2004/02/02 ビリー・ワイルダーはお好き?

おとといの土曜日になりますが、また2本立ての映画を見てきました。それについて昨日書こうと思っていたのですが、あいにく風邪気味となってしまい、一向に頭が回らないため今日にずれ込んでしまいました。

実をいいますと、今日の方が風邪の症状自体は悪化していると思わないでもありませんが、こんな頭の回らない日に書くのも面白いのではないかと思い直したところです。また、文章を書くことで脳をリフレッシュさせ、風邪をどこかに追いやりたいという気持ちもあります。

そんなこんなで、いつもまとまりのない文章しか書けていませんが、今日はそれに輪をかけてまとまりがなくなりそうです。ということで、お読みになる方もその辺は覚悟のほどをお願いしますm(_ _)m

で、おととい出かけた劇場ですが、“2本立て”ということである程度察しがついたことと思いますが、最近足繁く通い、本コーナーでもそのたびにご紹介しています東京・池袋の新文芸坐です。少し前に本コーナーでも書きましたが、当劇場では現在「魅惑のシネマクラシック Vol.4」という特別編成がされており(6日まで)、その中の1プログラムを見に出かけたというわけです。

おとといの土曜日は、「ビリー・ワイルダーの洒脱な都会派コメディ」と副題があるように、名匠ビリー・ワイルダー(Billy Wilder/1906-2002:アメリカの映画監督。1906年6月22日、オーストリア〔現ポーランド領〕ズーハ生まれ。作「サンセット大通り」「七年目の浮気」「アパートの鍵貸します」など=広辞苑及び「ビリー・ワイルダー大通り」の解説ページ)監督作品2本の上映です。今回上映された2作品はいずれもよく知られた作品で、ワイルダー監督の代表作といってもいい『お熱いのがお好き / SOME LIKE IT HOT』(1959年米/シネカノン 出演:ジャック・レモン、トニー・カーティス、マリリン・モンロー、他)と『アパートの鍵貸します / THE APARTMENT』(1960年米/シネカノン 出演:ジャックレモン、シャーリー・マクレーン、他)です。

制作年代が古いということもあり、私はいずれの作品も劇場のスクリーンで見るのは今回が初めてです。もちろん、ビデオなどでは見ていた作品です。特に、『アパートの鍵貸します』は私の大のお気に入りの一本でして、これまでに何度見たかわからないほどです。シーンはほとんどが頭の中に入っています。

ということで、では、今日はこの『アパートの鍵貸します』1本に絞って書くことにします。

この作品の脚本を手掛けたのは、監督でありプロデューサーでもあるビリー・ワイルダーです。あるサイトの情報によりますと、彼は元々はオーストリアのウィーンで新聞記者やゴーストライターなどをしていたようですが、その後、彼の天性ともいえる脚本の道へと進路を換えることになります。

そんな彼は、当時台頭しつつあったヒトラー率いるナチ(国家社会主義ドイツ労働者党)によるユダヤ人迫害から逃れるため、アメリカンのハリウッドへ活躍の場を移します。

しかし、あるとき、彼が書いた脚本が、監督と出演者の独断によって変更されてしまい、失望します。そのことをきっかけに、彼はそれ以後、脚本と監督をなるべく兼ねるようになります。

ともかくも、そのように監督業以前には専門の脚本家をしていただけのことはあり、おととい見た2作品も脚本が練りに練られており、ただただ感心させられました。

『アパートの鍵貸します』のファースト・シーンは、1959年(だったか?)のニューヨークの摩天楼の空撮です。作品はモノクロームで、発展著しいニューヨークを表すように、ややハイキー・トーン(high-key tone:写真・映画・テレビなどで、ハイライト部分が大部分を占めている明るい画面の調子。ハイキー=広辞苑)に描写されています。

ニューヨークの高層ビルの一つが、主人公C.C.バクスター(ジャック・レモン)の勤める大手生命保険会社の社屋です。

シーンがオフィス内に切り替わると、デスクが整然と並んだ非常に広いワンフロアで、社員たちが自分のデスクに向かって黙々と仕事をしています。

今も昔もそうなのか、午後5時20分の終業時刻になると仕事をピタリと止め、急ぐように職場から出ていきます。

しかし、一人だけ残って仕事をする男がいます。彼がバクスターです。特に、雨の日にはオフィスで残業をすることが珍しくありません。だからといって、彼が仕事熱心というわけではありません。時間つぶしのために職場に残っているだけです。

