高校野球にもアスリートファーストを

私は、国の支配階級が民衆を操るために行うのであろうスポーツ・イベントには背を向けることにしています。

昨日、マスメディアは、「新語・流行語大賞」の今年の年間大賞に”ONE TEAM”が選ばれたと伝えています。これは、日本で行われたラグビーワールドカップで、日本チームが一つになって戦う心意気から生まれたものでしょう。

昨日の関東ローカルニュース「首都圏ネットワーク」でもこの話題を取り上げていました。日本代表が初のベスト8進出を果たしたことなどで、日本中が熱狂したと伝えていましたが、私はその輪に加わることはしませんでした。

支配階級によって作られたブームに熱狂する人々を、私は輪の外から冷ややかな目で眺めたものです。

こんな私のような人間を、輪に加わる人間は、なんてへそ曲がりなヤツだ、と思うでしょう。

私は一事が万事このような態度を採ります。が、例外があります。これも支配階級が作り上げた熱狂舞台に違いない高校野球だけは、輪に入って楽しむことをしています。

春・夏・秋。地方大会が始まりますと、必ず地方球場へ足を運び、スタンドから試合を楽しむことを昔から続けています。

もしも、春と夏の全国大会の会場となる阪神甲子園球場から遠くないところに住んでいたなら、全国大会を観戦するため、同球場へも足繁く通うことでしょう。

「写真AC」のイメージ画像

こんな風に、昔から高校野球には熱心に接してきました。

子供の頃は大人の思惑まで考えが及ばず、無邪気に楽しんでいました。それが、歳を重ねるうち、この大会を利用する大人たちの思惑に気がつき、一時期は、地方大会だけを楽しみ、全国大会のテレビ中継はまったく見ない時期がありました。

おそらくその時期に重なると思いますが、全国大会に参加するチームの力に地域差が見られなくなりました。

昔は、雪深い地域などの代表は、練習に適した地域の代表に比べ、明らかに力が劣っていました。それが今は、それらの地域の代表であっても、ほとんど差がないばかりか、時には優勝候補になったりします。

その理由は、練習方法を変えるなど、練習条件の悪い地域でも工夫していることもあるでしょう。しかし、手っ取り早く強化する学校が少なくありません。

野球の盛んな関西などから、有力な選手を野球留学させることです。これが酷い場合は、試合に出場する選手のほとんどが、他府県出身であったりします。

これでは「郷土の代表」とは呼べないように思え、私は全国大会への興味を失っていったのでした。

ここ数年は、全国大会のテレビ中継を見る習慣が戻りましたが、それでもときに、中継や報道を見て疑問に感じることはあります。

今夏の大会では、準決勝進出を賭けた試合を星稜高校と仙台育英高校が戦いました。

この試合が行われた日も猛暑となり、その中で力投を続けた星稜の投手が、マウンド上で違和感を感じさせるような仕草を見せたようです。それをベンチから見ていた対戦相手の仙台育英の選手が、水の入ったペットボトルを持ってマウンドに駆け寄る場面がありました。

炎天下で力投する相手投手が脱水症状を起こしたと感じ、水を提供しようと、咄嗟に採った行動であったようです。私はこの場面は見ておらず、試合のあとの報道で知りました。

報道はどれも同じように、仙台育英の選手の行動を称えるものでした。

夏の高校野球の主催新聞である朝日新聞は、この大会を振り返る講評記事の最後にこのエピソードを取り上げ、感動的な場面であったと手放しで絶賛したのを憶えています。

私はこの出来事を知ったあと、本コーナーで批判的に取り上げました。

その更新でも書いていますが、マスメディアであれば、美談として伝えるのではなく、猛暑が選手に及ぼす害に注目し、警鐘を鳴らすべきでした。

野球は9人のメンバーがそれぞれの守備位置につきます。投手と捕手以外の守備位置であれば、自分のところへ飛んできた球を処理するだけですから、猛暑の中でもバッテリー以上の負担はないのかもしれません。

その点、相手打者に打たれまいとして懸命に投球する投手が、大変な運動量になるであろうことは想像できます。

これに加えて昨今は、高校野球であっても打撃練習に力を入れ、140キロの速球にも対応できるまでになっています。しかも、使っているバットが金属製バットです。

このバットは、木製バットと違い、バットの芯で捉えなくても、バットスイングが速ければ遠くまで打球を飛ばすことができるそうです。私は野球の経験がなく、見たり聞いたりした得た知識での理解ですが。

これでは、打高投低になっても致し方ないといえなくもありません。

この傾向は年々強まり、試合時間が長くなり、投手の投球数も増える一方となりました。

本来、スポーツは体を動かして楽しむものですが、高校野球というスポーツは、甲子園出場を目指すことで、楽しむことなどもってのほかの死に物狂いのものになってしまいがちです。

また、それを楽しむ一般大衆は、テレビや新聞が繰り返す「感動物語」に酔わされ、体力の限界を超え、歯を食いしばって投げる高校生の投手を拍手喝采してしまったりします。

成長の過程にある高校生が、仲間のため、応援してくれる人のためだといって、自分の肩が悲鳴を上げても投げ続け、ときには見かねた監督が別の投手への交代を促しても、「大丈夫です」などといって投げ続けることもあるでしょう。

