濃淡のある虐待報道

昨年、東京・目黒で起きた女児虐待事件(目黒女児虐待事件)について、15日、東京地裁で開かれた裁判員裁判で、父親である被告に懲役13年の判決が下されました。この事件については、検察の求刑があったあとに本サイトで取り上げていますが、求刑はこの種の事件では最も重い懲役18年でした。

私は事件そのものよりも、これを報じるマスメディアに疑問を持っています。

もちろん、被告夫婦の行いは厳しく裁かれる必要があります。その上での話になりますが、マスメディアは2被告、特に父親である被告を必要以上に糾弾している印象が個人的にはあります。

それらの報道を見聞きする一般国民がその感化を受け、裁判員裁判ではなく、国民の多くが感情的に裁く「人民裁判」の様相を呈しているように思われなくもありません。

今回の裁判結果を報じる記事がYahoo!ニュースにも上がりましたが、そのコメントに目を通しますと、量刑が軽いことに失望したとのものが大半です。

マスメディアに煽られるまま感情的に物事を判断するのは危険です。

今回の判決を報じる日経新聞の記事には、懲役18年の求刑を13年に判断した裁判長の発言の一部が以下のように紹介されています。

(同罪名中で比類なく重いとした検察の求刑には)同種事案の量刑傾向の中で最も重い部類を超える根拠は見いだせず、同調できない。

また、裁判員を務めた人への取材で、1人の女性は「感情的に見てしまう部分も多い」と述べ、別の男性裁判員は「今までの量刑傾向から、(最も重い部類の)懲役13年を超える要素が見つからなかった。(懲役18年とした)検察の求刑は過去の量刑と開きがあり、最終的には(判決結果を)納得した」と述べたことを伝えています。

私は今回の事件に特別関心を持っていませんでした。だからでしょうか。地裁の判決が出たあと、重要なことに自分が気づいていなかったことを知りました。

判決を伝える日経の本分は次のように始まっています。

〇〇(被告の下の名前)被告は、別の男性との間に〇〇(虐待死した女児の名前)ちゃんをもうけていた母親の〇〇(被告の母親の名前)被告(27)=一審懲役8年、控訴=と13年4月に結婚。事件後、離婚した。

私は事件そのものに特別関心がなく、新聞記事も熱心に読んでいなかったため、うっかりしていました。私はてっきり、虐待死させられた女児が、被告である父親の実子だと思い込んでいました。

日経の記事にあるように、女児は母親である被告の娘で、被告の父とは血のつながりがないのでした。

女児は昨年亡くなっていますが、亡くなった年齢は5歳とされています。被告の母が被告の父と結婚したのは2013年4月とありますから、事件の5年前になります。

亡くなった女児が何月に生まれたのかわかりませんが、女児が生まれた年に被告の母が被告の父と再婚しているのは極めてまれなケースであるように私には思われます。

それだからといって、被告の母親を責めるつもりはありませんが、生まれたばかりの女児を思うのであれば、被告の父親との再婚をもう少し先延ばしする考えがあっても良かったように思います。

この事件の話から少し逸れます。

台風19号が東日本へ接近していたさなかの13日未明、日本テレビのドキュメンタリー番組「NNNドキュメント」が放送されていました。今週は「なかったことに、できない。性被害(2)回復への道は」と題して重いテーマを取り上げています。

私は番組を録画し、翌日か、翌々日に再生して見ました。

番組では性被害を受けた若い女性何人かに取材し、その実態を伝えています。性被害の事情は異なりますが、被害を受けた女性に共通するのは、自分を肯定できずに苦しめられていることです。

28歳になる女性は、実の父親から長い年月性被害を受けたことを述べています。

彼女が小学生の頃にその性虐待は始まり、高校生まで続いたそうです。それは想像を絶することであったと思わざるを得ません。理解できないのは、母に助けを求めても、彼女の味方になってくれなかったと語っていることです。

