NHK会長・上田良一氏の任期は来月24日で満了となります。少し前までは、上田氏が2期目も続投するものと誰もが見ていたようです。
それがにわかに慌ただしくなり、みずほフィナンシャルグループ名誉顧問の前田晃伸氏へNHK会長職をバトンタッチすることが決められました。
この急展開の人事の裏には、安倍政権(安倍内閣)の意向が強く働いたと目されています。私もその線を疑っています。
日本は安倍一強の独裁国家のようになり、誰も安倍晋三首相に逆らえない構造となりました。NHKはとうに安倍首相の軍門に下りました。
節目の記者会見を安倍首相が開けば、それを受けたNHKのスタジオには、安倍首相の広報官然としたNHK解説委員の岩田明子氏が必ず登場し、我が物顔で安倍首相の功績だけを声高に伝えるありさまです。
このNHKの報道が、ここへ来て少しばかり安倍政権に刃向かう動きを見せました。たとえば、安倍首相への忖度の場となった「桜を見る会」疑惑をNHKが報じたりしています。
それを早速問題視した安倍首相の意向で、NHKの会長を上田氏から前田氏へ替えようというわけらしいです。
こうした図式が私にも容易に描けたため、前田氏に良い印象は持てませんでした。
しかし、ネットの事典「ウィキペディア」で前田氏について書かれた記述に目を通し、安倍政権への対応がどうなるかは別にして、前田氏本人には悪くない印象を持ちました。
生まれたのは昭和20(1945)年1月2日ということは、終戦の年の正月です。国民の多くが生きるか死ぬかのとき、前田氏の両親は子供を授かったことになります。
ウィキペディアで前田氏の「生い立ち」を読み、私は一気に好感を持ってしまったのでした。そこに、次のように書かれていたからです。
1浪の末、東京大学法学部に合格し上京。大学3年生の夏休みには、ガラス店を営む祖母の家から運送用のバイクを借りて乗り回す。ついには大分から東京までバイクで走破してしまった。
型破りの人物像が見え、早速、悪くない印象です。
また、大学卒業後、就職活動でも、ほかの学生とは違う面を見せます。前田氏は住友銀行の面接を集団で受けたそうですが、そのとき、ほかの学生と違う反応を見せ、それが不採用の理由になったのでは、と前田氏は考えたといいます。
その時の質問は、次のようなものだったそうです。
あなたは夜中、大手町の交差点で横断歩道を渡ろうしている。信号は赤だが、車は全く通っていない。どうしますか。
模範解答は「渡らない」で、前田氏以外はそう答えたようですが、前田氏だけが「もちろん渡る」と答えたのでした。
昔、私は父の伝手を介し、NHKの報道局に籍を置いたことがあります。当時はNHKのドキュメンタリー番組に興味があり、そのムービーカメラマンになりたいと考えたのです。
そのため、面接を受けに行きました。面接官は4、5人いたように記憶していますが、そこで、何かの理由で面接官と私の考えが食い違い、後味の悪い終わり方になりました。
採用されるわけがないと諦めていましたが、採用されました。しかし、望んでいなかったデスクワークをさせられ、半年ほどで飛び出してしまいました。
前田氏の話に戻しますと、2002年、みずほホールディングスの社長になっています。新入行員を前にした入社式の次のように述べたそうです。
上の言うことは聞くな、上司に責任は取らせろ。
なかなかいえないことですね。こういうトップの下で働ける行員は幸せといえましょう。
上で紹介した挨拶をしたあとすぐ、銀行システムの統合などにより、引き落としなどの混乱があり、国会に招致されて問い質されることもしています。そこでも、思ったことをそのまま述べ、大いに批判を受け、謝罪することなどもしています。
これも大きく捉えれば、前田氏の人柄から生じたもので、トラブルの是非は別にして、その人間性まで私は否定する気になりません。
今現在も、「無差別にいい格好をするのは顧客全体への負担となるのだから、対価に納得して選ばれる銀行を目指すべき」との考えをお持ちのようで、ご自身のしっかりした考えをお持ちであることが窺えます。
仕事を離れた生活ぶりにも、前田氏の無勝手流が見えてきます。「人物」について書かれた項目には、次のようなことが書かれています。
「ゴルフをやると金・ボール・名誉が一度に無くなる」と日経のインタビューに答えたこともあり、ゴルフはやらないとのこと。タコ刺しをつまみに日本酒を呑むが、タバコは吸わず。読売ジャイアンツと三橋美智也、そして息子の影響で長渕剛のファンである。
今は子供たちも成長して手を離れ、築30年ほどの家に、前田氏が「恐ろしいカミさん」とのろける妻と質素な生活をされているようです。自宅の居間にエアコンがないとありますが、本当でしょうか。
愛妻にNHK会長に任命されたと伝えると、「そんなのやめておけ」といわれた、と記者会見で述べたそうです。
その会見では、記者から政権との距離を尋ねられ、「公平中立。 どこかの政権とべったりという気はない。きちっとした距離を保つ」と答えたと報じられています。
それを貫けたら立派ですが、安倍政権の意向は超強力でしょうからねぇ。前田氏といえども、この宣言通りに実行できるかは未知数です。
とりあえずは、安倍首相にべったりの岩田明子NHK編集委員を解任し、前田氏の考え方に沿う、無勝手流の人物に交代させることから始めませんか。
上で紹介した記事では、またまた記者会見で飛び出した次のような“前田節”が飛び出しています。
年だと思う。定例の会見もある。皆さんが、いっていることがおかしいと思ったら、すぐ辞めろという記事を書いてください。すぐに辞めますから。早めにいっていただきたい。
これはおそらく本音の部分が多くあるでしょう。ここからわかることは、NHK会長の職に執着する気持ちをはじめからまったく持っていないであろうことです。首相の座に呆れるほど執着する安倍首相とは好対照です。
前田氏は科学雑誌の『ニュートン』を創刊号から愛読されているそうで、NHKの好きな番組を問われ、「科学番組」と答えています。
その一方でNHKのドラマには疎いようです。来年の大河ドラマに出演が決まり、途中まで収録に参加した沢尻エリカ被告について訊かれ、「大河ドラマは報道でしか知らない」と答えています。
このあたりの受け答えも私は好きですね。知らないものを知ったかぶりせず、知らないといえるあたりが好ましいです。
銀行業界のトップに立った経験が放送にどう活かせるかも問われていますが、ここでも前田氏流で、「放送と金融機関は全く違う。やってみないとわからない」と本音を素直に口にされています。
前田氏の持ち味を存分に発揮され、国民に愛されるNHKを目指してほしいと期待をかけておきます。
前田氏に良い風が吹き、安倍氏が首相の座からもうじき降りるかもしれませんしね。