子供の頃は、年末年始になると、テレビの年末年始特番を楽しみに見たものです。今はそうした習慣がなくなりました。新聞のテレビ欄を見ても、下らない番組ばかりが並んでいます。
そんな中、私にとって救いと思えるのは、NHK BSプレミアムで、今日と明日、連続して映画が何本も放送が予定されていることです。もちろん、私もそれらをすべて見ることはありません。見ても一本か二本でしょう。
元日の明日は、午前中にオードリー・ヘプバーンが主演した作品が三本放送されます。その一本が『ティファニーで朝食を』です。
この作品は有名ですので、見た人が多い一方、1961年公開と古い作品であることもあり、若い人で、洋画に興味のない人は、題名を知っているだけかもしれません。
ヘンリー・マンシーニが作曲した本作の主題曲『ムーン・リバー』はよく知られています。
2011年3月末で、NHK-FMのリクエスト番組「サンセットパーク」が幕を閉じました。ことあるごとに書いていますように、私はこの番組を1983年から聴き始め、同時に番組宛にリクエストカードを出すことを始めました。
番組を聴くこととリクエストすることは番組終了まで、28年続けました。
番組の最後の放送のとき、私は、カサンドラ・ウィルソンがけだるく歌うジャズバージョンの『ムーン・リバー』をリクエストし、番組でかけてもらいました。早いもので、あれから8年9カ月が経ちました。
映画の中では、オードリー・ヘプバーンが、アパートの窓辺でギターをつま弾きながらこの歌を歌います。
主演がオードリー・ヘプバーンであることと、主題歌の『ムーン・リバー』だけを知り、本編を見たことがない人は、お洒落な映画だと思うでしょう。その先入観で作品を初めて見ますと、もしかしたら面食らうかもしれません。
私はNHK BSプレミアムなどで放送されたものを録画し、何度も見ていますが、はじめに見た時は、イメージした作品とは違う印象を持ちました。
作品の舞台は1960年代初頭のニューヨークです。オードリーが演じるホリー(本名はルラメイ)というコケティッシュな女性が、アパートに独り暮らしする設定です。
作品が始まってすぐに奇妙な感じを持たされるのが、ホリーの部屋の上の方に住むユニオシという奇妙な日系アメリカ人です。ユニオシは写真家で、独り暮らしをする設定です
作品のはじめから終わりまで、ユニオシは作品の随所に登場しますが、どのユニオシも悪意をもって描かれており、ホリーには敵対的です。
ミッキー・ルーニーという白人俳優がユニオシを演じたそうですが、キャラクターはステレオタイプの日本人男性で、背は低く、黒縁の眼鏡をかけ、眼はつり上がり、出っ歯です。なお、演じた俳優は、マウスピースをはめて歯の出た男の役作りをしたようです。
いつも裾の短い浴衣のようなものを着て、歩き方はガニ股です。やることなすことコントのようなもので、布団から勢いよく起き上がっては、なぜか天井からつり下がっている大きな提灯に頭をぶつけて痛がったりするといったあんばいで、とにかく醜悪に描かれています。
晩年に恵まれない子供たちに手を差し伸べるような活動をしたオードリー・ヘプバーンですが、自身が主演し、代表作の一つとなった『ティファニーで朝食を』で演じているとき、そのあたりを疑問に感じることはなかったのでしょうか。
お洒落な映画に違いないと思ってこの作品を初めて見る人は、ユニオシに欧米人が潜在的に持つであろう黄色人種(モンゴロイド)へのあからさまな蔑視を見せつけられ、ショックを受ける人もいるでしょう。
しかし、我慢してこの作品を見続けると、作品のそこかしこに、へんてこな人間が数多く登場していることに気がつきます。
