近頃よく見聞きするのが「ハラスメント」です。日本語でいえば「いじめ」「嫌がらせ」の意味です。
流行を作るのはマスメディアです。テレビや新聞で「ハラスメント」を繰り返し使うことで、あっという間に多くの人に「ハラスメント」といういい方を植え付けました。
それにしても、今はどんな事象にもすぐにハラスメントと認定してしまいます。その意味がいじめや嫌がらせであることを考えると、今の日本はいたるところにいじめや嫌がらせ的な行為が蔓延(はびこ)っているということになりましょうか。
また、「ハラスメント」といわずに、「〇〇ハラ」と縮めて使われることが多いのが特徴です。「モラル・ハラスメント」は「モラハラ」というようにです。
これがいつから使われるようになり、縮めたいい方で理解する人がどれほどいるかわかりませんが、「フキハラ」が何を意味するかわかりますか?
知らない人が「フキハラ」と耳にしたら、誰かの苗字と勘違いしてしまうかもしれません。
これは「不機嫌ハラスメント」のことだそうです。機嫌が悪いことも他者にはいじめや嫌がらせと受け止められてしまうということでしょう。
本日の朝日新聞「くらし」欄に、「突然、スイッチ入った夫 『私なんかした?』」という見出しの記事があります。本記事は、「不機嫌ハラスメント(上)」とあるので、「下」があることは確定です。「中」があるかまでは知りません。
記事では、夫のフキハラに悩まされているという36歳の女性の例が紹介されています。
彼女は6年前、マッチングアプリで出会った同い年の男性と結婚し、4歳の息子と三人で、東京都内に暮らしています。
女性にとっては30歳前後というのは、結婚を意識する年齢になるようです。彼女も30歳を前にしたことで結婚を焦り、アプリを介して夫と出会います。
出会ってから一年後、特に不満もなかったので、結婚にいたっています。
今にして思えば、交際期間にもその傾向がありましたが、夫はどんな理由からか、彼女にしてはわけもわからずに、「不機嫌スイッチ」が入ってしまうそうです。
そうでないときは、基本的に優しい性格で、冗談をいったり、突然歌い出したりと楽しい人で、息子とも上手に遊びます。
そんな夫が、突然不機嫌になります。そのスイッチが入ったことは、声を聴いた瞬間にわかります。そんなときは、夕食も食べずにソファに座り、スマートフォンをいじって彼だけの世界に入ってしまいます。
それが始まると、彼女にはどうすることもできません。「どうしたの?」「私が何かした?」と尋ねても、答えらしい答えは返ってきません。
原因を探るために本を読み、そして、ネットで検索すると、同じようなことで悩む人が他にも少なくないのでしょう、「不機嫌ハラスメント」といういい方がすでにあることに気がつきます。
彼女の場合は、「フキハラ」をテーマとしたブログを始めます。今では、夫が不機嫌になると、「ブログに書くネタができた」と思えるようになりました。
それだけ、フキハラを客観的に見られるようになったのでしょう。
ここまでは、本日の朝日新聞に載っていることをそのまま書きました。
フキハラで悩まされているのは女性ばかりではないでしょう。妻のフキハラにまいっている男性もいるはずです。しかし、こういうことを話題にするときは、男性の問題を例にすることが多いように感じます。
子供がいる家族を描く映画やドラマ、漫画では、夫を「ダメ男」に描くことが多いです。
赤塚不二夫(1935~2008)の『天才バカボン』では、非常に賢くてよくできたバカボンのママに対し、バカボンのパパは皆さんよくご存じのキャラクターです。
映画『男はつらいよ』にしても、フーテンの寅さんのダメっぷりを毎回描き、観客の笑いを誘っています。
本シリーズは、映画になる前にテレビドラマの『男はつらいよ』(1968~1969)がシリーズ物として放送されています。この番組が作られる過程で、はじめは『愚兄賢妹』の題にする案があったと聞きます。
仮に、寅次郎ができた男で、妹の「さくら」が「ダメ女」の設定だったらどうでしょう。女性陣の不興を買い、映画はヒットしなかったかもしれません。
その点、男を馬鹿にしていれば問題にされることもなく、安心して笑っていられるということでしょう。
しかし、今回話題にしているように、突然不機嫌になる男性もいます。男性だって、どんなことにも寛容というわけではありません。おもしろくないことが続けば、自分の世界に籠ってしまいます。
昔、本コーナーで、NHKの「いじめコマーシャル」について書いたことがあります。
地上デジタル放送の便利さを伝えるコマーシャルで、ここでも、一家の夫がダメ男に描かれていました。
寝転んで新聞を読む夫であり父である男のところへ、綺麗な妻と小学生の娘がやって来て、夫と父に何か尋ねますが、夫でもりあ父でもある男はそれに答えることができません。
そのやり取りを聴いていた祖母がふたりに、地デジを見れば知りたいことが知れると教えます。ダメな夫より頼りになる地デジというわけです。
それを書いた時にも書きました。その設定で、夫と妻を入れ替えたパージョンを作れますか? と。おそらく作れません。それを作ったら、世の女性の反発が強くあるであろうことが予想できるからです。
朝日が不機嫌ハラスメントを何回かに分けて取り上げることがわかりました。次は、男性がフキハラの被害に遭っている例が紹介されるのかもしれません。
もしも、また、女性が男性から受けるフキハラであったら、それは、男性に対する「ハラスメント=いじめ、嫌がらせ」のように思えなくもありません。
NHKの地デジコマーシャルを取り上げたときは、タイトルに「いじめ」という文字を入れました。「いじめ」は「ハラスメント」の意味になります。
男性に対するハラスメントを縮めると何ハラになるのでしょうか。
夫婦や交際中に、男性から女性に暴力を振るうことが問題にされてきましたが、逆のケースも少なくないと聞きます。しかし、それがあまり表ざたにならないのは、男性の側がそれを表ざたにしたがらないことが理由のようです。
フキハラについても、人知れず耐え忍んでいる男性もいるのではないでしょうか。