ノイズは秘密の痕跡? VHSマニアの米国人群像

ネット通販最大手のAmazonが有料会員向けに提供するPrime Videoでたまたま見たドキュメンタリーが思いがけず楽しめました。

米国のジョシュ・ジョンソン氏が監督した“Rewind This!”という作品で、2014年に発表されたようです。日本では『VHSテープを巻き戻せ!』(1時間30分)というタイトルになっています。

平成以降に生まれた人は、ビデオテープの存在を知らないか、知っていても過去の遺物といった感覚でしょうか。

8ミリ映画を楽しんでいた頃は、玄光社から発刊されていた月刊誌『小型映画』(1956年1982年)の発売日を毎月楽しみにしていました。その雑誌が、個人の映像の楽しみ方が8ミリ映画から家庭用ビデオへと変わるのに合わせ、『ビデオサロン』へと変わりました。私は『ビデオサロン』もある時期までは毎月欠かさず楽しんでいました。

私は昔から一貫して映像には強い興味を持っていまして、昔に素人が唯一自分で撮影できる8ミリ映画にも興味を持ち、自分で撮影・映写して楽しみました。そんな自分ですから、家庭用ビデオデッキが発売されたときは期待でワクワクしました。

家庭用ビデオが発売された頃、それを求めようとしたユーザーを悩ませたのが、ベータマックス(ベータ)とVHSのどちらの方式を選ぶべきかという実に悩ましい難問です。

本日の豆雑感
8ミリ映画にも、ビデオと同じように、「スーパー8」と「シングル8」の2方式に分かれました。シングルは富士フィルムが開発した方式で、同社がフィルムから撮影システムまですべてを製造・販売しました。一方のスーパー8は米国のコダック社が開発した方式で、こちらに世界の8ミリ関連メーカーすべてが参加しています。私は孤軍奮闘した富士フィルムの「シングル8」の愛用者です。父はコダック陣営のスーパー8のカメラ(ニコン製)を持っていましたが。フィルムはカセット方式になっており、1本のフィルムで撮影できるのは、スタンダードの【毎秒18コマ】で撮影しますと【3分20秒】です。たったの【3分20秒】ともいえ、フィルムも現像料金も安くなく、お金のかかる趣味でした。

これらは家庭用ビデオテープの規格で、ベータはソニーが、VHSは日本ビクターが開発した方式で、相互の互換性はまったくありません。

当時の評価では、ベータの方が画質が良いとされていたように記憶しています。それで、私もベータに傾きましたが、結果的にはVHSを選びました。決め手となったのは、1本の録画テープに録画できる時間です。

その当時、ベータのテープ1本に録画できるのは60分でした。一方のVHSは120分と2倍でした。個人がビデオで使うのはテレビ番組の録画で、それであれば、1本でソニーの2倍録画できるビクターのVHSの方が良さそうと判断し、購入しています。

私がリクエストして、我が家がビクターのビデオの2号機を購入しています。家で購入しながら、ほとんど自分専用として使いました。

初めてテレビ番組を録画して見た時は衝撃を受けました。テレビで放送されているのと変わらない映像がビデオテープに録画されていたからです。以来、私は自分の見たい番組はすべてビデオに録画し、自分の好きな時間に楽しむようになり、デジタル時代の今は、その習慣でソニーが開発したブルーレイディスク(BD)に録画しています。

VHSテープの登場は世界中に様々な影響を与えましたが、その影響を受けた米国の個人にインタビューした映像で作られたのが『VHSテープを巻き戻せ!』という作品です。

VHSが米国で使われ始めると、それがすぐにビジネスになったようです。目を付けたのが、劇場で公開されないような非大手が製作したいわゆるB級映画、あるいは、作品に登場する彼らがよく口にする「クソ映画」の作品の版権を持っていた人たちです。

それらが次々にビデオ化され、安価でレンタルするようになります。

米国でビデオのレンタル店が賑わっているというニュースは日本にも流れてきましたが、その当時、日本ではビデオのレンタル・ビジネスは成功しないだろうといわれていました。

日本人は作品を保有する意識が高いことがその理由とされていました。その後、日本でもレンタル店が続々登場し、人気となりましたので、この理由は否定されたことになります。

米国の大手の映画製作会社は、劇場の客を奪われるなどの理由で、ビデオ化には否定的な考えを持っていました。それが、ビデオ作品の人気が無視できなくなり、積極的にビデオ化するようになりました。