作品のはじめの方に、パーティーのシーンがあります。ホリーが開いたパーティーですが、そこに集まる人間たちがどれも変わっています。その中で最も変わっているのが本作の主人公で、オードリー・ヘプバーンが演じるホリーなのですから、本作はへんてこ人間ばかりが登場するスクリューボール・コメディといってもいい仕上がりになっています。
本作は、トルーマン・カポーティが書いた中編小説を映画化したものだそうです。原作と映画は往々にして大きく違っているもので、カポーティの原作を読むと、まったく異なった印象を持つかもしれません。
ネットの事典ウィキペディアによれば、カポーティの原作は映画と違い、ユニオシとホリーの仲は良好に描いているそうです。映画で醜いユニオシ像にしたのは、本作の監督、ブレイク・エドワーズで間違いなさそうです。ブレイク・エドワーズの妻は、あのジュリー・アンドリュースです。
ジュリー・アンドリュースといえば、個人的には、彼女が主演した『メリー・ポピンズ』が好きですね。
ホリーは名前を持たない猫ちゃんと暮らしていますが、そこへ、作家を自称する若い男、ポールがやって来て、ポールがホリーに近づこうとします。恋愛感情も描かれますが、ラブラブな場面はまったく出てきません。
ポールを演じたのはジョージ・ペパードで、のちに日本でも放送されたテレビドラマ『特攻野郎Aチーム』ではジョン・スミス大佐を演じたことが知られています。
あの大佐と、『ティファニーで朝食を』のポールが結びつく人がどれほどいるでしょうか。
ホリーは常識の通用しない女性で、ポールとのやり取りもへんてこりんです。弟思いのホリーは、ポールが弟に似ているといって、弟の名前で、ポールをフレッドと呼び、ポールもそれを嫌がったりしません。
ホリーは束縛されるのを極端に嫌います。それだから、14歳の時に弟と逃げ込んだテキサスの家で、妻に先立たれた年上の男の妻めいたことを経験したものの、そのうちに真剣に愛されることを重荷に感じるようになり、ニューヨークへ逃げてきた過去を持ちます。
原作を読んでいませんからわかりませんが、勝手に想像しますと、ラスト近く、ホリーに向かってポールが叫ぶようにいう台詞に、原作者の描きたかったことが集約されている気がします。
その台詞は、私が記憶する限り、次のような感じです。私の記憶違いと、勝手な味付けが加わっているかもしれませんがf(^_^)
君は、「カゴに閉じ込められた鳥のようだ」といって束縛されるのを嫌う。それで、「私は好き勝手に、大空を自由に羽ばたきたいの」なんていうけれど、よく考えてごらん。自分で自分を縛って、窮屈なカゴに閉じ込めているのは誰だい? 君自身なのじゃないのか?
『ティファニーで朝食を』は、元日の午前10時13分から放送される予定です。オードリー・ヘプバーン主演作品は、その前にもう一本放送が予定されています。
それは『昼下がりの情事』(1957)という作品で、監督は、私の好きなビリー・ワイルダーです。この作品から『魅惑のワルツ』を「サンセットパーク」にリクエストし、番組で書けてもらったのを思い出します。
この作品は、『ティファニーで朝食を』の前、午前8時2分から放送予定です。大晦日に遅くまで起きている人は、まだ眠っているであろう時間に放送されるのが前年です。個人的には、オードリー・ヘプバーン作品としてはこれがお勧めです。
『昼下がり_』では、ゲイリー・クーパーが演じる富豪で希代のプレイボーイ、フラナガンと自分の妻が浮気しているに違いないから調べてくれ、とオードリー演じる娘の父で、私立探偵をする男に身辺調査を依頼する男を演じています。
同じ彼が、『ティファニーで_』では、宝飾店「ティファニー」で、10ドル以下の品を見せてくれ、と無理な相談を持ち掛けるホリーとポールの相手をする店員の役です。
なお、オードリー・ヘプバーン作品の三本目は『シャレード』(1963)で、12時9分から放送予定です。昼下がりのこの時間に『昼下がりの情事』の放送を組めばよかったのにと私は思ったのでした。