思い込みで息子を惨殺した熊澤英昭を称賛する神経を疑う

ここ最近の日本は、本当に民主国家なのか疑問に感じることが増えました。

安倍晋三首相周辺で刑事事件に相当する事象が起きても、警察、検察は首相の顔色を見て働かず、野放し状態です。それが問題だと市民が訴え、やっとのことで裁判を起こしても、司法は「違法性なし」として問うべき罪を問うことを放棄します。

でたらめさが目に余ります。が、一応は独裁国家ではないため、「ひょっとしたら将来重大事件を起こすかもしれない」と一方的に決めつけ、裁判もせずに死刑にするようなことはしません。

そんなあり得ないことが、今年の6月初めに起きたことはまだ記憶されているでしょう。

農林水産省の事務次官を務めた経歴を持つ熊澤英昭(以下「英昭」)による息子・英一郎氏(以下「英一郎」氏)の“私刑”事件です。

警察に連行される熊沢英昭被告

英昭は、誰にも援助を仰がず、自らの判断で息子を惨殺しています。刃物による刺し傷の数は数十に上ったと報道されています。自分の息子に手を焼いた結果とはいえ、この殺し方には、「万やむを得ず」の心情が読み取れません。

この事件については、本コーナーでも2、3度取り上げました。しかし、そのあとに行った本サイトのドメイン取得などに伴い、その投稿は消えてしまいました。

そこで、この機会ですから、事件をもう一度振り返っておきます。

この事件が起きたのは、今年の6月1日です。当日は日曜日で、熊澤家がある東京・練馬の自宅に隣接する区立小学校では運動会が行われていました。

事件が起きた当初は、英一郎氏は「ひきこもり」とされていましたが、生後ずっと自宅にひきこもっていたわけではなく、殺される直前までの10年以上(だったか?)は、母親が名義を持つという都内・目白にある一軒家でひとり暮らしをしていたようです。

英一郎氏は、自宅で同居していた祖母が亡くなったあと、家に戻りたい意思を示し、5月25日に自宅へ戻ったばかりでした。

英昭は退職しており、自宅で英一郎と接触する機会が増えたでしょう。

この事件を取り上げた『週刊文春』によれば、事件の6日前に、英一郎氏が自宅で暴れたそうですが、その際、英昭は英一郎氏に「今度暴力を受けた時は危害を加える」とほのめかしたそうです。

こうしたことだけを聞きますと、英昭に同情する人がいるでしょう。しかし、英一郎氏にも同じように同情せずにはいられない面があることにも気づきましょう。

同じ『週刊文春』の記事に、英一郎氏の学校時代を知る元教師の話が載っています。

イジメや、身体を壊したこともあったと担任からは聞いていた。学業的には芳しい成績ではなかった。お父様が華々しい経歴の持ち主ですから、彼としては肩身の狭い思いをしていたと思います。彼にとっては父の存在そのものがプレッシャーになっていたんじゃないか。

おそらくは、英一郎氏にとって父の英昭は尊敬の対象であると同時に、それに引き換えて自分は、と自身のコンプレックスの根源的存在でもあったのでしょう。相反する感情のバランスが何かのきっかけで崩れ、それが家庭内暴力につながることもあったでしょう。

事情はさまざまでしょうが、大なり小なり、どんな家庭にも起こりうることです。熊澤家が特別ではありません。

英昭は事件後に、十数年に及ぶ息子の暴力と訴えたそうですが、十数年の間に何度か起きた大きな暴力沙汰というのが真相ではないでしょうか。十数年連日暴力が振るわれていたと読み間違えないよう注意すべきです。

事件のあと英昭は、運動会の音がうるさく、それに怒った英一郎氏が「音がうるさい、ぶっ殺すぞ」と発言したことから、事件の少し前に川崎市内で起きた事件が重なり、自分の息子も同じような事件を起こしかねないと危機意識が高まり、その結果、自分の息子を殺した、というように自分の行為を説明しているようです。

英昭が起こした事件の報道は華々しく展開されましたが、私の印象では、その多くが不思議なほど英昭に同情的でした。それが異常に思え、本コーナーでも取り上げました。

その世の中の空気を機敏に感じ取った有名人の多くが、その空気に同調するような発言をしています。その一人が、弁護士の資格を持つ橋下徹氏です。

自分が英昭と同じ立場だったら、同じ選択をしたかもしれない、というようなことをとくとくと述べ、次のような発言までしているそうです。

近代国家の刑法としては、危険性があるだけでは処罰はできない。しかし、本当に他人を犠牲にしてしまう危険が自分の子供にあると判断した時に、社会が処罰できないのであれば、親が処罰するしかない。

この橋本氏を、適菜収氏が批判する文を寄せているのを知り、本サイトでも紹介しています。

すると、それを知ったYouTuberのひとりが、早速適菜氏にかみつく動画を撮り、上げています。本サイトでも取り上げることが多い、朝堂院大覚という人です。

朝堂院氏は、橋本氏とは昔から関係が深く、大阪維新の会を立ち上げさせたのも朝堂院氏ではなかったかと思います。それだからか、それとも、もともとそういう考え方をお持ちなのか、英昭が起こした“私刑”を支持する橋本氏の発言を百パーセント支持する話を動画でしています。

