兵庫県尼崎市のJR福知山線で発生した快速電車断線事故ですが、それを伝える新聞各紙には、連日のようにこれ以上ないほどに痛ましい現実が綴られています。
本日も、地方紙の社会面に、読後に何ともやりきれない気分にさせられた記事が掲載されています。少し紹介してみましょう。
その記事で報じられている女性は、佐々木麻有さん(25)といい、同い年の女友達(この女性も亡くなられています)と一緒に初めての海外旅行へ向かう途中、事故車両に乗り合わせてしまったのでした。
記事が伝えるところによりますと、麻有さんの家族は、父親と姉、弟の4人家族で、近所の人からも「仲のよい家族」と評判であったといいます。なお母親は、10年ほど前に他界しており、また、姉も現在は東京で暮らしているということです。ですから、家族の中で唯一の女手は彼女一人ということになり、家事などの切り盛りは彼女が一手に引き受け、父と弟の日常を支えていたことになります。
そんな彼女を、父親は「おとなしいけれど芯が強くて、面倒見のいい、本当にいい娘」と評し、心の底から信頼しきっていたのです。私は朝日新聞に掲載されていた彼女の顔写真を見ましたが、お父さんの話を裏付けるように、とても優しい顔立ちをされています。
その彼女が初めての海外旅行先に選んだのは韓国でした。
彼女はその2泊3日の韓国旅行を実現させるため、家事の合間を縫って、自宅近くでアルバイトをして旅行資金を溜めたのです。そして、キャンセル待ちでチケットを手に入れ、ようやくにして実現しつつあった海外旅行でした。しかし、その一歩手前で今回の大事故に巻き込まれてしまったのです。
普段、父と弟の食事の支度を一手に引き受けている麻有さんは、3日間という短い日数とはいえ、自分が旅行に行っている間、二人が食事に困らないようにと、「冷蔵庫にあるこれを使って料理して」というように書いた3枚の料理メモを残していくほど、細やかな神経を持っていた女性でした。
「お土産をいっぱい買ってくるね」
間もなく始まる海外旅行に胸を弾ませた麻有さんは、関西空港へ向かうため、家を出ました。そして、運命の快速電車に乗り合わせ、帰らぬ人となってしまったのです。思い出も一杯に詰め込んで持ち帰るはずだった彼女のキャリー・バッグは、記事が書かれた時点ではまだ発見されておらず、遺族の元にも戻って来ていないといいます。
こうした記事を読みますと、本当に神様はいるのか? と思ってしまいます。
彼女は家事も一所懸命にやり、その合間にバイトをしてやっとで旅行券を購入し、これから初めての海外旅行に旅立とうとしていたのです。なぜ、そんな彼女の願いを叶えさせてあげられないのでしょうか。
全く、やり切れません。