彼女は両親に絶望し、祖母の家に避難せざるを得なかったようです。

彼女にとっての救いは、彼女のつらさをそのまま受け入れてくれる男性に出会ったことです。その男性とは学生時代に出会い、25歳の時に結婚したそうです。

小学生から高校生の時代、実の父親から繰り返された屈辱的な体験は彼女の中に悪夢のように残っているのでしょう。彼女は突然「ワー!」と叫ぶこともあったようです。

事情を聞かされていた男性は冷静に受け止め、「大丈夫」などといって彼女の気を静めたそうです。良い男性に巡り合えたのは最高の幸せといえましょう。

彼女が受けた虐待は、目黒の女児が命を奪われた虐待と大差ないでしょう。この種の性被害を受けた女性は、ほとんどが自分を否定し、生きている価値がないと考えています。命はあっても死んでいるも同然になってしまったからです。

性被害ということでは、昨日、またハレンチな事件が報じられました。慶応大学のアメリカンフットボールチームが8月の夏合宿中、起こしていた事件です。

これを伝える記事によりますと、毎年8月に行われる合宿中、複数の部員が女性風呂を携帯電話で動画撮影したそうです。しかも、他の部員に送信したため、部員の多くに共有されてしまったそうです。

裸の姿を他人に見られることはあってはならないことです。その動画に部の女子部員が写っていたのかどうかは記事ではわかりませんが、盗撮されたことを知った女性は強いショックを受けていると伝えています。当然のことです。

携帯端末にカメラを装着することの是非は、その種の機種が登場したときからあります。必ず悪用する人が出ることが想定できたためです。

夏の合宿中ということで気が緩み、軽い気持ちでしてしまったのかもしれませんが、性被害に遭った女性は、これから先、この被害と無縁に生きていくことはできません。

「NNNドキュメント」で伝えられた性被害女性の1人は、自分の体を汚らわしいと感じるようになり、以来、食べては吐くことを繰り返しているそうです。

運動部にはこうした不祥事は付き物のようで、少し前明らかになったのは、東京の早実高校野球部の不祥事です。しかし、なぜか大きく報道されることがなかったため、知らずにいる人も少なくないかもしれません。

この不祥事を報じたマスメディアは、「問題行動があった」と伝えるだけで、詳しい内容は明かされていませんでした。早実側がそのように済まそうとするのであれば、それを追求してこそ真の報道機関です。

早実の場合も性被害の被害者が出ています。高校の部活動で起きた同種の不祥事については、本コーナーの前回更新分で取り上げています。

既に書きましたように、目黒で起きた女児虐待事件は、執拗と思われるほど報じられました。それによって一般国民の憎悪が頂点にまで達し、被告の父親に死刑を求める書き込みが多数発生しています。

一方、性的な虐待行為をした早実野球部や慶応のアメフト部の不祥事は、マスメディアがアリバイ程度の報道で済まそうとしています。

早稲田や慶応の卒業生はマスメディアで働く者も多いでしょう。利害が一致するため、マスメディアが学校に忖度して報道を抑えていると疑われる状況です。

今日の朝日新聞は、昨日、宮崎市内で開かれた「第72回新聞大会(日本新聞協会主催)」について自画自賛するような伝え方をしています。

新聞社や通信社の幹部ら約450人が参加し、自由で責任ある報道を誓う決議を採択したとしています。しかし、この決意がどの程度信頼できるものでしょうか。

今回取り上げたことに限って見ましても、一部の虐待事件は繰り返し、必要以上にメスメディアがスクラムを組むように取り上げ、国民の感情を煽りに煽りました。その結果、一般国民による人民裁判のような事態まで引き起こしています。

他方、利害関係がある学校の運動部が起こしたハレンチ極まりない不祥事は、熱を入れて取材することはなく、自分たちのアリバイ作りのため程度の報道でお茶を濁しています。

報道するのもしないのもマスメディアの「自由」という趣旨であれば確かに「自由な報道」をしていることを認めざるを得ませんが、報道機関としての「責任」はまったく果たしてないのは明らかです。

新聞社は、子供世代が大人になったとき新聞を読まなくなるのではないかという危機感だけは持っているようです。これは危機感だけで終わらず、おそらくは現実のものになるでしょう。

20年後といわず10年後、新聞が今と同じように読まれているかと訊かれれば、個人的には絶望的と答えるしかありません。今の報道姿勢を見る限り。

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