昨日の昼前、東京五輪マラソンの日本代表選手を決めるマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)が行われました。
私は東京五輪そのものの開催は絶対反対の立場です。しかしそれとは別に、マラソンは好きですので、男子の選考レースをTBSで見ました。「恨みっこなし」の一発勝負として行われたレースには、基準を満たした30人が参加しました。
このレースで1位と2位になった選手は、その時点でオリンピックへの出場権を得ます。また、3位の選手は出場権利与りとなり、大迫傑選手が保持する日本記録【2時間5分50秒】を超す記録を残りのレースで出した場合はその選手が、出なければ今回のレースで3位の選手が出場権を得ますが、3位が大迫選手でしたので、どっちに転んでも大迫選手が3位に滑り込む可能性が高まったといえましょうか。
戦前の予想では、日本記録を持つ大迫選手のほか、大迫選手に破られるまで日本記録を持っていた設楽悠太選手、井上大仁選手、服部有馬選手が4強とされ、この4人が3位までに入る公算が高いとされていました。
勝負は水物です。やはり、やってみなければわかりません。
レースを制したのは、中村匠吾選手でした。2位は服部選手で、トップ2と見られていた大迫選手と設楽選手が選からこぼれ落ちたのは意外といえましょうか。
この記事を報じたYahoo!記事に書き込まれたコメントを見る限り、MGCと結果は概ね好意的に受け止められているようです。が、個人的には失敗だったのではなかろうかと思い、本日分の更新をします。
一発勝負で代表選手を決めるのは、選考方法が透明になりますから、選考した側が批判に晒されることはありません。しかし、透明な選考で選ばれた選手が本番で力を発揮できるかどうかは別問題です。
昨日のレースは、近年のマラソンでは当たり前となっているペースメーカーがつきませんでした。それもあり、スタート直後から設楽選手が集団を飛び出す戦術に出ました。
あれよあれよという間に、設楽選手は自分以外の選手に大きな差をつけ、最大で2分以上の大差をつけました。そのまま設楽選手が独走し、ゴールテープを切ったなら、私もMGCを成功と認めたでしょう。
しかし、気温が30℃ぐらいまで上昇したこともあったからか、30キロを過ぎると設楽選手が失速し、結局はうしろの集団に追い抜かれ、14位でのゴールでした。
MGCというシステムで代表選手を選ぶ方針に私は反対しません。しかし、選考方法には注文があります。着順でそのまま選ぶのではなく、選手の意欲や資質を見極めるためにMGCを活用して欲しい、というのが私の注文です。
昨日のレースでいえば、設楽選手が集団から抜け出したとき、誰も彼を追いかけませんでした。それを見て、私は2位以下の選手にがっかりしました。特に、4強とされていたほかの3名が集団走に甘んじたのには失望しました。
そんなことでは世界を相手に戦えないでしょう。国内の選手だけが参加するレースであればそれでも通用するでしょうが、アフリカ勢らが出場するレースでは、その時点で、最終目標が入賞狙いになってしまいます。
地元で開催される五輪のマラソンへの出場キップを賭けたレースに参加しているわけですから、はじめから「入賞でもいい」では情けなさ過ぎます。
レース後のインタビューを聞くと、上位に入った選手は、服部選手が先行したことに「焦りがあった」と答えていますが、結局は行動を起こさず、集団走を選択しています。
あのまま設楽選手がゴールしていたなら、残りの選手で2位狙いの走りにならざるを得ませんでした。
優勝した中村選手にしても、40キロ過ぎからのスパートを考えていたと答えていますが、その地点までに勝負が決するレース展開であれば、スパートも何もなくなります。
1位、2位の選手は結果的には勝負に勝っただけです。レースを伝える朝日の記事には「史上まれに見るデッドヒート」などとありましたが、相変わらずの煽りぶりです。この調子では、本番で入賞争いをしても、同じように褒めたたえるのでしょう。
私が代表選手の選考委員であれば、まちがいなく設楽選手をマラソン日本代表の1人に選びます。本番で同じような結果になったとしても、彼の意欲を買いたいからです。
レース途中まで設楽選手の先行を許したほかの29人は、意欲も戦術もなしと判断します。
レースをテレビで解説した高橋尚子氏が、設楽選手の「鈍感力」を評価したのが印象に残りました。私流に理解させてもらえば、周りに惑わされない強さを持っているということでしょう。
高橋氏は、何かの取材でしょうか、設楽氏の自宅を訪れる機会があり、その時に冷蔵庫を覗かせてもらったことがあるそうです。すると、中にはミネラルウォーターとビールしか入っていなかった、という話です。
個人的には好きなタイプの人間ですね。走っているときの表情もどこか飄々としており、捉えどころのなさが好ましいです。
マラソン日本代表の選考委員は昨日のレースの結果を持ち、設楽選手の代表入りは遠のいたとの判断でしょう。途中でも書きましたように、選考基準を着順だけとしたのが悔やまれます。
もっとも、MGCの結果は結果で、選考理由を別にしたら、それこそ選考委員はかっこうの批判の的にされてしまうでしょうが。どんな選考結果であっても、すべての人が満足するものにはなりませんから。
そうであっても、大会への選手を決める以上、勝てる可能性がある選手を選んで欲しいと思います。少なくとも、レースの序盤で態勢がつき、残りの数十キロを入賞狙いに切り替えるような選手であっては欲しくないです。
ともあれ、東京五輪の男子マラソンへの興味が、個人的には7、8割減退したのは疑いようもありません。