まずは、次の音声ファイルをお聴きください。
いかがですか? 会話をきちんと聴き取れましたか?
この音声ファイルは、この土曜日にNHK総合で放送された土曜ドラマ「地震のあとで(2)アイロンのある風景」の1シーンを音声ファイルに変換したものです。
本ドラマシリーズは、村上春樹(1949~)の短編集『神の子どもたちはみな踊る』(2000)に収められている短編作品をドラマ化したものです。今回はその2回目で『アイロンのある風景』(1999)が放送されました。
私は放送を録画し、昨日、再生して見ました。
内容云々の前に、初めて見たとき、俳優の台詞がほとんど聴き取れませんでした。口の中でもごもごとするような声で、何としゃべっているのかわかりません。
ドラマの台詞を考えるとき、脚本家は、ひとつの台詞も無駄にはしないでしょう。そんな風に書かれた台詞が聴き取れないのでは、ドラマを見る価値がほぼ失われてしまいます。
村上の短編作品をドラマ化した今回のシリーズは、1回目を見て、本コーナーで取り上げました。その1回目のときも台詞が聴き取りにくかったので、仕方なく、私は字幕を表示させて見ました。
日本語のドラマを見るのに字幕を表示させるのが馬鹿々々しく感じます。そこで今回は、表示させずに見ようと思って見ました。すると、台詞がわからず、イライラ感が募りました。
どんな感じで聴こえたのか文章だけで書いてもわかってもらえないと思い、テレビ受像機のスピーカーから発せられる音をマイクで録音し、音声ファイルにしました。
録音に使ったのは、ZOOMのマイクトラックレコーダーM3 MicTrakです。

テレビの音声を、私がいつもテレビを見るときの音量にしました。そのうえで、M3 MicTrakを三脚に固定し、私がテレビを見る位置あたりに設置して、スピーカーからの音を録音しました。
M3 MicTrakは、録音時にもステレオ幅を片側90°と120°に設定できます。そのほかにモノラルでも録れます。今回はモノラルで録音しています。
録音した音は、音声編集ファイルのiZotopeのRX10 Standardで読み込み、音量を調節しています。
音量を一定に揃えるのにLoudness Controlという機能を使っています。多種類のプリセットがあります。私は、日本の「デジタルテレビ放送番組におけるラウドネス運用規定」である“ARIB TR-B32”を使用しました。
今はデジタル技術の発達により、昔よりも、高度な番組作りができるはずです。ところが、昔に比べて、今作られる番組の音声が逆に聴き取りにくく感じることが増えています。
私は昔からテレビ番組をビデオ録画することをしてきました。それらを再生すると、同じテレビ受像機のスピーカーでも、今作られた番組よりも音声が聴き取りやすく感じることが多いです。
どうしてこんな逆転現象が起きているのでしょう。
デジタル時代の今は、小さなラベリアマイクを使い、目につかないように、俳優や出演者に取り付けて、声を録音をすることが多いのでしょう。
しかし、それらのデジタル機器の使い手の技術が追い付かず、結果的に、聴き取りにくい音声してしまっていることが考えられます。
私が長年にわたって見続けているテレビ番組に「カーグラフィックTV」があります。
この番組の音声が、いつも聴き取りにくく感じます。そこで、いつも、面倒ではありますが、字幕表示させないと、内容をしっかりと把握できません。
ネットの動画共有サイトYouTubeの動画は、プロが作った動画のほかは、アマチュアの動画です。それらの動画の音声は、聴き取りやすいもの、聴き取りにくいものが混在しています。
下に埋め込んだのは、日本近現代史研究家・渡辺惣樹氏(1954~)の最新動画です。
ご覧になった感想はいかがでしょう? 渡辺氏の動画は毎回期待しています。しかし、残念なことに、毎回、音声が聴き取りにくく私は感じています。
以前は、必ず字幕表示される設定でしたが、いつの間にか、字幕表示がなくなりました。
渡辺氏は音声の収録にラベリアマイクを使っています。マイクはワイシャツの襟の部分に取り付けられています。マイクを口からもっと離すため、ネクタイの真ん中あたりに付けられたらどうでしょう。
あるいは、ラベリアマイクを使うのをやめ、性能の良いコンデンサーマイクをスタンドに取り付けて、口の前に置くのも良いかもしれません。
言葉で大事なことを語る動画の音声が聴き取りにくいのは致命傷になりかねません。
私は昨日の夕方、次のYouTube動画を見ました。しかも、それを見たのはPCではなく、テレビ受像機です。つまり、テレビ受像機のスピーカーから発せられる音声の聴き取りやすさ、聴き取りにくさを比較する意味合いもありました。
本動画の音声が、私にはとても聴き取りやすく感じました。そうであるのに、配信者は字幕までつけてくれています。本動画に関しては、字幕なしで、内容を把握できます。
こんなふうに、YouTubeで動画を配信するその道のプロでなくても、音声を聴き取りやすくできる人がいます。
一方、不特定多数の多くの人向けに放送されるテレビ番組であるのに、聴き取りにくい音声のまま放送するのはいかがなものでしょうか。
今回取り上げた村上春樹原作のドラマにしても、作品が仕上がった段階で、関係者は作品の出来具合をチェックしたはずです。その際、台詞が聴き取りにくいと感じた制作スタッフはいなかったのでしょうか。
カメラの記録制度が向上したことで、映像は、誰が撮っても、よい光の状態であれば、綺麗な映像にすることが可能となりました。
残るのは音声性能の向上です。
テレビ放送はもちろんのこと、YouTube動画であっても、聴き取りやすい音声にすることは基本中の基本です。字幕に頼らなければならないような音声は、失格といわざるを得ません。
誰が聴いても訊き取り易い音声に仕上げてくれるよう要望します。