山本一力の戒め

一年ほど前の本コーナーで、将棋の元プロ棋士が起こした事件を取り上げました。

それを書きながら、橋本崇載さん(1983~)が事件を起こしたことは間違いなくいけないことだと考えつつ、離婚したことで、永遠に自分の子供に会えなくなってしまった人の心情を考えされられました。

自分が同じ立場に置かれたら、そのつらさに耐えられる自信が持てません。

月曜日の産経新聞には「人生相談 あすへのヒント」という、読者から寄せられた人生相談に各界の識者が答えるコーナーがあります。

この月曜日は、5年ほど前に離婚したという40歳代の男性からの質問が載りました。

質問の中に、離婚原因も書かれています。男性の不倫が原因だそうです。それに気づいた男性の妻は、何もいわず、ある日突然、息子を連れて家を出て行ってしまったそうです。

質問者の不倫が原因であることがわかりましたが、どんな理由であれ、この先の人生で、我が子と会えない男性の心境を想像し、気の毒に感じました。

この質問内容を確認したあと、今回の回答者の回答を読みました。回答者をされているのは小説家の山本一力1948~)です。

山本は男性が息子に会えないことには同情を見せず、離婚せざるを得なかった女性の側に立って回答しています。

回答の冒頭には次のように書かれています。

離婚決断から子と家を出るまでに、元奥方はいかほど疲労困憊されたことか。

山本自身が離婚を二度経験しているそうです。その二度ともが、相手にはまったく非がなく、すべて自分の不貞が原因だったとしています。

自分の経験を経て、今回の質問者にも厳しくあたることで、自分をも戒めているのかもしれません。

山本の一度目の離婚から1カ月後の11月、深夜に地震が発生したそうです。当時、離婚した元妻は夫婦が住んでいたマンションに住んでおり、山本はアパート暮らしをしていたそうです。

地震の揺れが大きかったことから、別れたとはいえ、元妻の安否に不安を感じたのでしょう。アパートの電話が前日から故障していたので、駅前の公衆電話ボックスへ走り、元妻に電話をしたそうです。

電話に出た元妻は、山本の「平気か、何ともないか」の問いかけを黙って聞いていたあと、静かな声で、次のようにいっただけだったそうです。

二度と電話は、ご無用に願います。

元妻の返事にうろたえた山本は、親友に電話し、そのことを話したのでしょう。すると、親友からも次のような忠告が返ってきました。

おまえにはもう、相手を心配する権利などない。離婚するということは、そういうことだ。

その晩、山本は朝まで眠れなかったかもしれません。

自分のことを書いた山本は、質問を寄せた男性に回答します。

離婚を決断した女性は、息子を育ててくれる母であり恩人だ。そんな恩人に質問者ができることは、知恵の限りを尽くして詫びることだとしています。

そして、あとふたつできることは、養育費をきちんと払うことと、息子と息子の母として生きる元妻の息災を毎日祈ることだとしています。

回答は次のように結び、ほんの少し、質問の男性をねぎらっています。

時季がくれば息子からあなたに、何らかの連絡があると、その日の到来を信じて。

今なお世間の騒ぎが収まらない芸能人と女性の根深い問題があります。

問題を起こした元芸能人の男性ができることも、自分が犯してしまったことを、被害女性に、知恵の限りを尽くして詫びることです。

被害を受けた女性は、受けた傷を一生背負って生きていかなければなりません。そのつらさを想像できるなら、問題にされている男性は、これまで自分がしてきたのであろうことを深く、深く反省し、二度と同じ過ちを繰り返さないと強く自分に誓って生きていくべきです。

今回の事件に付随して、芸能界やテレビ業界のいい加減さが知れ渡っています。芸能界やテレビ業界だけでなく、一般の企業でも、甘い汁を吸っている人がいるのあろうことが容易に想像できます。

今はどうか知りませんが、たとえば、財務省大蔵省といわれていた時代の高級官僚は、頻繁に性接待を受けていたそうですね。先ごろ亡くなられた森永卓郎氏(19572025)が、その辺りの実話を、赤裸々に語る動画を、森永氏の生前にYouTubeで見ました。

料亭で会合が開かれると、その会合が開かれる隣りの部屋にその部屋が用意され、高級官僚がそちらへ行くというような生々しい話でした。

もっとも、そのケースに登場する女性は、商売でそのようなことをしていたようですので、問題にすることではないと思われます。

同じようなことは、他の中央省庁の高級官僚にもあてがわれていたでしょう。

心当たりのある人は、自分の行いを深く反省し、真っ当に生きていくことです。甘い汁にされた人の傷は一生癒えることがありません。

植木 等「これが男の生きる道」ANALOG RECORD MUSIC

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