彼はアパートで一人暮らししていますが、自分のアパートなのに、そのアパートへ自分勝手に戻れない事情を抱えています。

クリスマスが近いその夜も、彼は外で誰かが自分の部屋から出てくるのを待ちます。

“契約”どおり、中年男と若い女のカップルが出てきます。バクスターは彼らに気づかれないように物陰に身を隠します。彼らがいなくなったのを確認し、ようやくアパートへ戻っていきます。

彼は、部屋の前に敷いてあるカーペットの下からドアの鍵を取ろうとします。すると隣室のドアが開き、人のよさそうな老医師が声をかけます。

「何かお探しかな?」

「あ、いや、、、何でもないです。鍵を落としちゃったので拾っていたんですよ」

バクスターは慌てて答えますが、医師はいたずらっぽく笑い、こんなことをいいます。

「君は、お盛んですな。一体何人の女性とお付き合いされているやら。羨ましい限りだ。君のどこにそんなエネルギーがあるのか、一度検査してみたいものだ」

ドアの向こうに消える隣人に、バクスターはいいます。

「あなたのご期待には多分応えられないと思いますよ」

彼は自分の部屋に入り、“契約者”によってちらかった部屋を片付け始めます。そうやって一段落し、遅い夕食を独り摂ろうとしていると、突然ドアをノックする音が聞こえます。ドアを開けると、中年男が若い女性と立っています。

「急で悪いが、これから1時間、いや30分でいいから部屋を貸してくれないか?」

彼は、パジャマの上にコートを羽織り、ドアから出ていきます。

「終わったら、鍵はカーペットの下に挟んでおいてくださいね」

彼は、自分のアパートの部屋を、会社の重役たちに貸しているのです。重役たちが部屋で何をするかは知ったことではありません。若い女を連れてくるのですから、想像に難くありませんが。こんな“契約者”を4人も抱えているため、自分の部屋でありながら、自分の好きでは戻れないのでした。

気前の良さで重役に気に入られていることを知るバクスターは、これを足掛かりに、出世の階段を昇るつもりです。

こんなバクスターにも、心を寄せる異性がいました。エレベーター・ガールをしているフラン・キューベリック(シャーリー・マクレーン)です。彼女はチャーミングで、エレベーターに乗ってくる社員とも冗談を飛ばしあいます。

彼女とエレベーターの中で逢うのがバクスターの密かな楽しみです。彼女はバクスターの好意に気がついていません。彼が見る限り、彼女には浮いた話がなく、彼にチャンスがないわけではないように思われます。

映画『アパートの鍵貸します』の一場面

ある日、バクスターは重役のひとりから呼び出されます。その重役は、例の“契約”の話を誰かから聞き、自分もその仲間に入れてくれというのです。出世の算盤をはじいた彼は、それを受け入れます。アパートを管理する彼は、“契約者”どうしがかちあわないよう、これまで以上にスケジュールの調整に追われることになります。

そんな“努力”が実り、彼は出世の階段を昇っていきました。そんな彼に、転機が訪れます。

新しく“契約者”になったばかりの重役に部屋を貸したあと、部屋へ戻ると、床に鏡の割れたコンパクトが落ちていました。それを重役に返した数日後、その鏡が割れたコンパクト持つ人が彼の前に現れます。それが、憧れのエレベーター・ガール、フラン・キューベリックなのでした。

こんな切ない話ですが、コメディを最も得意とするビリー・ワイルダーの手にかかりますと、全編がペーソスに溢れ、ほのぼのと心が温まる作品に仕上がってしまいます。

主演のジャック・レモンとシャーリー・マクレーンがとてもいいです。ふたりから飛び出す台詞はユーモアに富んでおり、場内は温かな雰囲気に包まれます。

よく知られた作品ですが、制作されたのが昔ですからまだご覧になったことがない方もいるでしょう。ふたりの仲がどうなるかなど、この先のストーリーは伏せておきます。文句のつけようがない作品ですので、機会を見つけてぜひご覧になってください。

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