毎週土曜日の夕方の時間、私はNHK BSプレミアムで放送される英国のドラマ『シャーロックホームズの冒険』を録画して見ることを楽しみにしています。
明後日(25日)は、その第9話『ギリシャ語通訳』が放送されるということは、シャーロック・ホームズの前に放送されていた米国のテレビドラマ『刑事コロンボ』シリーズの放送が終了して2カ月ほどということになります。
私は、録画した『刑事コロンボ』の放送のうち、繰り返し見そうな回を七、八回分ほどは消さずに、レコーダーのハードディスクドライブ(HDD)に残してあります。
見るものが何もない時は、それを何度も見ては楽しんでいます。
昨夕は、シリーズ第19話の『別れのワイン』の一部を見ました。これが米国で初めて放送されたのは1973年10月7日、日本では1974年6月29日に初めて放送されています。
この回は多くの人に好まれているので知っている人が多いと思いますが、犯人役を演じたのはドナルド・プレザンス(1919~1995)です。また、その相手役の秘書をジュリー・ハリス(1925~2013)が演じています。
ハリスといえば、米国の映画『エデンの東』(1955)で、ジェームズ・ディーン(1931~1955)の相手役を務めたことで知られる女優です。
私がこの回の録画を消さずに残してあるのは、一般的にはマニアックな理由になるでしょう。端役のヴィト・スコッティ(1937~1995)の演技を何度も見てみたいからでもあります。
スコッティについては、本コーナーの過去の更新でとりあげています。
名前からもわかるように、スコッティはイタリア系で、本シリーズでも、それを活かした役を旧シリーズで5回、新シリーズで1回演じています。
彼は、コロンボを演じたピーター・フォーク(1927~2011)のお気に入りの役者のひとりだったそうです。
本作では、コロンボがプレザンス演じるワイナリーの経営をするエイドリアンを、ある意図をもって、高級レストランに招待します。
そのレストランの支配人が、本作でのスコッティの役回りです。支配人は、コロンボを当店の客には相応しくないと判断し、店内で最も条件が悪そうな、従業員が出入りに使うドアがすぐ脇にあるような席へ案内します。
そのあと、その席にエイドリアンと、ハリスが演じる秘書がやって来てコロンボとの同席を求めたため、支配人は予想外のことに驚いて、一倍いい席へ移らせます。
私は話の筋や、役者の演技とは別のことも意識して画面を見ていました。それは、色の表現です。
私は昔から映像というものに魅せられており、自分でも映像を撮っては、素人ながら、あれこれこと「研究」をしています。
本作について私が持つデータでは、誰が本作の撮影監督を務めたのかわかりません。オーソドックスな撮り方をしているので、おそらくは、ハリウッド映画の撮影を何作も担当した人(?)かもしれません。
一言でいって、色がとても綺麗なのです。フィルムのシネマカメラで撮影された作品ですが、的確に照明が使われ、どの場面も色が濃厚にのっています。
たとえば、夕暮れ時に、ワイン工場の側道でコロンボとエイドリアンが話す場面があります。
ふたりの正面に夕陽がある設定なのでしょう。そのため、時間帯としては顔が暗くなりがちなところ、夕陽があたっていることにして、暖色の照明をふたりにあてています。
コロンボがエイドリアンと別れ、エイドリアンの前方に遠ざかり、振り向いてエイドリアンに声をかけるシーンがあります。
そのとき、コロンボは背面から夕陽を受け、もじゃもじ頭の髪の毛に夕陽が反射するように撮影しています。そして、エイドリアンにカメラが切り替わると、エイドリアンの顔が夕陽色に見える、といった光の演出をしています。
これを、その場の光だけで撮影したら、このような魅力的な映像にはならなかったでしょう。
なお、上に埋め込んだ動画のはじめにコロンボが口笛を吹いていますが、これは、”This Old Man”というマザーグースにある手遊び歌だそうですね。
米国人には馴染のある歌なのか、ボブ・ディラン(1941~)も歌っています。
この場面より前に同じ曲を口笛で吹く場面があります。これはフォークのお気に入りの曲だそうで、「いろいろ、わかってきたぞぉ」と機嫌が良くなった場面でアドリブのように吹いています。のちにはこの口笛はシリーズ中にしばしば登場することになります。
日本の撮影現場のことはわかりませんが、米国で撮影監督というのは、照明の設定にも権限を持つと聞いたことがあります。原題は役割が多角化し、昔ほどの権限を未だに持つのかどうかはわかりませんが。
数あるコロンボシーズの中でも、本作の映像の色の良さは、上位に位置する(?)のではないかと思います。
同じシリーズであっても、作品ごとにスタッフは入れ替わり、映像づくりの考え方も違ってしまいます。
それとは別に、疑似夜景で撮影した場面もあります。下に埋め込んだのがその場面です。
エイドリアンは、夜の闇に隠れて、命よりも大切にしてきたワインのコレクションを海に投げ捨てます。
脚本ではそれが夜に行われることにされていましたが、晴れた日の日中に撮影されたことがわかります。しかし、それと気がつかない人は、夜に撮影されたと思う(?)でしょう。
撮影方法を想像しながら見ると、何度でも愉しめてしまいます。