『ティファニーで朝食を』と題名にティファニーをつけながら、原作ではその店は一度も出てこない

日本の小説ですと、地の文と会話文は分けて書く作家が普通(?)だと思いますが、カポーティは会話も行は変えず、カギカッコで囲って書きます。ホリーは話しだすと止まらなくなることがあり、それだから、ときにはひとつの段落が大きくなります。

映画の『ティファニー_』を見て、その出来事が起きているとき、米国が日本と戦争をしていると感じることはないでしょう。映画で時代設定を変えているのかもしれませんが、原作ではその戦争のさなかに出来事が起きています。

戦争中の日本人は、軍部に洗脳され、「鬼畜米英」と叫ばされながら、国民総動員で戦争に駆り出されたのに、日本と戦っていた国に住む海の向こうの米国人は、戦争の影を感じることなく、日常と変わりない生活を送っていたように、原作を読む限り感じます。

ほかの人の原作は読んだことがないため、比較できませんが、村上春樹の翻訳がどの程度影響しているのか、とても面白く読めました。

映画で描かれたホリーは、オードリー・ヘプバーンが演じていたとはいえ、やることなすことがその時の思いつきのように見え、共感できないことが少なくありません。それが原作では、書かれた文字を読んで自分でイメージを膨らませるからか、映画の中のホリーより可愛らしい女性に感じました。

行きつけのバーの主人、ジョー・ベルに、ポールと一緒にやって来たホリーが、少女だった自分の面倒を見てくれ、自分のことを妻にしたと思っていたテキサスの獣医、ドク・ゴライトリーについてこんな風な話をします。

野生のものを好きになっては駄目よ、ベルさん。それがドクの犯した過ち。彼はいつも野生の生き物をうちに連れて帰るの。翼に傷を負った。あるときには足を骨折した大きな山猫。でも野生の生き物に深い愛情を抱いたりしちゃいけない。心を注げば注ぐほど、相手は回復していくの。そしてすっかり元気になって、森の中に逃げ込んでしまう。あるいは木の上に上がるようになる。もっと高いところに止まるようになり、それから空に向けて飛び去ってしまう。そうなるのは目に見えているのよ、ベルさん。野生の生き物にいったん心を注いだら、あなたは空を見上げて人生を送ることになる。(93-94頁)

少女だったホリー(本名は映画では「ルラメイ」、村上役では「ルラメー」)と、兄(映画では弟)のフレッドは、獣医をするドクに助けられ、そこで元気をもらったのでした。

ホリーは野生の生き物のように、ドクには愛情を残しながら、自由な意思で彼のもとを去り、どこかにあるはずの自分の本当の居場所を見つけるために生きているのです。

やっとでルラメイを探し当てたドクは、痩せこけたホリーを見て体を心配し、「変わってしまった」と嘆きます。ルラメイからホリーになった今も、自分は自分で、昔とちっとも変っていないのよ、とホリーはいいます。

ラストも原作と映画は違います。

野生の生き物であることを認めたホリーは、ポールと乗っていたタクシーから、愛猫である名前のない猫ちゃんを解き放ちます。これは原作も映画も同じです。原作が映画と違うのは、一旦は自分の手から離したはずの猫ちゃんのあとを追い、ホリーが先にタクシーから飛び出していくことです。

一ブロック進んだところで彼女は口を開いた。「前に言ったわよね。私たちは川べりで出会ったのよ。それだけのこと。どっちも一人きりで生きていくの。お互い何の約束もしなかった。私たちは何の_」、そう言いかけたところで、急に声を失った。顔がぴくぴくと引きつり、病人のように血の気を失った。車は赤信号で停止していた。彼女はドアを開け、そのまま通りを走り出した。僕もあとを追った。(135頁)

ともあれ、原作を読むことで、原作に散りばめられたエピソードの数々を、映画の脚本を担当したジョージ・アクセルロッドと監督のブレイク・エドワーズが、手際よく料理していたことを確認できました。

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