動画で展開される発言を以下にピックアップしておきます。

  • 息子はひきこもりで精神的におかしい
  • 息子はひょっとしたら子供たちを殺すかもしれない
  • 息子は親に暴力を振るう 家で暴れる
  • 何十年も我慢してきた これ以上どうにもならない
  • 他人に迷惑をかけるようなことになれば申し訳ない
  • 自分も死ぬ覚悟で刺した これは無理心中のようなものだ
  • 自分も英昭と同じ立場であれば狂った精神分裂の息子を殺す
  • 自分には子供は殺せないが実行した英昭は責任感が強い
  • 橋下徹を批判した適菜収は馬鹿だ

それが自分の子供であれ、自分の判断だけで命を奪った行為を全面的に支持できる精神を私は疑います。それを疑った適菜氏のほうが遥かに真っ当で、それを「馬鹿」とこき下ろす考え方には哀れを感じるよりほかありません。

実際問題、親子の間の諍いで「ぶっ殺す」と口走ったところで、それがすぐに実行されると受け取る方がどうかしています。ましてや、泡を食ったように息子を刃物で刺し殺すというのは、お話になりません。

また、この行為に弁護士の資格を持つ橋下氏が理解を示したというのですから、批判されても仕方がないでしょう。それなのに、真っ当な批判を、橋本氏の間違った考えを上塗りするようにして批判し、それを動画にしてあげるのですから、それこそ、朝堂院氏の神経の方を疑わないわけにはいきません。

私は間違っても赤の他人を「馬鹿」と罵倒することは控えますが、限りなくそれに近い感情を持ちます。

犯人は自分が有利になるように、いくらでも嘘の供述をするものです。

41歳の英一郎氏と76歳の英昭では、体力に差があり過ぎます。それなのに、一方的に英一郎氏が刺されているのですから、英昭の供述どおりの状況でなかったのは明らかです。

英一郎氏は自室の布団の上であおむけになって絶命していたそうです。

当日、自宅に英昭の妻はいませんでした。息子を殺したあと、英昭は妻と電話で連絡を取り、自宅には戻らないよう指示したそうです。妻が家にいたのでは犯行を起こせないと考えたとすれば、突発的な事件でなかったことになりそうです。

ここで、再度橋本氏の発言を掲載しておきます。

近代国家の刑法としては、危険性があるだけでは処罰はできない。しかし、本当に他人を犠牲にしてしまう危険が自分の子供にあると判断した時に、社会が処罰できないのであれば、親が処罰するしかない。

これに手放しで賛成できる人がいるというのが信じられません。

世の中には思い込みの激しい人がいます。そんな人が、勝手にその人の思い込みで、「こいつは近い将来大変な事件を起こすに違いない」と決めつけ、その人間をめった刺しすることが本当に許されるのでしょうか。

また、その思い込みの激しい人を善人だ義人だと褒めたたえることが許されるのでしょうか。こんな思い込みの“私刑”を断じて許してはいけません。

子供を授かった親であれば、それがどんなに出来の悪いと親には思える子であっても、どこまでも自分の子の理解者であり、支援者であらなければなりません。その覚悟がなければ、結婚しても、子供を持つことを考えてはいけません。

サラリーマンであれば、働き出した翌月から給料をもらうことができます。しかし、アーティストのような仕事を選んだ人は、安定的に給与を得ることが難しくなります。

本コーナーでも過去に取り上げていますが、熊谷守一という画家がそうですが、東京美術学校を主席で卒業しながら、自分の進むべき道を確かにしたのが70歳ぐらいになってからと聞きます。

だからといって、それまでの70年近く、守一は何もせずに遊んでいたわけではありません。おそらくは、自分の家族を思い、また、世間の厳しい目も感じつつ、それでも自分の道を見つけられずに苦しんだのです。

その本人の内面も理解せず、もしも守一の親が一方的な思い込みで、「こいつはダメだ」とめった殺しにしたとしたらどうでしょう。そんな滅茶苦茶な話はありません。

別に守一ほど偉大である必要はありません。ごく普通の人生であっても、子供は親にはわからないようなことで悩んでいたりするものです。それをわかってやったり、多少のわがままを許してやるといったことが親の務めではないのでしょうか。

今から17年前の本コーナーで、 シュリニヴァーサ・ラマヌジャンの存在を知り、非常に興味を持って取り上げました。

彼は特別な教育は受けないままインドで育っていますが、成長してからも職に就かず、自分の好きな数学の可能性を追い求めています。

尊敬すべきなのは、彼の親です。裕福でなかった彼らは、自分たちが食べる分を削ってでも息子に食べさせ、未来がまったく見えないときも息子を信じていたのです。

彼らには、「何もしない駄目な息子だ。殺すしかない」といった考えは起こりようもなかったでしょう。

立派な子供でなくても同じです。子供を一番信じられるのは親なのではありませんか。それを一方的に放棄し、命を奪ってしまった英昭を許すばかりでなく、どうして称賛できるのですか。

私には理解できません。

私の両親は既にいませんが、生前、駄目人間の私は、両親から追いつめられるようなことは一度もいわれたことがありませんでした。親が望むような生き方ができず、親には心配のさせたままあの世へ逝かせてしまいましたが、のびのび生きられている今、親には感謝しています。

「一生を棒に振る」ような生き方をする人が稀にはいるということです。そんな考えを持つ人ですから、誰かに何かしてもらおうと考えてはいません。ですから、公共の力で助けましょう、なんてことは余計なお節介です。

朝堂院氏は、英昭の罪を軽くし、執行猶予のついた判決にすべきと述べていますが、もう一度、親子のあるべき姿に思いを馳せるべきです。

人知れず悩んでいたかもしれない英一郎氏を「狂人」「精神分裂」と決めつけたり、知りもしない適菜氏を一方的に「馬鹿」と罵倒するのも感心できませんね。

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