駆け引きのプレー 市船 木総戦

夏の甲子園大会(全国高等学校野球選手権大会)出場をかけた高校野球地方大会は大詰めです。昨日で、49代表のうちの48代表が決定し、残すは、本日行われる愛媛大会のみです。

この地方大会のうち、27日にあった千葉大会決勝で、あるプレーがあり、ネット界隈では賑わいました。

決勝戦は2年ぶりの出場を目指す市立船橋(市船〔地元では「いちふな」といわれています〕)と、出場すれば6年ぶりとなる木更津総合(木総)との間で争われました。

試合は、両チーム投手が踏ん張ったことで、9回を終わった時点の安打数は、市船が5本、木総が4本で、得点は1対1の同点でした。

9回で決着しない場合は、10回からタイブレークに入ります。高校野球に詳しくない人のために、高校野球のタイブレークについて簡単に書いておきます。

延長が長く続くと、投手への負担が多くなります。そのため、タイブレークは、得点が入りやすい状態を作ります。具体的には、2塁と1塁に走者を置いたところから始めます。

1塁走者は、前の回の最終打者、2塁走者は最終のひとり前の打者です。

タイブレークに入った場合、どうしても後攻めのチームが有利であることは否めません。表の回の攻撃の結果を見て攻撃できるからです。

一方の先攻めは、最低でも1点は得点し、後攻めのチームにプレッシャーをかけたいと考えます。そういうこともあり、多くの場合、タイブレークに入った先攻めのチームは、送りバントをして、1アウト3塁、2塁の状況を作ります。

本決勝でも、先攻めの市船は送りバントをし、1アウト3塁、2塁にし、次の打者の一打にかける作戦に出ました。

その打者がバッターボックスに入ると、市船の3塁走者が、バッテリーに揺さぶりをかける作戦に出ました。具体的には、3塁走者がリードを大きくとり、いつでも本塁に駆け込むぞというプレッシャーをバッテリーにかけることをしました。

野球という球技は、ヒットが出なくても、走者は次の塁を狙います。投球の隙を突いて1塁から2塁へ、2塁から3塁へ盗塁するようなことです。

この場合では、3塁から本塁へ駆け込むぞというプレッシャーです。ただ、3塁から本塁への盗塁はよほどのことがなければ仕掛けず、成功もしません。

私は本決勝を、テレビの生中継で見ていました。

木総の捕手も経験が豊富のため、市船の意図はすぐに読み取ったようで、1球を受けたあとに一度、3塁へ送球する素振りを見せ、3塁打者の動きを牽制しています。

捕手の動きを見て、市船の3塁走者は、3塁に帰塁しています。

本決勝で決定的となることが、2球目を投げた直後に起きました。

捕手が投手からの球を捕球した直後、3塁手に送球し、飛び出している市船の3塁打者をアウトにとることに出ました。

その場面のテレビ中継映像は、捕手が3塁手に送球した瞬間に、バックネット裏のカメラ映像に切り替わりました。捕手から送球された球は3塁手に届く前に、何かにぶつかって(私は走者に球が当たったのを見逃しました)、ファウルゾーンに大きく跳ね返っていきました。

それを見て、3塁手が本塁にスライディングしますが、球審が両手を大きく広げ、そのあと、帰塁したと思っている3塁走者に向かってアウトのジェスチャーをしました。

市立船橋 守備妨害でアウト 高校野球2024千葉県大会決勝 市立船橋vs木更津総合10回表

一瞬のうちに起きたことのため、テレビを見ていた私は、何が起きたのか理解できずにいました。すぐあと、テレビから守備妨害との話が流れてきました。捕手が3塁へ送球するのを3塁走者が妨害したため、アウトになったというようなことでした。

ルールを理解しているとはいえない私は、そんなこともあるのかと思っただけでした。

翌日、ネットの動画共有サイトYouTubeに、本プレーがいくつもの動画になって上がっていました。その中で、市船の応援席があった3塁側から撮られた次の動画を見ることで、捕手と3塁打者の駆け引きが初めて理解できたように感じます。

決勝タイブレークでの守備妨害 市立船橋 対 木更津総合

3塁走者が採ったのかもしれないプレーの是非は論じません。本動画を見て、強い学校というのは、このような場面に備えた練習をしているのかもしれないと考えるだけです。

すでに書いたように、1塁から2塁、2塁から3塁に盗塁することは評価されます。そして、できるものなら、3塁から本塁への盗塁もしたいところですが、これは極めて難しいです。

それでも、何とかしてそれを成功させるため、チームによってはその研究をし、練習しているのかもしれないだろうと考えます。

守る木総の捕手にしても、そのあたりのことは十分に承知しているはずです。ですから、市船の3塁手の思惑を逆手に採ることも考えられます。

3塁手が3塁へ帰塁するとき、捕手からの送球を自分の身体に当たることを走者が狙うなら、その裏をかこうということです。捕手が3塁走者に送球が当たることを前提に送球し、市船側に守備妨害を起こさせ、その結果として、3塁走者をアウトにし、2アウト2塁の場面を作ったと考えることができなくもないということです。

こんな風に見ていくと、野球という球技は、投手が投げて、打者がただ打つだけでなく、さまざまな場面でいろいろな駆け引きが行われているのだと見ることができます。

私は走者と捕手、あるいは、ほかの野手との駆け引きは否定しません。いろいろな場面を想定し、チームごとに、さまざまな練習をすることもあっていいでしょう。

本決勝では、市船がそれを意図的に仕掛けたかどうかは別にして、それがもしも作戦のひとつであったなら、うまく機能しなかっただけと私は考えることにします。

市船の3塁手の動きを見て、守備妨害をジャッジした球審の森川氏は意識が高かったといえます。決勝戦戦のタイブレークで起きたプレーにその判断ができたことは、称賛されて然るべきです。

ネットにあった報道や反応の一部には、球審の誤審批判や市船への同情がありました。本ページに埋め込んだ動画を見ることで、それが見当違いであることがわかるでしょう。

市船野球部は紙一重の差で甲子園出場を逃しました。今回のことを糧に、さらなる練習を重ね、捲土重来を期すことを願うばかりです。

市船の仕掛けを阻んだ木総の捕手は、能力の高さを知らしめました。甲子園の大会においても、その力が存分に発揮されることでありましょう。

甲子園の大会が始まったら、テレビの放送を通して、レベルの高い試合を愉しむことにします。

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