まずは、ネットの動画共有サイトYouTubeから、次の動画をご覧ください。
本コーナーで何度か取り上げた写真家でプロカメラマンの野村誠一氏(1951~)の動画です。
野村氏はアイドルのグラビア写真を50年ぐらいは撮っておられると聞きます。これまでに出版した写真集も約300冊ということです。ポートレイト写真の分野のレジェンドのおひとりになりますね。
その野村氏が、本動画ではレンズのF値について、ご自身の考え方を披露してくれています。
同じメーカーのレンズであっても、昔と今では、性能には大きな差があります。昔のレンズは、開放のままでは使えず、ある程度絞ることで、望むような描写が得られたとのことです。
対して、現代のレンズは性能が向上しています。だから、F2のレンズであれば、F2から使いたくなるそうです。
昔に比べ、写真人口が増えました。スマートフォンからカメラに移った人が、F値の小さい(明るい)レンズを手にすると、どうしても、絞りを開放のまま使いたくなるでしょう。背景がボケた写真になるからです。
私はフィルム時代から写真を趣味にしています。私がフィルム時代に使ったカメラがヤシカ・コンタックス(ヤシコン)のRTSおよびRTS IIであることは、何度も書きました。
このカメラで使ったレンズは、ヤシコン用カール・ツァイスです。中で、お気に入りだったのがプラナー50mm F1.4です。今は、マウントアダプタを間に挟み、キヤノンのミラーレス一眼カメラ、EOS RPで使っています。

プラナー50ミリをRTSおよびRTS IIで使っていた頃は、開放のF1.4で撮ることはほとんどなかったように思います。
野村氏も、フィルム時代のレンズは、開放にしてフォーカスを合わせたあと、2段ぐらい絞って撮った、と実例を出されて話されています。
アマチュアは、身の周りのものをスナップで撮ることがほとんどです。そんなとき、被写界深度が非常に浅くなるF1.4にしてしまうと、動く被写体にフォーカスを正確に合わせるのは至難の業となります。
デジタル時代の今は、小さなF値を選んでも、オートでフォーカスを合わせてくれるオートフォーカス(AF)レンズが主流です。AFなので、気軽に開放F値が使いたくなります。
そうではあっても、何でもかんでも開放F値でいいかといえば、そうでもありません。
私は、EOS RP用にRF28mm F2.8 STMというレンズを一本持っています。これを、半オートのFvモードで使ったりすると、光が強くない条件では、いつも同じような露出の組み合わせを提案してきます。
シャッター速度の下限を自分で設定できます。私は1/60秒を下限にしてあります。カメラはその下限を基準とし、F値も、RF28mmの開放であるF2.8を選びたがります。その組み合わせを基にして、ISO感度もなるべく低いISO感度にして一兆上がりといったあんばいです。
光量が少ない場合でも、被写体に応じ、工夫した露出の組み合わせを提案してくれるようになるといいのですが、今のところは、何とかのひとつ覚えの状態です。
今は若葉が美しい季節です。我が家には柿の木があります。その気も、若葉をたくさんつけています。
その木を写真に収めるとします。早朝であれば、光量が多くありません。ですので、例によって、カメラの露出は、レンズのF値にf/2.8を提案してきます。
焦点距離が28ミリの広角レンズであれば、開放F値で撮っても、粗が目立たちにくいです。それでも、開放F値のまま撮ると、何となく、フォーカスが甘く感じることがあります。
たくさんの若葉のどこかにはフォーカスが合っていることは間違いありません。しかし、フォーカスが来ていない若葉の数も少なくありません。そのため、全体として見たとき、何となくフォーカスが甘く見えてしまいます。
そういうことが起こりがちなので、私はそうした被写体を撮るときは、カメラが提案するF値よりも絞り込んだF値を選び直すようにしています。
被写界深度は、被写体に近づくほど狭くなります。
だから、地面から生えている花に近づいて、画面に大きく撮るとき、開放F値のままにしてしまうと、花以外がぼやけ、花だけが空中に浮いたような、ヘンな感じの写真になりがちです。
こんなふうに、カメラが提案する半オートの露出は修正の必要なことが多いです。そして、その際に、F値が大きな鍵を握っているということです。
被写体までの距離とF値が被写界深度を変化させます。それをうまくコントロールすることも、写真撮影の楽しみのひとつです。