本コーナーで前回したのと同じように、今回も、まずはひとつの音声ファイルを聴いていただきます。
いかがでしょう? 今回は、映像に添えられたナレーションの音声がよく聴き取れたのではありませんか?
今回紹介した音声ファイルは、昭和45年にNHKで放送された「新日本紀行」のテーマ曲に続く、冒頭部分のナレーションです。
前回と同じ方法で録音した音声ファイルを、同じような工程を経て紹介しています。
昭和45年といえば、日本万国博覧会(大阪万博)が開かれた年です。今から55年前のことです。
1970年当時、どのような手順で番組を放送したのか私は詳しく知りません。まさか、ムービーフィルムで撮影された映像をそのまま電波に乗せたとは思えません。
当時は放送用ビデオデッキがあり、フィルムで制作された「新日本紀行」は、ビデオテープに保存し直され、それを再生して放送したのでしょう。
1970年代末まで、放送用に使われた磁気テープは2インチ(50.8mm)幅で、当時の貨幣価値で1本のテープが約100万円と非常に高価だったそうです。
その後、半分のテープ幅の1インチVTRが登場したのは1981年度頃のことです。こういう事情から、1インチVTRが使われるようになる以前は、経費節約のため、放送が済んだ番組はテープから消去され、次の番組を収録するために使われた、とネットの事典ウィキペディアにある「新日本紀行」内の〔概要〕に書かれています。
このような理由により、ビデオテープで保存できるようになるまでの番組は、NHKもビデオテープによって番組を保存していないというわけです。
この回の「新日本紀行」は、「能登の火 石川県」のタイトルで放送されています。
2024年1月1日、能登半島地震が発生しました。この地震によって破壊された能登半島を過去に記録した映像が、昨年9月、NHK BS4Kで放送されたのです。
私は、NHK BSが今年1月7日に、「よみがえる新日本紀行」が放送されたときに録画し、番組を保存しています。
番組のタイトルにあるように、能登島で毎年7月31日に催される伝統の火祭りを中心として、その地域で暮らす人々の様子が紹介されています。
55年も前のことですから、今に比べてのんびりとしているように想像されるかもしれません。しかし、当時から、島の暮らしが大きく変わり始めていたことがわかります。
島で生まれた子供たちは、成長すると、多くが島を離れ、都会へ流出してしまうと伝えられています。番組で取り上げられた橋下(はしした)さんの家も例外に漏れず、橋下さんの5人の孫のうち、年長の3人は島を離れ、都会へ出て仕事に就いているということでした。
55年前の番組を、BS4Kで放送するにあたり、まずは、55年前にムービーフィルムに記録された映像はデジタル4Kでスキャニングされたでしょう。
そのあと、フィルム映像に残る傷やゴミ、変色などを、デジタル技術で修復する作業もされたとものと思われます。
当時から、フィルムで撮影された映像は、放送に向けてビデオテープに記録直されることはすでに書きました。ナレーションや撮影時に録音された音声、あとで加えられた効果音は、フィルムにではなく、ビデオテープに収録されたのだと思います。
とすれば、デジタルでリマスター版を作る際、音声はどうしたのだろうと素人の私は考えてしまいます。
というのも、当時はビデオテープが高価だったため、放送が終わると、テープから消去されてしまうからです。音声がテープに記録されたとすれば、映像と共に同期された音声も消えてしまうように考えられます。
あとでそれを再現するといっても、当時の音源を復元することはできません。
当時のビデオテープは高価でも、オーディオテープはそれに比べてずっと安価でした。ですので、そのときに制作された音声は、オーディオテープにそのままの形で残されていると考えるべきでしょうか。
どちらにしても、55年前に録音された音声が、昨年9月にNHK BS4Kでの放送用として、使われた可能性が高いです。
本ページに埋め込んだ番組の音声をファイルによって紹介しました。お聴きになってわかるように、NHKのアナウンサーが担当したのであろうナレーションが明瞭に聴こえます。
この回のナレーションを誰が担当したのかはわかりません。注意深く映像を見ましたが、ナレーターを紹介するテロップには気がつきませんでした。
前回の本コーナーでは、この土曜日に放送された土曜ドラマ「地震のあとで(2)アイロンのある風景」の台詞が、ほとんど聴き取れない音声だったことを書きました。
その一方で、55年前に制作された番組のナレーションが、実に明瞭に録音されています。55年前と現在を比較すれば、多くは、現在のほうが優れています。
ところが、NHKの番組の音声に限れば、現在が55年前に劣る例もあるということです。
55年前に制作されたNHKのテレビドラマを素材に使うことで、台詞の聴きやすさ、聴きにくさの比較が公平にできるでしょう。今回は、比較対象がドラマとドキュメンタリーという違いがあったことで、このような結果になったという側面がなきにしもあらずです。
テレビ番組の受け手である視聴者は、制作側の事情に拘わらず、与えられた番組を視聴するしかほかに方法がありません。
個人的には、55年前の「新日本紀行」でできたような言葉が明瞭に聴こえる番組を望みます。
55年前に比べて、技術的には格段に優れている現在に、それと同等であったり、より優れた番組を作れないわけがありません。
しかし、一例として、台詞が非常に聴き取りにくいドラマを作り、放送してしまった事実を基に、原因究明と対策をNHK制作部にはお願いします。