新年を迎え、AmazonのPrime Videoで映画を3本見たことを書きました。その3本のあとに、4日にも1本の映画をPrime Videoで見ています。
『オッペンハイマー』(2023)は新しい作品ですが、ほかは古い作品ばかりです。4日に見たのは、1937年のフランス映画です。
私が初めて知った『おかしなドラマ』という作品です。
フランス映画なのに舞台は英国のロンドンです。
理屈で考えると、タイトルにある「おかしな」ところが満載です。しかし、理屈抜きで見れば、楽しめる作品です。今から88年も前の作品です。
当時のことは想像するよりほかありませんが、当時の観客は、おもしろがって見たのかもしれません。
登場人物はみな変わっています。
アーウィンという中年男は植物学者です。といっても、学者らしいことをするわけではありません。自宅に温室があり、育てている花を可愛がっています。
彼にはマーガレットという妻と、年若い養女がいます。ほかに料理係の男女の使用人がいましたが、マーガレットと衝突し、使用人を辞めて出て行ってしまいます。
マーガレットの従弟に街の教会の司教がいます。この司教は目つきが鋭く、悪を糾弾することに励んでいます。
その司教がいま糾弾するのは、『模範的な犯罪』というベストセラー本です。人心を惑わせる悪書だというわけです。
その本の筆者はシャペルという作家だとされていますが、正体を明かさない覆面作家です。実は、アーウィンがその覆面作家です。しかし、アーウィンは想像力に乏しく、話のタネを提供するのは、養女に恋心を寄せる牛乳配達人の青年なのでした。
牛乳配達人は、牛乳の配達を口実に、毎日のように養女に会いにやってきます。それだから、アーウィンの家には、飲まれていない牛乳瓶が溜まり続けています。
『模範的な殺人』に影響され、連続殺人者として恐れられるクランプスという男も登場します。クランプスはハンチングを被り、自転車をいつも持っています。自転車に乗っているシーンはなかったと思います。
司教が従妹のマーガレットの家にやって来ます。司教に会いたくないマーガレットは居留守を使います。すぐに帰ってくれるかと思った司教が、マーガレットの顔を見るまで帰らないといいはります。
困ったマーガレットの夫のアーウィンは、マーガレットは田舎の友人の家に行って泊まって来るから、5、6日は戻らないと嘘をつきます。それを聞いた司教は、それなら5、6日、この家で待たせてもらうといって聞きません。
弱ったアーウィンは、マーガレットを中華街にある安宿にしばらく滞在するよう手配します。
マーガレットが姿を現さないことを不審に思った司教は、アーウィンが妻のマーガレットを毒殺したと思い込み、警察に通報します。
警察も安直にできていて、家の中にたくさん並んでいる牛乳瓶を見ては、牛乳は解毒ために用意してあるのだろうと推測したりするしまつです。
こんな風に、勘違いの連続で最後まで話が展開し、しまいには、司教がマーガレットを殺した犯人だと付近の住民が騒ぎ出すといった塩梅(あんばい)です。
監督はマルセル・カルネ(1906~1996)です。随分昔の人だろうと思ったら、アルフレッド・ヒッチコック監督(1899~1980)よりは7歳年下ですね。だから、とんでもなく昔の監督というわけではないです。
それにしては、本作はやたらに古い作品に見えます。
マルセル・カルネといえば、『天井桟敷の人々』(1945)の監督です。ご存知でしたか? 私は『天井桟敷_』はじっくり見たことがありません。監督の名はどこかで聴いたことがあると思っただけでした。
上に埋め込んだ『天井桟敷の人々』の予告編に、『おかしなドラマ』で連続殺人者を演じた俳優らしき顔が映ります。私はその俳優を知りませんが、調べてみたら、ジャン=ルイ・バロー(1910~1994)という俳優です。
『おかしなドラマ』の中では表情を変えない殺人者を演じています。といっても、殺人のシーンがあるわけではありません。
彼はマーガレットが身を隠した中国街の安宿で、マーガレットの隣りの部屋にたまたまいたことが縁となり、一目見たマーガレットに恋をしてしまいます。彼がマーガレットの家を訪れ、庭にある小さな池に、素っ裸で飛び込むカットがあります。
演じている俳優はひとりもわかりません。しかし、みな、伸び伸びと楽しんで演じています。
私はたまたま新年の4日に見ましたが、罪のない作品で、正月に見るのにふさわしいといえましょう。