個人的には、ビデオのレンタルというのは一度も利用したことがありません。どうしても欲しい作品があれば市販のビデオを購入しましたが、数は多くありません。

映画『青春の殺人者』パッケージ(表)
映画『青春の殺人者』パッケージ(裏)

私はもっぱらテレビ番組の録画に精を出し、3倍速(3分の1の速度)で録画できるデッキを使い始めた以降は、すべて3倍速で録画しました。録画したビデオは3000本ぐらいになったと思いますが、保存状態が悪く、テープにカビがはえたなどの理由で、半分以上を破棄しています。

米国にもビデオマニアを大量に誕生させたのでした。その生き残りと思える人たちが、多数インタビューされ、『VHSを巻き戻せ!』に登場し、VHSビデオへの愛を思う存分語っています。

ある者は、街のレンタル店に通い詰め、B級映画を探し求めるのを何よりの楽しみにしていたりします。ビデオ化できるものは何でもビデオ化したため、粗製乱造で、とんでもない作品が陳列棚にあるということらしいです。

その実に馬鹿げた作品を見つけ出しては、それを馬鹿にして見るのを楽しみにしているようです。

ビデオのあとに登場したDVDなどのデジタルメディアとビデオの違いは、ビデオが録画テープという、素材的にダメージを受けやすい媒体に記録されていることです。

ビデオは、薄いビデオテープの表面に撮影したり録画した映像のデータが記録されています。そのテープを、常に高速で回転するドラムに巻き付けて映像データを読み取る仕組みになっています。

録画テープが薄い上に、高速で回転するドラムと常に接触する過酷な環境にあるため、録画テープが損傷することがままあります。ひとたびテープが損傷すれば、その個所を再生すると、筋などのノイズとなって現れてしまいます。

『VHSを巻き戻せ!』に登場する米国のVHSマニアは、このノイズをも、テープに残された「痕跡」として楽しめてしまいます。

レンタル店で借りてきたVHSテープを再生させると、損傷のノイズが現れることがよくあるという話です。

テープが損傷しているということは、以前にそのビデオを借りた人が、その個所を繰り返し見たことの証です。それがアクションものであれば、爆発シーンがあったりするでしょう。また、エロティックな作品であれば、興奮シーンが待っているはずです。

フィルム映画の映写技師は、画面に現れる「切り替えパンチ」を頼りに、2台の映写機を交互に操って映写します。

ビデオテープに残るノイズを「痕跡」として楽しめるビデオマニアは、映写技師に似た感覚で、次に登場するシーンに期待する楽しみ方を身に着けているといえましょう。

日本ではビデオは過去のものとされていますが、米国では、一部かもしれませんが、未だにVHSビデオに未来を感じている人が一定数いるようです。

ある者は、ビデオを使って作品作りをしています。作品の品質は低いですが、ビデオを使った作品作りに人生をかけているように見えます。彼にはデジタル技術への渇望はなく、PCは使ったこともなく、使うつもりもないと話しています。

今であれば、動画共有サイトのYouTubeで作品を公開すればいいのにと考えてしまいますが、まったく別の世界を生きているようです。

日本でも映像のデジタル化が進み、それ以前に録画したビデオをデジタル化しないと近いうちに見られなくなる、と盛んにいわれました。その流れに乗らされ、デジタル化した上で、ビデオデッキを廃棄した人が大勢いるでしょう。

私はその流れに逆らい、といいますか、積極的に逆らったわけではありませんが、未だに残った千数百本の3倍速ビデオとビデオデッキを保有しています。

ただ、ビデオデッキの調子が悪くなり、再生テープが途中でドラムに絡まって再生できなくなるトラブルを経験しました。以来、保存してあるビデオが見られなくなっては困ると、再生させていません。

そんなことから、ビデオの再生機を新たに購入することを考え始めています。大手のメーカーは生産を打ち切っており、購入できる機種は限られた状態ですが。

今回の作品に登場する人の中には、VHSビデオの復活を信じている人がいます。

同じように廃れたと考えられていたレコードが、今また、レコードを知らなかった若い人たちには新鮮だとして、復活しつつあると聞きます。ま、レコードが昔のように復活することはなさそうですが。

VHSにもこうした流れが来て、大手のメーカーがまたVHSデッキの新型を開発して発売してくれたら嬉しいですが、こちらは期待薄でしょうか。

世間から注目を集めにくい分野にも、必ず超マニアと呼ばれる人たちはいるものです。

たまたま見た『VHSを巻き戻せ!』で、未だにVHSに深い愛を持つ人が米国に残っていることを知りました。

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