生身の人間の体というものは、無理をしてはいけないようにできています。それなのに、無理に無理を重ねるのですから、選手の体への負担は大きくなるばかりです。

これを書きながら、昔の高校野球の投手を思い出しました。夏の全国大会で優勝したとき、千葉の銚子商業のエース投手だった土屋正勝選手です。

私の記憶では、同チームは夏の大会で全国制覇した前年春の選抜大会にも出場していたと思います。その時は、初戦を15対0ぐらいで敗退したように記憶しています。

その翌年は、チームのエースとして全国大会出場を目指した地方大会に臨んだわけですが、地方大会の最中か、それともそれより前の時期だったか、土屋投手は利き腕の肩や肘(もだったか?)を故障していたそうです。

それでも、名将といわれた同チームの斉藤一之監督が厳しく土屋投手に接し、土屋投手は、遠くまで肩の治療に通いながら、監督の要求に応えた、というような話を以前、新聞で読みました。

高校時代に体を酷使したことが祟ってか、高校卒業後にドラフト会議で中日ドラゴンズに1位指名され、プロの道へ進んだものの、思うような投球をできずに終わりました。

高校野球を巡っては、萩生田光一文科相が、先月27日の衆院文科委員会で次のような答弁をしたとして注目を集めました。

アスリートファーストの観点でいえば、甲子園での夏の大会は無理。最終の決戦は秋の国体の場だと思う 。

萩生田大臣に代表されるような考えが世の中に少ないことを感じたからでしょうか。日本高等学校野球連盟(高野連)は異例の素早い動きを見せ、来春の大会(地方大会も含む)から、3年間の試行期間として、投球数を制限することを決めました。

罰則はないものの、1週間でひとりの投手が投げた投球が500球以内にするよう決めています。ただ、この取り決めを聞いた専門家からは、早速疑問の声も上がっているようです。

ネットで見かけた話では、高校野球で活躍したあと、プロ野球の投手としても抜群の成績を残した桑田真澄氏が、投球数よりも、体に負担をかけないような投球フォームにすべき、というような提言をしていました。

個人的には、投球数を減らすことには賛成ですが、高野連にはもっと別のことにも手を付けるべきだと考えます。

それは、全国大会に出場する代表数を減らすことです。

昔は、今のような、1都道府県1校(夏の大会は、北海道と東京都が2校ずつ)の参加ではありませんでした。関東でもブロックを作り、2県で1校の出場でした。

それが、高校野球熱が高まるにつれ、高野連や主催新聞社の朝日新聞にしろ、大会をテレビ中継するNHKとしても、出場校が増やして大きな大会にすることが望ましいと考えたのでしょう。都道府県からすべての代表を出場させる今の形が出来上がりました。

出場校が増えれば、試合数は比例して増えます。これに加えて、すでに書きましたように、選手の体力や打撃技術が向上し、金属バットに替えたことなどで、投手への負担はうなぎ登りに増えてしまったのでした。

来年東京で開かれる予定の東京五輪では、大会の華であるマラソンが、東京の酷暑を理由に、札幌へ変更するよう国際オリンピック委員会(IOC)から要請されるという異例の事態を経験したばかりです。

おそらくは、利権が絡んでいたからでしょう。マスメディアの多くが、IOCの身勝手さを非難し、それをてこに、東京開催を譲らない方向へ持っていく報道を繰り広げました。

その批判に利用されたのは、商業五輪の象徴である米テレビ局NBCの身勝手さです。同放送局はIOCに高額の放映権料を支払う代わりとして、同局の番組編成に支障のない夏の真っ盛りに五輪を開くよう条件を付けた、というものです。

この避難は、酷暑の中で高校生に野球の試合をさせる高野連や朝日新聞、NHK、テレビ朝日系列にも当てはまります。

であるのに、この批判を自らに向けることはしません。

昨今は出所率が下がっているうえに、野球をする子供の数が減っていると聞きます。それもあり、野球部を維持できない高校が年々増しています。今後、これが復活することはないでしょう。

その対抗策として、部員の少ない高校が合同でチームを作り、地方大会に出場するケースが増えています。

野球に興味を持つ生徒の希望を叶える措置には違いありませんが、個人的には、合同チームは大会に出場させないようにすべきと考えます。野球をどうしてもやりたいのであれば、学校以外でもできるはずだからです。

参加校を少しでも減らすことで、投手への負担を減らすことを優先すべきでしょう。

1週間の投球数を500球以内にすることがどれほど有効なことなのかは私にはわかりません。また、8日目にあたる日は、どのように扱うかなど、よくわからいところがあります。

春の選抜大会も、「21世紀枠(3校)」を設けるなど、参加校を増やす傾向です。

野球人口も減ってきているのですから、投手への負担も考え、大会をコンパクトにする改革が求められます。

ほかに、バットを木製に戻せないのであれば、米国のように、低反発のバットへ変更することなどを早急にすべきです。

高校生の野球大会を飯の種にする高野連や朝日新聞、毎日新聞、NHK、朝日放送系列の「アスリートファースト」への本気度が試されています。

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