2004/07/12 大林宣彦作品とオーラ

それにしても、連日暑い日が続きます。ただ、今日のところは、暑さはそれほどでもありません。が、昨日、高校野球観戦で炎天下にいたせいか、体内に暑さが堪っているようで、思考回路が滞り気味です(←それはいつものこと(^.^;)。

ですので、ある物事に思考を働かせて文章にまとめるのはいささか億劫な状態ではあるのですが、気合を入れて、先週末の10日に見てきた映画の話でも書いてみることにします。

今回出かけた先は、このところの恒例となっています東京・池袋の新文芸坐でして、先週の土曜日から始まった特集「大林ワールド・ベストセレクション」(7月10日~7月16日までの期間、代表作を日替わり上映)がお目当てでした。

上映後に行われた大林宣彦監督ご自身のトークショーの前ふりで明かされたところによりますと、新文芸坐と大林監督とは浅からぬご縁なのだそうでして、杮落としで上映されたのが大林監督作品とのことでした。

何でもその日、東京はあいにくの雪だったそうですが、その悪天候にも拘わらず、当日は大林作品ファンでいっぱいとなり、監督や劇場ともども感激されたとのことです。

そうしたこともあり、当劇場側と監督との間では、「いずれは監督の作品をまとめて上映する機会を持とう」となったものの、以後、なかなか実現できずにいたものが、今回、「紫綬褒章受賞記念」と銘打ってようやくにして実現に漕ぎつける運びになったとのことでした。

ともかくも、その待たれた大林作品特集の初日に上映されたのは、『廃市』1984年ATG 16ミリ作品)と『転校生』1982年東宝)の2本です。

このうちでよく知られているのは『転校生』の方でしょう。ということで、こちらについて少し書いてみることにします。

映画『転校生』の一場面

この作品を制作したのは東宝ですが、大林監督は同映画会社専属の監督ではありません。これも、上映後のトークショーを聞いて知ったのですが、大林監督は、自分が商業映画を撮ることになるとは夢にも考えてかったそうです。

『転校生』の主人公である中学生の斉藤一夫(尾美としのり 「おみ・としのり」。私は今の今まで、「おび・としのり」と読むものとばかり思い込んでしました)は、根っからの“映画おたく”であるらしく、彼の部屋には8ミリ映画のカメラがあります。

おそらく彼は大林監督の若き日の分身で、監督自身のムービー好きがそのまま主人公の姿に反映されているのに違いありません。

大林監督は、実際に8ミリカメラを引っさげて、上京されたのだそうです(『転校生』の舞台となった広島県尾道市が大林監督の郷里)。しかし、監督の最終目標は、商業映画を撮ることではありませんでした。監督が目指したものはもっと根源的なもので、連続してフィルムに絵が写し撮られ、それを連続再生することで絵が動くという、ほとんどプリミティヴな好奇心を監督は抱き続けていたのです。

その辺りについて、監督はトークショーの中で次のように述べていました。

私はエジソンリュミエールの真の後継者でありたいと願ったのです。

とにかく、大林監督にとっては、動く映像を記録できるということ自体にいつまでも新鮮な興味を抱き続け、それだからこそ、そのアマチュア的な映像への憧憬をいつまでも大切にしていたいと願っていたのです。

そんな大林監督の思いと実益が平和な形で結びついた“現場”が、今から30年ほど前のテレビ・コマーシャルの世界です。時代は今よりもずっとのんびりしており、15秒ほどスポンサーの名前を出しておけば、残りの時間はどんな風に作っても許される、おおらかさがあったといいます。

しかも、制作費は想像していた以上に要求でき、その中で自分のイメージする絵作りに挑戦できるわけで、これほど大林監督にとって願ったり叶ったりの環境はなかったといえるでしょう。

1975年 資生堂CM クインテス「マッサージ3分」(大林さんが演出したCF)

そのようにして、テレビ・コマーシャルの世界でめきめき頭角を現していく大林監督が、その後ほどなくして、考えもしていなかった商業映画を撮ることになるのですから、人生、何が待っているかわかりません。

その記念すべき第1作目が『HOUSE』1977年東宝)ですが、正統派の作品に長いこと慣れ親しんできた同業者や見客にとっては「何じゃこりゃ!?」という代物で、公開当時からしばらくは全くの“ゲテモノ扱い”されたそうです。

逆の見方をすれば、それだけ大林監督は既成概念には囚われていなかったことの証明となり、「映画とはこうあらねばならない」というガチガチな古臭い考え方は毛頭持ち合わせていなかったというべきでしょう。

この記念すべき商業映画第1作は今日上映され、私は見ることができなかったのですが、特集初日に上映された『転校生』もなかなかに「何じゃこりゃ!?」的な作品です。

当作品はよく知られていますので、おおよその粗筋をご存知の方は多いと思います。一言でいえば、ひょんなことから、男の子と女の子の身体が入れ替わってしまうお話です。主人公の一夫の身体が転校してきたばかりの幼馴染の女の子・斉藤一美(小林聡美)に、そして一美は一夫の身体になってしまうのです。

難しく解釈すれば、ここ数年話題になることが多くなった「性同一性障害」の問題を取り上げた作品と取れなくもありません。しかし、大林監督はそれを小難しく描いたりはせず、あっけらかんと面白おかしく見せてくれています。ですので、見客の間からは笑い声が絶えません。

男女が入れ替わってしまった主人公の2人の演技が面白く、特に、小林聡美の演技ときたらどうでしょう。一美の身体に宿った一夫という設定ですから、とにかく男っぽい女の子で、初めて見る女性の象徴であるオッパイをつまんでは「オエーッ!」などと奇声をあげたりしてしまいます。

こんな調子ですから、その後も騒動の連続で、パンツは取り替えずに何日も履くは、学校の臨海学校へ行っては水着のブラジャーを付け忘れたり、と身体の元々の“持ち主”である一夫の姿をした一美をハラハラさせ通しです。

ハッピーな作品ですので、最後には収まるところに収まるわけで、元の身体に戻った一夫はパンツの中に手を突っ込んで「ある!」と歓声を上げ、一美もパンツに手を入れて「ない!」と感激し、2人は抱き合って喜び合います。

結局のところ、あるところにあり、ないところにないのが当たり前なことで、それを当たり前と感じられるのは、心と身体の性が一致しているが故の自然な反応なのかもしれず、そう感じることができることを幸せに思うべきなのでしょう、多分。

最後に、上映後に初めて拝見した大林監督の印象ですが、テレビに登場される姿そのままで目の前の舞台に登場され、実に柔らかな声で「こんにちは。大林です」と発せられた時には、実に妙な感情に包まれました。

あれが、オーラといわれるものなのでしょうか。今自分の目の前にいる人物は、こうして映画を作り、今もこうして大勢の見客を前にしてトークをするためにこの世に生まれてきたのに違いないと確信が持てるほどの存在感が大林監督にはあるのでした。

話術は今更申し上げるまでもないほど巧みで、一片の原稿もなしに、与えられた時間内には淀みのない話が語られ、さながら一遍の作品を見ているかのような錯覚を覚えるほどでした。

疑いなく、大林監督の中には人に語るべき物語があり、それらを造作もなく言葉によって語り、そうして、映像によって表現するための才能が大林監督には生まれ持って備わっているということです。

そんなこんなで、できるものなら大林作品をこの機会に全て見てみたいものですが、毎日の株式投資があり、それに加え、先週末からは私の最大の関心事である高校野球地方大会も始まり、このあとはおそらく時間を割けそうになく、残念な気分ではあります。

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